第23話 旅支度

 ギルドから宿に到着し、ミアにアンヨドを出る事を伝える。


「ーーてなわけで、アンヨドを出ようと思うんだ」


「ダンジョンですか。そこならレベルが早く上がりそうでいいですね!私も付いていきます!」


 うん、付いて来るのは分かってた。というか僕は付いて来ないはずがないと思ってたからね。というよりも付いて来てもらわないと困る。秘密も話しちゃったし。隼人達が会った時にどんな反応をするのか……。楽しみだ。


「うん、そうだと思ってたよ。だから、明日、足りなかったら明後日も使って旅支度をしよう。色々買ったりしなきゃだからね」


 魔力圧縮機とかは王都で買おうと思う。持てる荷物には限りがあるし。魔法の鞄いくらだったかなぁ。今持ってるお金で足りれば買っておきたいね。


 そうだ、おばあさんにも言わなきゃね。なんだかんだで結局タダで泊まらせてもらってたし、血も貰っちゃったからね。


「おばあさーん」


「なんだい?」


「明日か明後日、遅くても明々後日くらいには旅に出る事になったんだ。それでお礼をと思ってね」


「そんなことかい。別にお礼なんていらないよ。あたしはあたしのしたい事をしていただけさ。ほれ、あんたにこれをやるのも最後だ」


 僕は血が入った小瓶を受け取る。これを飲めば『鑑定の魔眼(大)』になって称号まで見れるようになるだろう。


「あたしの血を渡したんだ。上手く使ってちゃんと生き残るんだよ。それとミアの事をしっかり守ってやりな。傷付けるなんてもってのほかだからね!」


「わかってるよ、そのくらい。自分の力を過信してるわけでもないから絶対無理と思うような時はすぐ逃げるしね」


「それならいいんだよ。2人仲良く上手くやりな」


「はいはい」



 おばあさんにも挨拶し終わったし、後誰か言う必要ある人いたっけ?ガリスさんとユメちゃんがいたな。そういえばここに着いて以来会ってないけど何処にいるんだろう?もしかしてもういないのかな?探してみるか。


 その前にギルドに来た。糸を持って行くってギルド長に約束してたからね。


「すみません、鉄条 零が糸を持って来ましたってギルド長にお願い出来ますか?」


「はい、ただいま」


 前回僕とギルド長が話してる時に一緒にいた人が受付にいて良かった。事情を知ってる人相手だとすんなり話が通っていいよね。


「奥までお願いします」


「はい、わかりました」


 今回もギルドの奥で話すらしい。奥で話す理由って何なんだろうね。金額的な理由かそれともクイーンの糸だからか。討伐報酬の10金が普通に渡されてるから金額的な理由じゃないと思うんだよね。 だって10金って普通に大金だよ?1銅=1円として計算しても10金=2000銀=400000銅になって40万円って事になるからね。もし日本にいて40万円持ってたら何に使うかなぁ。多分、ラノベとかゲームだろうなぁ。ラノベかぁ。続き気になってるのあったなぁ。


 そんな事を考えながら案内を受けて奥まで入っていく。前回と同じ部屋みたいだ。


「ギルド長さん、糸持ってきましたよ」


「ああ、ありがとう。全部出してくれるか。金額を決めるからな」


 鞄から糸を出す。結構まとめてきたけど、そこまでの量じゃない。僕がいくらでも出せたとしても、鞄の収納量には限りがあるからね。


「こんなに持って来てくれたのか……。よし、今すぐ状態と質を確かめてくれ」


 ギルド長が糸を全部職員さんに預けていた。状態と質って言ってたからそれも金額に左右するんだろうね。今朝出したものだから、質はともかく状態はいいはずだ。


「今回はすまなかったな。いきなり依頼を出したり、糸を持って来て貰ったり」


「いえいえ。僕にも旨みがある話でしたから」


 どうやって手に入れようか悩んでいた『鍛冶』スキルが手に入ったのは依頼のおかげだからね。糸の方もお金が手に入るからね。スキルだけじゃなく素材とかも色々準備しないといけないわけだし。


「そう言ってもらえるとこっちも助かるな。で、いつアンヨドを出るんだ?」


 まあわかりますよね。ダンジョンの話聞いたのギルド長からですし。


「遅くとも明々後日までには出ようと思ってます。まあ準備が出来次第ってところですね」


「そうか。旅の道中気を付けろよ。黒服連中がどんな奴らかわからないが、目をつけられた可能性もあるからな」


 多分僕は目をつけられてるんじゃないかなぁ。もう3回やっちゃったし。


「はい、気を付けます」


 ここで会話が途切れ、ちょうどよく職員さんが戻ってきた。


「状態、質ともに良いです。これは大金を出してでも欲しがる人がいるくらいですね」


 僕が出す糸ってそんないいのか。なら今度その糸を使った何かも作ってみようかな。


「そうか……。なら、30、いや40だな。40金だ。用意してくれ」


「はい、ただいま」


 40金ですか?糸が?糸だけで?クイーン討伐した報酬よりも高いんですか。そうですか。もうね、わけわかんない。


「えーっと、少しいいですか?」


「ん?なんだ?」


「なんで僕が持ってきた糸がそんな高値なんです?」


「まず、手に入る糸が少ないって理由で値段が上がるんだ。糸っていっても色んな用途があるからな。それで、普通のジャイアントスパイダーの糸じゃなく、クイーンの糸。これでさらに値段が上がる。クイーンの糸は頑丈だからな。岩が当たっても切れないんだ。そのクイーンの糸の状態が良好で、さらに質が良いときた。しかもあの量だ。あのくらいは出さないと割に合わないってわけだ」


 ふむふむ。この言い方だと別にアンヨドだから高く換金出来たってわけじゃなさそうだね。お金に困ったら糸を売ることにしよう。


 にしても合計50金かぁ。クイーンさんありがとうございます。これなら絶対魔法の鞄買えるな。魔力圧縮機も買って、あと鍛冶に必要な道具も買える。いやぁー、お金があるって素晴らしいね。


「ご用意出来ました。40金でございます。お確かめください」


 渡された袋の中に金貨がじゃらじゃら入ってる!なにこれすごい。


「ありがとうございます」


「お礼を言うのはこっちの方だ。ありがとう。またこの街に来てくれ」


「ええ、ぜひ」



 さて、ガリスさん達がいるかどうか探そうか。いるかもしれない場所っていうと何処かの店とかかな。荷馬車で来てたし。


 色んな店を回って訊いてみたらどうやらもうアンヨドにはいないらしい。声をかけてくれたらよかったのに。


 後声かける必要ある人っていたっけ?いないな。よし、準備始めるか!といっても保存食少し買ったりするだけだから特に準備するようなものもなかった。アンヨドに魔法の鞄があればいっきに全部買えたんだけどねぇ。


 ミアの方がもう少し時間がかかるらしいので、森に行って魔法式の勉強をしていようと思う。血でコピーしたものでも魔法は発動したので、それを少しずつ改変したりしてみたい。今ある魔法式に入っている文字は3種類みたいだ。色々とバラバラに組み替えて魔力を流してみる。発動しないな。式っていうくらいだからキチンとした形式があるのだろう。色々と種類があったら比較検証とか出来たのになぁ。


 魔法式は王都着いて、魔力圧縮機を買ってからの方が色々と分かると思うから保留にしよう。とすると、何をしようか。特にする事も無いんだよなぁ。ミアの準備の手伝いでもするか。


 ということで、ミアのところへ。ミアの気配は常に感知してあるから探すのが楽でいいね。


「おーい、ミア。手伝うよ」


「あ、テツ君ですか。それじゃあお願いします」


 ミアも最初会った時からだいぶ変わった気がするなぁ。まだそんなに日は経ってないのに。最初はいきなり泣かれたっけなぁ。ああ、人って変わるものだなぁ。


「必要な物はまだある?ここで揃えなくても王都に寄るよ?」


「あと1つですね。それさえ買えたらもう大丈夫です」


 おや、案外早い。これなら出発は明日になりそうだね。


「何が必要なの?」


「服です!」


 まあ服は必要だろうしいいけど、あんまり長くないといいなぁ。



「これなんかどうですか!?」


「う、うん、いいと思うよ」


 もう何着目だろう……。語彙力のない僕には辛すぎる……。どうやってこの地獄から抜け出せばいいのか……。店の人すらこっちを見ないようにしているし……。


「ミア、どれも全部似合ってるから。だからもう止めにして、どれを買うか決めよう?ね?」


 お願いします。僕もう無理です。


「わかりました。じゃあどれが1番良かったですか?」


「えーっと、青のスカートのやつかな」


 1番印象に残ってるのがそれくらいだった。1時間も繰り返しててよく覚えてたものだよ……。


「それじゃあそれを買ってきますね!」


 もう次からは服の買い物に時間をかけないようにさせなきゃなぁ……。



 ようやく服も買い終わり、出発準備が全部整った。


「明日にはもう出る事にするよ。ミアも準備は完璧にして忘れ物とかしないようにしてね」


「はい!わかりました!」

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