第56話 援軍

 だが、これをどう当てればいいのか、それが問題だ。アレウスはミアの水矢を受けて血を流しているが、動きは鈍らずにいる。そんな奴にいったいどうすれば当てられるのか。


「ミア、あいつの動きを止める事は出来る?」


「正直厳しいです。テツ君と一緒じゃなかったらもう倒れるくらいには限界です」


 限界と言いながらもずっと水矢を撃ち続けている。当てるのにミアは頼れないか。と、すると僕だけでやらないといけない訳だけど、炎天土天を発動中の今は魔法や暗闇なんて使えない。雷纒、雷歩、炎纒、土纒の4つが出力をかなり下げて使用出来てる状態だ。


 竜はこの炎天土天をブレスとして放ってきたけど、僕にはそんな事出来ない。ではどうやって当てるか、今は球体になっているこの炎天土天を直接押し当てるくらいしかない。


「いや、そうか。ブレス状に出来るんだったら……」


 とある事を閃き、試してみると成功した。炎天土天を銃弾の形にまで圧縮したのだ。それでも1発限り。ここぞという時以外には引き金は引けない。

 アレウスは水矢をどうにかして躱そうと常に動いている。この状態では無理だ。だが、水矢を止めるとアレウスは怪我など関係なくこちらに殴りかかってくるだろう。そうなると、水矢を止めるというのは無しだろう。


「僕がこの状況で1発、確実に当てられる隙を見つける、もしくは作り出すしかないって事だ」


 隙なんて奴にはほとんどない。水矢だって何故か当たっているだけでちゃんと全て躱してはいるのだ。すると、自分で隙を作り出すしか無くなるが、ここで問題がある。今は魔法などが使えない事だ。炎纒、土纒は炎天土天を使用する上で絶対に発動していなければいけないキーなので当然解除出来ない。雷纒、雷歩は発動していなければ、確実に奴の動きについていけなくなる。なのでこちらも解除は出来ない。どれかを解除出来れば他のが使えるが、解除は出来ない。


 今、持っている武器は短剣が5本と銃が1丁のみ。それ以外は全て暗闇の中だ。5本のうち、1本は透明球を使った短剣だが、相手が魔眼を持っているせいで他の短剣と変わらないものとして扱わなければならない。とりあえず、操作は出来るかと思ってやってみたが今は最高2本が自在に操れる限界のようで、それ以上やるとふらふらと揺れるような操作になってしまう。


 僕は短剣を1本しまい、アレウスの下まで走り、短剣で攻撃を仕掛ける。二本は操作して、もう二本は左手で持ち、右手には銃を持っている。短剣スキルのおかげで二本持ちをしていても自在に動かせている。


「あんな伏兵が居たなんてなぁ!楽しませてくれるじゃねぇか!」


 本当は伏兵のつもりなんて全くなかったし、ミアがここまで出来るなんて知らなかったんだけどね!


「二人でならアレウス、あんたに勝てる」


 手に持っている短剣を投げ、操作していた短剣を手に持ち、躱された短剣を操作して戦っていく中でこちらの短剣を避ける事で水矢に当たったり、水矢を避けようとする事で短剣が当たる事が多くなってきた。


「ちっ……」


 アレウスは全身に水矢を受けていて炎を出す事が出来ていない。それに攻撃も当たるようになってきた。これなら当てられるかもしれない。そう思った時、正面から衝撃が放たれた。


「ぐぁっ」


 吹っ飛び、背中を打つがすぐに立ち上がる。すると正面には水矢を受けているにもかかわらずどこも気にした様子のないアレウスがいた。


「もう避けるのはやめだ。どんなにやっても避けられねぇみてぇだからな」


 くっそ。そのまま避け続けてくれてればいいものを!


「そろそろ傷からの出血で危ないんじゃないの?」


「こんなん大したことねぇよ」


 やせ我慢とも取れるけど……多分本当なんだろう。ミアの限界もある。さっさと勝負を決めないと!


「………ちっ。さらに伏兵がいたのか」


「は?」


 伏兵?なんのこと?って思ったら頭上から長剣が二本、その後に女の子が降ってきた。


「……加勢する」


 降ってきたのはウサ耳が特徴的なリンだった。いったいどうしてここに?ギルド長の様子を見ていたはずじゃ……。


「……二人の事をみんな心配していた。だから来た。あの中ですぐに来れるのは私だけだったから。他のみんなもすぐに来る。それと、アンシアは大丈夫。後は元凶を倒すだけ」


 なるほどね。みんなも来るっていうのには心配だけど、今は猫の手も借りたい程だ。


「それじゃあお願いしようか。今、あいつの隙をどうにかして作りたい状況なんだ。僕の持ち札の中で一番強力なのを当てるために。ミアはもう限界、ミアの援護は無くなると思っていい。頼める?」


「……任せて」


 リンは二本の長剣を握るとアレウスの真正面から突っ込んでいった。そこで剣を振るったと思った瞬間、リンの姿は消え、アレウスの背後に剣を振るう状態で姿を現した。


 幻覚ってやつか?ってそうか。今は魔眼も発動出来てないからリンの幻覚に引っかかってるのか。


 アレウスは幻覚に惑わされる事なく、背後に現れたリンの長剣を片方の腕で受け止め、もう片方の腕で殴りかかった。リンは咄嗟に長剣を体と拳の間に挟みこんだが、大きく吹っ飛んでしまった。


 その間に僕は背後からアレウスを短剣で狙う。目標は頸動脈だったが、躱され裏拳で反撃を受ける。


「ぐっ……」


 ミアはもう立っていることも出来ないようで倒れ伏しているが、意識はあるようだ。


「これは………本当にまずくなったら炎天土天を解除するしかないみたいだな………」


 ダメージの回復が途轍もなく遅い。自己再生にも影響が出ているようだ。


「……そうならないよう頑張らないといけませんね」


「ミアがダウンしたからにはこれを決めないと勝てないからね」


 もっと色々と準備をしてから使うんだったよ。準備といっても出来ることなんて限られてたけど。


「……あの人、幻覚見破った?」


「僕と同じで魔眼持ちみたいだからね。幻覚に頼るのは無理そうだよ」


「……ん、了解」

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