1「ユウ、ラナソールに降り立つ」
エルンティアを後にした俺が次に辿り着いたのは、名も無き世界だった。
そこで俺は、一人の少年エスタと、一人の少女アーシャと、約一年もの時をともに過ごした。
他に人は誰もいない、原始的で静かな世界だった。
たった三人の旅だったけれど、二人とも無邪気で俺によく懐いてくれて、様々な場所を冒険した。
本当に楽しい日々だった。
今もあの二人は助け合って元気に過ごしているだろうか。遊び気分で無茶していなければいいけど。
その次の世界では……本当に色んなことがあった。
あまりに色んなことがあり過ぎて、今それをこの場で語るにはまだ気持ちの整理が付いていない。もしかしたら、いずれ語れる日が来るかもしれない。そのときまで待っていて欲しい。
ただ言えることは、この二つの世界の旅は、俺を一回りも二回りも成長させてくれた。
名も無き世界にいた超巨大生物たちやさらなる強敵との戦いを通じて、俺は自分の能力のポテンシャルを徐々に開花させつつあるように思う。エルンティアを旅した当時よりも、数段実力は付いたような気がする。
気付けば、わけもわからないまま異世界の旅を始めてから、約九年の歳月が流れようとしていた。これまでの人生の三分の一以上は、もうずっと旅を続けていることになる。
地球に居た頃に比べれば、あり得ないほど奇妙な人生だけど。慣れてしまえば、これが普通のようにも感じてきている。
さて、次の世界はどんなところだろうか。別れの寂しさとやり切れない悔しさは残っているが、気持ちを切り替えないとな……。
新たな世界への期待に胸を膨らませているのも確かだった。
俺は淡く輝く白い粒子の海、星脈に身を任せて、ここのところずっと流され続けている。
いつもの異世界転移。いつもの旅。のはずだったが、今回はどうも勝手が違った。
星脈の流れが急に滅茶苦茶になり出した。明らかな異常だった。今までこんなことはなかったのに。
それに、どういうことだ。身体中が、熱い!
『ユウ。大丈夫!?』
中から「私」が尋ねてくる。俺のパートナーであるもう一つの人格だ。
『君こそ無事か』
『ちょっと苦しい、かも』
『しっかりしろ。今行くから』
念じることで、俺は現実世界と、自分の精神世界のような――『心の世界』と呼んでいるが――特別な場所とを行き来することができる。
これができるのは主人格である俺だけで、「私」にはほとんどできない。『心の世界』は不思議なエネルギーに満ちた場所で、「私」の住処でもあった。
『心の世界』は、星脈の異変に当てられて、大きく揺さぶられていた。
二人で手を取って支え合う。
感じる熱さは収まらない。むしろますますヒートアップし、限界に達しようとしていた。
『あ、ああ……!』
『う、んん……!』
***
気が付くと俺は、地面に投げ出されていた。どうやら気を失ってしまっていたらしい。
いつの間にか着いていたのか。
身体を起こして辺りを見回してみると、どうやら何の変哲もない森のようだ。青々と茂る草木がどこまでも広がっていた。
すぐ横に「私」が倒れていたので、声をかける。
「おい。大丈夫か」
「う、うーん……何とか」
よかった。二人とも無事だったようだ。
……二人とも?
「「あれ?」」
ばっと立ち上がり、目を見合わせる。
俺はちゃんと服を着ている。「私」はなぜか素っ裸だ。
そこは大した問題じゃない。いやそこも問題だけど。
「「え」」
いや。いやいや。おかしい。絶対におかしい。
だってそもそもここは森で――『心の世界』じゃ――
気付いて、素っ頓狂な叫び声を上げたのは、同時だった。
「「ええーーーーーーーーっ!?」」
互いを指さして、盛大にハモる。
「「どうして君|(あなた)が、ここに!?」」
これが、この世界での大変な旅の始まりだった。
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