Ⅳ-11 困惑を撃ち抜く

 1年前は孤独に引きこもってた何でもない部屋は今じゃすっかり管制室代わり。


 何世代か前のご先祖様がしつらえた、いわゆる昭和の遺物ってやつだ。

 何度か修築は繰り返されてるらしいけど大本はそのまま。こんなやわな家なんて、最新兵器の攻撃など大それたものじゃなくても、ちょっとした風ですぐ吹き飛んでしまいそうである。

 挙句、部屋にある高度な機械といえば、今じゃすっかり旧式の家庭用MCDマルチコミュニティデバイス一つ。サイバー攻撃を受けたらこんなのすぐにスクラップ行きだ。


 どう考えても、無防備どころの話ではない。


 この状況では座して死を待っているようなもの。

 だけどそれでも、僕の家はチートじみた超兵器の加護で守られているし、なおかつ一大通信基地としても機能している。

 築うん十年、親さえも喜んで放棄したようなこの住処にそんなリソースを割く必要はあるのだろうかと言われたら、まったくの論外。

 世界を守る守らないがかかっていながら、僕の家族はそれでも、このなんでもない家を何が何でも守ることを選んだ。


 大馬鹿者だよ。子供じみてるよ。


 でも、僕もここにいる。 


 生まれてからずっと生活してて、引きこもってて。結局、ここが心の底から好きだから、なんだろうな。

 僕はどのような結果になっても、この戦いを、ここで最後まで見届ける。


 あいつらが帰ってくる、そのために――



「……出撃、したか。頼んだぞ、ナギ那美ナミ

「貴様も、な」

月読ツクヨミ。お前も準備出来たか」

「愚問。大野靖、ある意味貴様次第なのだからな。わかっておろうな?」

「……引きこもっていた間をムダにしないために、せいぜい期待に応えてやるさ」

「ふん……我の命、しばし預けるぞ大野靖」

「光栄ですよ、お姫様!」

 

 僕も動かなきゃ。2人の最前線を、見届けながらな――!



「……なあ、俺たちここまでやる必要があるのか?」

「だよなあ。これが世界的テロリストの隠れ家なんてお粗末すぎるよなあ」


 敵側の通信を傍受する。僕たちを取り囲むパイロットの中にもこういった常識的な人もいるようだ。

 このようなやり取りが公然と交わされているということは、相手はけして一枚岩ではないことのあらわれでもある。


「相手はたった1機。そのうえ大多数のメンバーはこどもなんだろ? そんなグループをよってたかって大人が叩くなんて、弱い者いじめじゃないか」

「首謀者の美名みまな花耶かやと大野靖が罪もないこども達を操っているというのが実情だと思うな俺は。そいつらを捕らえてしまえば、あとはこどもたちの更生の機会を設けるべきだ」


 ……聞いてて机から姿勢を崩しそうになった。

 僕はそんな風に思われてたのか。

 

 テロリストの首謀者。

 

 まあ年齢を考えたらそうなるわなあ……


「そう、だよなあ。こどもだろうが容赦なく殺せなんて厳命されているが、どちらが非人道的なテロリストなんだかわからなくなるよ」

「まったくだ。こんなのさっさと終わらせて平和な世界を――」


 彼らの会話はここで途切れることになった。


「な……!?」


 何が起きたのかわからない、という風だ。そりゃあそうだ、味方の僕でさえあまりに一瞬すぎて把握できなかったくらいだ。

 気がつけば、会話をしていた数機のうち1体を残してすべて肩部~胸部にかけて大穴を開けて力なく落下していった。

 これだけの電撃的な攻撃にもかかわらずコックピットと思われる部分を瞬時に見抜き、ギリギリのところで狙いを外している。

 他人事のようだけど、鮮やかなお手並みと驚嘆せずにはいられない。


「な、なんだよコイツ……聞いてないぞ!? こんな、こんな――!!」


 うろたえ逃げようとしたところで残った1機のパイロットが撃ち落とされる。

これも……いや、違う。あれは敵側の――!?


「はァ~~つっかえ。この程度で何を怖気づいてるんですか」


 ――!? この声? 

 僕たちを取り囲むその中央あたり……あ、あれは――!?


「皆さんご覧になったでしょう。これが奴らの力です。これほどの芸当をいとも容易くこなす者共に慈悲などいらないというのがわかったでしょう? こどもだろうが容赦しないでください――アレは生かしてはおけぬテロリストなのです」


 この声――陽乃ひのにそっくりだ。というよりはほとんどそのまま……


 まさか、こいつも『アストロラーベ』――!?


 機体のほとんどが白で覆われた『ラス・カノレ』のような人型。声の主はそれに乗ってると見て間違いなさそうだ。

 なるほどアイツがこの戦闘を指揮してるのか……?

 少年とも少女ともつかぬ幼い声に応える形で、2つの機体が隊列をわずかに進み出る。


「そうデス! ここで退いてはなりまセーン。アイツらこそ、我らが愛してやまない日本を乗っ取った悪の元凶。アイツらは『クチク』しなきゃなりまセン!」


 ……聞き覚えのある妙ななまり。

 そしてあの機体――僕はアレに追い回されたんだ。

 忘れるものか。アイツらだ、日本びいきが強烈だった、東欧の――


「1年……永かった、永かったぞ! ヴォルノスキ兄弟、再度……相見えん!」

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