第116話 1番ダンジョン

「レミナ?私よ?母親よ?」


「……がう」


「えっ?」


「違う!レミナはお兄ちゃんとお姉ちゃんの子供!」


 レミナは震えながらもそう言い切った。


「失礼ですが、あなたは誰ですか?レミナになんの御用で?」


 震えてるレミナを背に隠し、いきなり声をかけて来た女性に問いかける。


「私、エトナと申します。見ての通り、受付嬢をしております。その、レミナは……」


「レミナちゃんは私達の子供です。お引き取り願えますか」


 ミアがかなり強気だ。レミナが震えてるからこそだろうね。


「そういう事なので。今夜、少し時間貰えますか?色々聞きたいので。またここに来ますから」


 後半は小声で周りに聞かれないように注意した。レミナの親とは一度じっくりと話をしたかったんだ。今の状況だとそれも出来ないからまた後でだ。


「……わかりました」


「という事でそれでは」


 いきなりの予想外にあったけど物事が順調に進んで行ってくれるのは嬉しいかな。






「1番ダンジョンに来たけど、行くのは僕とクロだけでいいかな?」


「私も行きます!」


「行く!」


「ミアとレミナは……まあいいか。クロも大丈夫だよね?」


「奥様も実力的にはこのダンジョンは大丈夫でしょう。レミナは本格的に魔物との戦闘をさせたいと思っておりましたので賛成ですね。武器のテストも行いたいですから」


 そう、レミナ用の変形武器の試作品が出来たのだ。特殊弾と一緒に宗介に手渡されたそれは魔力を流す事で剣、斧、槍に変形される。弓は弦がどうにも出来なかったらしい。


 そんなわけで4人でダンジョンに潜る。アカは暗闇の中で寝てます。

 銀ランクが最低ラインだと言うだけあって出てくる魔物は強かった。僕は相手してないんだけどね?


 ダンジョンでは必ず月の力による狼と蝙蝠を先行させている。蝙蝠が『隠蔽』により魔物の死角に入り『吸血』を行う。魔物が蝙蝠に気づいてスキルを使おうとして使えず慌てふためいている所を狼がスキルを駆使して倒す。これが一番ダンジョンに入ってからずっと起こっている。


『吸血』専門というだけあって蝙蝠の『隠蔽』『吸血』の効果が高く、僕より効率が良い。狼は『吸血』で得たスキルなら使う事が出来る為、ただの狼だと思って挑めば痛い目に合うのだ。


 狼・蝙蝠、レミナ、僕、ミア、クロの順で縦に並んでダンジョンを進んでいるがやる事が無さすぎる。


「月の力で呼び出された眷属の力はマスターの力が元になっています。このダンジョンの、しかもまだ浅い層で手こずる筈がありません」


 だそうで。一応僕も警戒くらいはしてるんだけど、狼の方が見つけるのが早いし、蝙蝠が『吸血』する方が早い。僕の反応速度より二匹の方が速いのだ。


 たまに獣人や冒険者ともすれ違うけどそれよりも速い。


「このダンジョン、何階まであるんだっけ?」


「判明している所で24階まで。ですが24階に出てくる魔物の種類からまだ下に階層が伸びていると思われます」


「どこまで続いてるのか気になる!」


「ゲイル達は攻略を目指してるだろうし、もしかしたら未到達階層まで行く事になるかもだね」


「でも無理しないで下さいよ?テツ君はすぐ無理するんですから」


「はいはい」


 そんな事を話しながら進んでたら、奥の方からドタドタと大きな音が聞こえて来た。


「ーーまだ!早く逃げろ!」


 僕達の方に冒険者と魔物の大群が押し寄せて来た。冒険者は3人。人族、獣人、ドワーフ。それに対して魔物は見る限り20以上はいるね。何か魔物を集める罠にでも引っかかったかな?


「何してんだ!逃げろ!」


「大丈夫です。動きを止めますよ」


 蝙蝠と狼も数の暴力には弱い。だから今回は下がってもらって僕が相手する。あんまり冒険者に手札は見せたくないけど、獣王に対して特殊弾を使っちゃったんだ。それなりにやろう。


「耳と目を塞いで!」


 二丁の銃から二つの特殊弾を放つ。一つは魔物の大群の目の前で、もう一つは魔物の大群の上でその効果を発揮した。


 特殊弾・閃光。特殊弾・音玉。その名の通り閃光を放つ弾と大きな音を放つ弾だ。


 魔物に特殊弾は効いたようで、目と耳がやられた魔物達は進行をストップさせた。それでも何ともない魔物もいるようで向かってくる。


「そーら」


 そんな魔物にお見舞いするのが次の弾。特殊弾・ワイヤーだ。『糸』の切断能力や粘着性など多岐に渡る領域範囲を使用して敵の動きを止める事から切り裂くなど色々な用途で使える特殊弾だ。今回は粘着性の高い、動きを止める弾である。


「僕は倒してもそこまで旨味がないからレミナ倒しなよ」


「はい!」


 レミナが変形武器・剣で閃光、音玉で動きが止まった魔物を優先的に倒していく。クロとの修行効果でスキルを手にしたレミナには動かない的など楽勝なのだ。


 どんどんレミナによって魔物が倒されていくと、逃げて来た冒険者も勝てると判断したか魔物退治に加わる。


 蝙蝠のおかげでスキルは増えてるし、レベルも今だと雑魚をどれだけ倒しても上がらないから経験値はぜひ他の人に渡したい。特にレミナ。クロのおかげでスキルは増えてるけどレベル自体は低い。身体能力向上のためにもレベル上げはしておきたい。


「終わった!」


「よし、よかったよ」


「動かない的でレベル上げも済んだ事ですし、1対1をさせたい所ですね」


 獣人であるレミナは元の身体能力が高い。最低銀ランクというダンジョンだけど1対1なら遅れを取る事はないね。スキルの効果も相まって逃げて来た冒険者達より強くなったみたいだし。


「すまない、礼を言う」


 無骨な獣人の人が頭を下げて来た。


「いえ、冒険者は助け合いですから」


「あのままなら俺たちは死んでたかもしれない。何か礼をしたいんだがあいにく手持ちはなくてな」


 今度はドワーフの人が。確かに手持ちは装備くらいしかなさそうだった。まあけどね、欲しいのは物じゃないんだ。


「あ、それならゲイルって人、知りませんか?このダンジョンに潜ってるって聞いたんですけど」


 ゲイルがどこまで下にいるかっていうことだ。今僕達がいるのが11階層。魔物との遭遇戦の時間が蝙蝠と狼のおかげで大幅カットされてるからかなり早いペースで来れてる。


「ゲイルさんか、あの人とは15階層で会ったよ。多分今頃20階層くらいには行ってるんじゃないかな?」


「そうなんですか。ありがとうございます」


 20階層かぁ。先は長そうだ。

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