Ⅳ-7 虚飾の栄達

 その後のことを少し話しておくとしよう。

 まず、2063年の宇宙戦。あの時の戦いで地球へと落ちていった西王林シーユイリンの乗る『大率タイスイ』は太平洋オーストラリア近海に落下。機体は四肢が消し飛び損傷も酷かったそうだが、王林ユイリンの命に別状はないらしい。

 このあたりは予想していた――『高天原タカマガハラ』含めて、大気圏突入に耐えうる設計をしていたのはほかならぬボク自身だからね。このあたりもステーションの研究員たちは信じられない、という顔をしていたが、ボクからしてみればむしろもっと頑丈にすべきだったと反省しているくらいだ。

 

 もちろん、宇宙ステーションの混乱を含めこれらのことは一部の上層部と『ヴェルテックス学派』以外には秘密裏に処理されたのだが――

 客員教授の丹智高をはじめとした地上の構成員はただならぬ危機感を抱いているらしい。それもそのはず、開発自体が極秘事項である『大率タイスイ』なぞを宇宙ステーションの積み荷に持ち込めることができるのは彼らしかありえないからだ。

 彼らからしてみれば、必ず成功しなければならないミッションがあったはず。それが、しかもいとも容易く退けられてしまったのだから、今頃大慌てのはずである。



 宇宙ステーション内の『ヴェルテックス派』研究員たちも、この内部対立の表面化を重く見ていた。先の戦闘で攻撃を受けた宇宙ステーション内の修理を最優先しながらも、組織の結束力強化を図る。


 その結果、混乱の責任を取って所長職を降りたセイミク教授に代わりボクが満場一致で宇宙ステーション所長に任命されたのだった。


 これまでの『天孫計画』を主導してきた功績と、宇宙ステーションの混乱の収拾、『高天原タカマガハラ』の操縦などの防衛面……などを買われての、異例中の異例の昇格だった。


 だがボクは知っていた。それは体のよい、厄介払いだということを。


 おそらくステーションの研究員は誰しも、無用の争いは避けたいはずである。そこで、誰もがわかりやすい「天才少年」をトップに持っていくことで、他の研究員との摩擦を抑えたといえる。

 その証拠に、やったらめったら裁可する書類の整理などの雑務が多く、とても実務――研究に実際に立ち会うことはできなくなってしまった。つまりは、所長という職をひとまず与えて慰撫しながら、ボクを研究から遠ざける処置であるということができるだろう。


 実際、あの事件以後ほかの研究員の態度が妙によそよそしいのは肌で感じていた。『高天原タカマガハラ』に搭載された『セルツェ』システムはボクと花耶カヤしか動かせない。あの時の戦いぶりを見て恐怖を抱き、距離を取ろうとしてもおかしくはないと思う。

 

 実際の研究を取り仕切っているのは、阿万原あまはらあかつきだ。

 ボクは花耶かやとの関係の後ろめたさもあって、彼に研究を任せることにしたのだ。あの事件を通じにわかに「雪解け」したかのように見えたボクとの連帯感も次第に薄れ、独断専行が強くなっていった。

 

 

 そして彼はその地位を背景に、『天孫計画』の第2段階『神呂号計画』に着手する。

 ナギの妹である那美ナミが産まれることになるこの計画だが――

 急速に変化する周囲の情勢に呑まれ、『ヴェルテックス学派』ひいては宇宙ステーションの命運すらも左右する一大スキャンダルへと発展してしまうのである。 

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