第103話 悪巧み
「くそッ……。何なのだ奴は……。一介の冒険者でしかない筈なのに何故あそこまで大金を持っているのだ……」
そう愚痴を溢すのは好色家と周囲から呼ばれている一人の男。彼の前にはこの3日間の間に落札された品々が無造作に置かれていた。
「今日の奴の金遣いを見るに、3日間で私が落札したのは全て落札出来たはず。それが手元にあるという事は嵌められたという事だ!」
好色家は零が自分の金を減らしに来ている事にようやく気付き、あと2日間如何するかを考え始めた。
「今日奴は金を使い過ぎている。明日は無事手に入れられるだろうが……。奴が最終日のシークレットを逃すのは思えん。いったい何処から金を出している……?」
零は一介の冒険者が持てないような大金を持っていた。それもクロと分身を使って何十人もの物量で物を売りさばいているからなのだが、それを知らない好色家は背後に誰かがいるのではないかと考えた。
「失礼します。言われておりました調査が終わりました」
そこへ訪ねてきたのは、一人の男。この男はクロとリンに倒された者だが、戦闘より諜報関連を得意としていた。
「そうか。それで奴は?」
「はい。テツジョウ レイという冒険者だそうです。ランクは銀。仲間の方もランクは黄。ですが、あの戦闘能力は金に匹敵します。テツジョウ本人の戦闘能力は未知数です。武力で勝つには量を用意するしかありませんが、競売中にそのような事をすれば我々はおしまいでしょう」
「戦闘能力金だと!?だが、だからといってあそこまでの金を用意出来るはずが無い!」
「はい。私もそう思い調べた所、仲間の方に王女様がいらっしゃいました」
「なんだと!?では奴の背後には……」
「恐らく、国王様がいらっしゃるかと」
国王が背後にいるならば確かにかなりの大金が用意出来る。だが、好色家にはなぜ国王が背後にいるのかがわからなかった。
別に零に国王との金銭のやりとりは存在しないのだが、現在の状況はそう思われても仕方がないものになっていた。
「何故国王様が?王女様まで付けて。そこまで今回の競売に出される物は貴重なのか?」
「いえ。私の調べた限りではシークレットを除きいつも通りで御座います」
好色家は競売が開かれる度に参加しているため、今回と前回で相違点を探し出そうとしたのだが、特に見つかりはしなかった。
「ならば、シークレットか?怪しいのは最終日の物か」
「かと。しかしそうなると今度は何故国王様がシークレットの内容を知っていたのか、テツジョウを利用しているのか、という点が出てきます」
「国王様ならば問いただすだけで内容を知るくらいは出来るだろう」
「そう思いますが、商業ギルドは競売内容を誰にも明かしません。権力を使っても無理でしょう。ですから国王様が内容を知るのは無理で御座います」
商業ギルド、冒険者ギルドは国とは切り離された機関なため、権力が及ばないのだ。
「む……。まあこの際国王様が把握した方法などについては置いておこう。何故奴を使っている?」
「そちらでしたら。調べた限り、テツジョウは魔族を2度討伐しています」
「……なに?魔族をだと?」
「はい。一つは王都近辺。もう一つはポート近辺で。王都近辺では国王様自らがお認めになっており、ポートの方ではポートとアンヨドのギルドマスター2人が認めております。虚報という事は無いでしょう」
「魔族といえば黒ランクですら討伐は困難な3大陸共通の大敵だぞ!?それを奴が倒したと!?つまり奴の実力は最低でも黒。どんなに人数をけしかけても簡単に潰されるぞ!?」
冒険者ランクで黒を貰える者は化物と呼ばれても差支えがないほどの実力の持ち主だ。それが苦戦する程の実力を持っているのが魔族であり、それを倒している零は怪物と呼ばれてもしょうがない程である。一応、運で勝利したり仲間に頼って勝利したりなので、本当の実力はそこまでないのだが。
「はい。ですから未知数と回答させていただきました。もし、テツジョウが私達の事をあの時に問題にしていたなら、私達は終わっていたでしょう。命を取られずとも今までのような生活が送れなくなるくらいには」
「ぐ……。奴に情けをかけられていたというのか……。何か手はないのか!?」
「……どうやらテツジョウには同行者の中に妻がいるようです。そこを押さえることが出来ればたとえ国王様がいようとも手を出さないかと」
「それだと本格的に敵対し、奴の牙がこちらに向いてくる可能性もあるぞ。それと同時に国王様への敵対とも取られてしまう可能性がある」
「今現在、こちらの立場は非常に危険な状態にあります。そのため一度、私達は彼に謝罪しこちらへの警戒を解かせ、敵対意志がないと相手に思わせます」
「そして奴の妻を誘拐、か。敵対意志がないと思わせておけば、確実にこちらだと思われず、疑惑の範囲に留まるという事か」
「はい。ですが、謝罪してから直ぐに行動を起こせば何かあると勘付かれます。そのため、明日4日目で謝罪、5日目の最終日に誘拐し、シークレットを手にするのがいいかと」
「ならそれにしよう。だが奴は冒険者だ。気配感知などのスキルは当然の如く持っているだろう。そこらは大丈夫なのか?」
「ご心配なく。私は正面での戦いは弱いですが、裏での戦いなら遅れを取ることは御座いません」
「なら任せる。奴に頭を下げるのは癪だが、それで国王様が狙っているであろう物を横から掻っ攫えるのだ。よしとしておこう」
くつくつと笑う2人。ミアを狙った悪巧みが着々と進んでいた。
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