第83話 模擬戦再び

 場所はいつも特訓しているあの場所。


「神代とやるのは模擬戦以来か」


「うーんと、まあ、そうなるな」


 ん?合ってるはずだよな?


(うん。合ってるはずだけど……。やっちゃったかな……?)


「武器はどうする?流石にそのままでやったら危ないだろう」


 武器かぁ。確かにそうだな。銃は使わないとして短剣でも普通にやっちまいそうだからなぁ。


「木造の物を俺が持ってるからそれでやろう」


 神代がバックから木剣をポンポンと取り出す。軽く20本くらいあるが、いったい何に使うつもりだったんだ?


(さあ?他人の考えることはよくわからないから……)


「鉄条はこれでいいだろ?」


 木で出来た短剣を投げ渡される。短剣まであるとか準備がいいな。


「基本は何でもありでいいよな?」


「ああ。それじゃこの木剣が地面についたら始めようか」


 神代が木剣を上に投げる。そこまで力強く投げなかったようですぐに落下して地面に触れた。


 すぐに『雷纒』『雷歩』を発動し移動速度を上げ、派生の為の練習として『風魔法』を腕に纏わせる。


 横に流れるように移動すると、先程まで自分が立っていた場所に魔法が撃ち込まれる。


「おい、危ないから木剣にしたのに魔法使ったら意味ないだろ……」


 武器よりさらに危険な魔法をさらっと撃ち込まれた事に呆れる。何のための武器変更だったんだと。


「あ……悪い」


 魔法が使えない神代を抜きにした9人全員が謝ってくる。まさか9人全員が撃ってたのかと驚いた。何故なら威力が弱かったからだ。9人で美智永や仲原に届かない威力。これなら別に魔法無しにする必要もないだろう。


「あー、まあいいや。魔法も攻撃に加えていいぞ。避ければいいしな」


 多分だが、9人全員の魔法が当たっても其れ程危険はないと思う。傷が出来ても『回復魔法』で『自己再生』を誤魔化す事が出来るからな。だが、流石に面と向かって威力が無いと言うのはどうかと思い、避けると言っておく。こいつらが今から頑張り強くなれば魔族の注目がそちらに向くかもしれないからだ。


「分かった」


 返事と共に模擬戦が再開される。皆、武器が剣のため接近する必要があるが、神代以外の動きが遅い。神代にも雷纒バッジを渡してあるが、それを使わずに神代の方が速いのだ。レベル差がかなり開いているのだろう。


「神代、一応言うが雷纒バッジ使わないと追いつかないぞ」


 神代に雷纒バッジの使用を促す。このままでは俺の修行にならない。ただ一方的に倒すだけになってしまうからだ。


「分かった。使わせてもらおう」


 魔法を使えない神代でも、雷纒バッジのような魔法式が回路に付属している魔法道具なら使用して魔法を使う事が出来る。神代が持っている魔法道具は雷纒バッジだけらしいので使えるのは『雷纒』だけだが。


(鉱石が色々あるから戦力増強するために作るけどね。クラスメイト全員分)


 装備で実力差を埋めるのはいいと思うが、やはりレベル上げをして身体能力を上げないと意味はないと思うがな。圧倒的実力者に対しては無力なのは変わりないんだしな。


 神代が雷纒バッジに魔力を流し、『雷纒』を使用する。部位は足。神代の移動速度が目に見えて変わる。


「おっと。危ない。そっちの奴らも仕掛けてきていいんだぞ?」


 速度の上がった神代は、『雷纒』と『雷歩』を使っている俺にギリギリ届くか届かないかの攻撃が出来るようになった。


 元々の身体能力の差がレベルの差をどうにか埋めているのだろう。こちらが『雷歩』を使っているからまだ速いが。


 そんな速さを見てか足を止めた他9人に声をかける。速度の違いを見てから足は動かず魔法も撃ち込まれて来ない。そんな事で呆然とされては困る。


「っ、行くぞ!」


 長康の声で皆が再び行動を開始する。行動再開されたためか神代の剣筋も連携を意識したものに変わる。


 横から魔法が撃ち込まれる。速さを考慮し、神代の剣を避けるルートを考えた上での魔法行使だろう。なかなかいいが、それではまだ捉えられない。魔法も自分の自由自在に出来るのだから、高速で撃ち出せるようにしないと俺の速さなら避ける事が出来るからだ。


「っと、避けるばかりじゃなくそろそろ反撃するか」


(倒すなら周りからだね)


 神代から倒そうと思っていた所にアドバイスが送られてくる。確かにそちらの方が簡単そうだが、修行目的なのだから自分に厳しく行こうと無視する。


「ふっ!」


 短剣を神代に向けて投擲する。予想していたのか難なく木剣で弾かれる。短剣に付けた『糸』で短剣を回収しようとするが、手元に武器がないからか神代は懐に飛び込んで来る。


「待ってたぞ」


 俺はそれを読んでいて短剣を真っ直ぐ回収するのではなく、半円を描くように神代の背中を通して回収し、短剣に付けた『糸』と手から出ている『糸』を結び、短剣から『糸』を外して引っ張る事で、神代に『糸』を絡ませる事が出来る。


 今回、『糸』の性質は粘着性に特化させた。粘着性特化の『糸』は一度絡みつくと『糸』の操作権を持つ俺以外だとなかなか外す事は出来ない。


 その『糸』が神代の上半身に絡みついたのだ。一周しているため腕が体に引っ付くようになっている。これでは剣は振れないだろう。魔法も使えない神代はこれで戦闘不能だ。


「手助けしてやっても良かったのにな」


 粘着性特化の『糸』は少し目を凝らせば見えるくらいの細さだ。粘着性に特化し過ぎているせいで適当に魔法を当てればそっちに引っ付いて行くというのに。


「よっし、今度はお前らな。『雷歩』は解くから気張ってくれよ?」


 相手に配慮して『雷歩』を解き、『雷纒』と腕の『風魔法』だけで相手をする。『雷歩』と言われて何のことだ?と思ったようだが、目に見えて速度が下がった事が分かってからはなるほどなという顔をして相対していた。


 そして魔法が度々放たれてくるが、まだ避けられる。木剣も全く速くないので簡単に避けられる。


「おっと」


 背後から木剣を振られたので避ける。神代がどうやってか抜け出したか?と思って背後を見れば、そこには剣を振りかぶっている隼人の姿が。


「面白そうだし混ぜてくれよ!」


「まあいいが……」


『雷纒』だけだと不安だなと思い『雷歩』を再使用する事にした。

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