第17話 ミアの事情

 ギルドの依頼掲示板前で僕とミアは受ける依頼を悩んでいた。採取依頼か討伐依頼どちらを受けるかである。他にも依頼はあるのだが、自分達では出来ない依頼ばかりなので、この二つなのである。

 ミアは採取を、僕は討伐をと思っていたので、どちらを受けるか悩んでいたのである。


 どうやらミアは採取依頼ばかりしていたようで、採取系スキルがあるらしい。戦闘系スキルもあるようだが戦闘をあまり好まないようで、自身のレベルも低いため討伐依頼をしていないようだ。


 僕は前回が初の採取依頼だし、戦闘の方が楽なので討伐依頼を受けたいと思っているのだ。それにあの占い師の事を信じると、なるべく強くなっておかなければいけないだろう。ミアのレベルも一緒に上げておきたい。魔族と戦う事になる時にレベルが低いとミアを死なせてしまう可能性がある。それは避けたいのだ。


 少し場所を移して、なぜミアは戦いを好まないのか理由を聞いてみる必要があるな。


「ミアはなんで戦いたくないの?」


「……私には兄がいたんです。一つ上の」


 いた、ということは今はもういないのだろう。


「私の兄は村一番の実力者でした。村の近くにいた魔物も他の方と協力して全て討伐して、村は安全でのんびり出来るようになったんです」


 ここら辺の街は、近くの魔物をある程度残しているが、それも街の防備がちゃんとされているからだろう。ミアがいた村や他の街の事は分からないが、討伐して安全になるという事は村の防備はあまりされていなかったのだろう。


「安全に暮らせるようになって村のみんなの力は少しずつ衰えていったんです。魔物と戦う必要が無くなったんですからね。兄と私だけは違いましたけど。兄は少し遠出して魔物を狩っていたんです。私は兄に付き添っていただけなんですけどね。安全に生活出来るようになった結果、私達の村は力を失っていき、そのせいで私達の村は滅ぼされたんです」


「……何に?」


「たった一人の魔族にです。私達とは違う種の。あれは私達の村に突然現れてこう言ったんです」



【魔王軍に付く気はないか】



 魔王軍。占い師の話によると先代魔王は平和主義だったという。つまりその時にはもう魔王が変わっていたという事になる。


「私達はその時争いに参加する気はありませんでした。力も無くしていましたから。なので、断ったんです。そしたらそいつは攻撃してきたんです」



【魔王軍に入らないならお前達は必要ない】



「私達の村はたった一夜にして滅ぼされ、私以外全員が殺されました」


 もうミアには家族がいないって事か……。


「なんでミアだけ生き残ったの?」


「私は逃げ延びたんです。村の中で一番若かったから。他のみんなが私を逃がすための犠牲になったんです……。強かった兄でさえ……」


「そっか……」


 僕にはミアがその時どんな思いだったのかなんてわからない。わかった風に装う事も出来ない。それはただミアを傷つけるだけだ。


「ミア、僕は死にたくないし、ミアにも生きてほしいと思ってる。その為には力が必要だ。そしてこんな言い方はずるいと思うけど、ミアは敵討ちしたくないの?」


「したい、したいですよ!でも無理なんです!私には……無理なんですよ……」


「僕とならどう?僕と一緒に今から力をつけて、その魔族に出会った時に挑むんだ。二人で。それならどう?」


「……無理です。たった一人の魔族と人族だけじゃあ絶対に勝てないです……」


 ミアの為だ。しょうがないだろう。


「ならもっと仲間を増やそう。それと、普通の人族じゃなかったらどう?」


「えっと?普通じゃないってどういう?」


 僕は『隠蔽』を全て解いた状態のカードをミアに渡す。


「えっ?吸血鬼?でも、なんで?吸血鬼なら夜しか活動出来ないはずなのに」


「僕は半分だけ吸血鬼なんだ。吸血鬼の力を使える人族ってこと。それともう一つ、称号の所に『転移者』ってあるでしょ?それが示す通り、僕は転移してきたんだ。違う世界からね」


「違う……世界?そんなものがあるんですか?」


「うん、あるよ。僕もこの世界に転移されるまで知らなかったけどね。まあそんなわけで、ハーフ吸血鬼兼異世界人の僕な訳だけど、そんな僕とミア、それとこの先旅をして仲間になってくれる人が何人いるかわからないけど、その人とでならどう?勝てるんじゃないかな?」


「それでも……勝てるかどうかわかりません。挑んで、私もテツ君も死んでしまう可能性の方が高いと思います」


 そこまで強いのか……。占い師が言っていた魔族ってそいつの事じゃないか?


「でも、勝てる可能性はゼロじゃない。今やったら確実にゼロだろうけどね。だから確率を上げる為にレベル上げも兼ねて戦わない?」


「はい!わかりました。でも、久しぶりなので、多分全然動けませんよ?」


「そこは援護するよ。大丈夫」


 僕が笑ってそう答えると、ミアも笑顔を返してくれた。大丈夫だろう。


 今回受けた依頼は前回薬草を採った付近の森に生息しているジャイアントスパイダーの討伐だ。ただ蜘蛛をデカくしただけで特に脅威になる要素はない。糸もデカくなっているので、少し面倒くさいと思うくらいだろう。


 だが。


「ミア、そんな緊張しなくて大丈夫だから」


 ミアががっちがちに緊張していた。久しぶりだから仕方がないと思うのだが、何もジャイアントスパイダー相手にそこまでならなくてもいいと思うのだが。


「で、でも」


「大丈夫だって。安心していいよ」


「わかりました」


 すーはーと深呼吸を何回もして緊張を解いているようだ。その度に胸が揺れる揺れる。


「?どうしたんですか?」


「な、なんでもないよ〜」


「?そうですか?ならいいですけど」


 ミアはこういう時誤魔化しがきくからよかった。もしこっちの心情を見抜くような人だったら確実に弄られている。


 っとそんな事をしていたら気配感知に反応ありだ。


「ミアの右前方から魔物だ!」


「はい!集え集え集え集え集え!樹の精霊よ!魔物を拘束して下さい!」


 ミアの言葉が発せられた瞬間、周りの木々が飛び出してきた魔物に絡みつくように枝を伸ばし、魔物の体に巻きついて空中で拘束された。出てきたのは今回の討伐相手であるジャイアントスパイダーだった。


 僕が知っている魔法系のスキルじゃない違うスキルの力だろう。


「集え集え集え集え集え!樹の精霊よ!魔物を貫いて下さい!」


 魔物を拘束している木とは違う木の枝が鋭く伸び、魔物の体に傷をつけていく。ただの木ではジャイアントスパイダーの体を貫通させる威力は出なかったようだ。だが、このまま傷をつけていけばやがて倒せるだろう。


 さて、ミアの方ばかり見てないで自分の仕事をこなさないとね。さっきまではミアが相手にしているジャイアントスパイダー1体しか気配感知にかからなかったけど、今は3、4体に増えている。ミアの方に攻撃がいかないようにしつつ、ミアが戦闘に参加してくるまで足止めしとかないといけない。はっきり言おう。キツイ。デカイから『雷纒(大)』を当てやすいけど、当てても完全には麻痺らないようで、糸を使って移動していく。『土魔法』も駆使して何とかミアを守ってるけど、あと1、2体でも増えたら無理。追いつかなくなる。そしたら勿体ないけど、血を使って瞬殺しないといけない。血を使った方が敵の血を無駄にしなくて済むんだけどね。今はミア優先だ。


 ズドンッとミアの方から音が聞こえた。気配感知の魔物の反応が消えたから、ミアが1体倒し終えたのだろう。ミアが僕が相手をしている中の1体を拘束して、ダメージを与えていく。それをずっと繰り返した。途中、余裕が出来たので、『鑑定の魔眼(小)』を使ってジャイアントスパイダーの能力を確認してみた。(来る前に貰った血を飲んでおいた)



 ジャイアントスパイダー 『魔物』


 状態:麻痺(小)



 何回使ってもこれくらいしか出なかった。『鑑定の魔眼(小)』ではこれが限界なのだろう。また血を貰いたい。レベルとスキルが分かるようになれば、初見の魔物でも安全に倒す事が出来るだろうからね。



 ミアがまた1体ジャイアントスパイダーを倒したと同時に気配感知と危険感知が強く反応した。咄嗟に回避する。気配感知が反応している方向を見ればジャイアントスパイダーより一際デカイ蜘蛛が1体糸を出して木にぶら下がっていた。



 クイーンジャイアントスパイダー 『魔物』


 状態:普通



 どうやらボスの登場のようだ。

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