Ⅳ-14 墜落

 戦況は先程のような一方的なこちらの蹂躙じゅうりん、とはいかず乱戦に持ち込まれてしまう。

 一時はセイムを完全に捉えたかと思われたが、じりじりと後退を余儀なくされている。

 少しずつではあるが、確実にユニットも撃ち落とされ消耗しょうもうしている現状。このまま持久戦となると、こちらが大幅に不利なのは火を見るよりも明らかだ。


「……まずいな」 


 はじめから向こうが圧倒的に優位だとはわかってはいたけれど……僕たちの作戦が動き出すまでにあの2人が撃墜されたら元も子もない。



 ……そろそろ、か――!? 



「このままじゃジリ貧だ……! ちょっと早いけど、始めるべきじゃないか?」


 祈るような気持ちで、かたわらの少女に訴える。しかし、年不相応にしっかりしたメイド少女は首を縦に振ろうとはしない。


「……まだ、ダメです」

「でも! あの2人もいつまで持つか……僕たちは黙ってここで見ているだけなんて、もうこれ以上は――!!」

「信じるしかありません。それに……ピンチこそ、最大の好機。大丈夫です、大丈夫……!」


 陽乃ひのちゃんの手も小刻みに震えているのがわかった。

 

 そうか、この子も、こうして自分に言い聞かせているんだ。



 ――そうだよ、この計画は何よりもタイミングなんだ。

 急いては事を仕損じる、わかってはいる……わかっては……いるつもりだったのに。僕は再びキーボードの入力に集中する。

 ……そろそろだ。そろそろ、まとめることができる。あとはそれを――


「――!?」


 無理矢理にでも自分を鼓舞こぶしていたところに、目をおおいたくなる現実が叩きつけられる。蛇行する5機の、目にも留まらぬフォーメーションの前に、次々とユニットが撃ち落とされていき、ついには――


「我々を忘れてもらっては困るなあ、『宇宙そら御子みこ』らよ!」


 『禍津日』の本体が、被弾してしまった。機体は大きくよろけ、損傷はみるみると広がっていく。


「ぐうぅっ……まさか地球に降りた時の――!?」


 苦悶に満ちたナギの言葉に、答えて言う。

「そうよ、華夏かか国空の精鋭部隊『五王』! 我々も、ずっとこの機会を待っていた!」

「たかが1機に翻弄ほんろうされ、プライドを傷つけられた我々が、貴様らに一矢報いる瞬間を!」


 完全に『禍津日マガツヒ』は空に浮かぶただの的に等しい状態となっていた。……この機会を逃すはずもない。そこから先は、目も当てられない惨状だった。


「ああ……ああ……」


 一度捕まったらおしまいだとは、わかっていた。

 そしてその瞬間が訪れてしまった。

 

 ……どうしたというのだろう。

 目の前で、僕たちの希望がボロボロになっているのに。なぜだかまるで、アニメでも見ているかのようにいやに客観的に見てしまう。自分たちのことのように、受け止められない。


 やがて推進力も失った『禍津日マガツヒ』は、慣性に従い、空から――脱落。


ナギぃっ、那美ナミぃぃぃぃぃ――――――――!!」


 衝撃でこの家も大きくきしんだ。その時の地鳴りは、僕たちの町がいやだいやだ痛い痛いと悲鳴を上げているかのようだった。

 2人は、2人は無事なのか……!? 安否が気になるが、飛び出すこともできないのがもどかしい……!


「……機体は大破ながら、人型としての形は保っています。2人の生体反応も確認しました」


 そうか……!

 阿万原あまはらこよみの報告にひとまずはほっとした。……けれど、これで、もう――



「……ミジメなモンだね。新世界の『原理』に逆らうから、こうなるのさ」


 勝利を確信したのか、腕組みをして状況を見ているだけだった純白の機体が単機、墜落した現場へと降りていった。


「トドメは、ボクがさしてあげるよ。これでボクは、オリジナルであるキミたちを超えることができる」


 その機体から響く、あどけない声。そこからはナギ那美ナミの雰囲気も少なからず抱かずにはいられない。


 『アストロラーベ』はナギの父親であるエトリーと、那美ナミの母親である美名みまな花耶かやの遺伝子から生まれたクローン群。

 彼らは自らの血縁同士で、こんな争いをしている。改めて、その境遇のむごたらしさを痛感する。

 だが純白の機体のパイロットの声色からは気にも留めていないどころか、心から楽しんでいるような調子すら感じられる。

 

 かつてどこにでもあった平和な町並みに似つかわしくない、ロボットという異物。

 この状況の異常さを把握するすべを、もしかしたら彼は知らないのかもしれない。


 名も知らぬクローン体である彼の純白な機体。その手の甲から、刃状に収束されたビームが発生する。直接、コックピットを突き破る気か――!?


「安心していいよ。キミ達は死んでも永遠に生き続ける。ボクたちの『原理』に叛逆する、仮想敵としてね。よかったじゃないか、これで兄妹仲良くずっと――……!」



 間違った理想に突き動かされた凶刃が、今まさに振り下ろされようとしていた。

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