Ⅳ-6 宇宙戦、というにはあまりにも

「ふん、出てきたか。だが、緊急脱出用小型艇ごとき!」

 

 通信か。この声――やはり西シー王林ユイリン……!


「……西シー王林ユイリン! ――破滅願望があるのかわからないけど、人類の進歩のための研究を邪魔することは許さない!」


 宇宙空間を自らの庭と言わんばかりに縦横無尽に動き回るロボット。これが大王おおきみの守護者――『大率タイスイ』。ボクの設計したプロトタイプを元に作ったやつだっけ? もう実用化にまでこぎつけたのか、コソコソと!

 ……まぁ、今はそんなことどうでもいい。問題はこいつが今ボクの前に立ちふさがっている、という一点のみ。

 ボクたちはなるべくこの忌まわしい人型をステーションから引き離したかった。互いの距離を離しつつも、ステーションに当たらぬよう角度を調整しながらミサイルを照射する。

 『大率タイスイ』は碗部ビームで迎え撃つ。むろん、この程度で倒せるとは思っていない。だけど、このまま好きに弾幕を張られる展開は嫌うはずだ。案の定、ボクたちのあとを追ってくる。


「くっ……きさまらァァァ!」


 ……よし、それでいい。王林ユイリンが直情型の人間で助かった。

 

「……一緒に乗るのははじめてだったね。花耶かや

「そうね。こんな形になるとは思わなかったけど」

「もしかしたら、こうしてボクたちに戦闘データを取らせるためにけしかけてきたのかもね」

「そうだね。何も知らない人を使って。いかにもあいつらの好きそうなシナリオ。ヘドが出るわ」


「――お前ら、何をゴチャゴチャと!」

 

 碗部ビームを一心不乱に撃ち続ける王林ユイリン

 いかにも不慣れなパイロットという感じだな。もっとも、流れ弾がステーションにヒットしてはいけないからね。

 汎用小型遠隔操作ユニット『ヴォーラ』をコントロールする『セルツェ』システム。そしてそこから発せられる光学シールド『マッカ』。

 なるべく地上のヤツらには知られたくなかったけど――仕方ない。

 

「な、なんだそれは……!? なんで私の攻撃が!?」


 愕然としているのが声のトーンでハッキリとわかる。

 ……大人達の都合により利用される哀れな女性。

 ステーションを背にして戦えばこちらも手を出しづらいのだけど、それさえしない。「アストロラーベ」のプロトタイプとは聞かされているが……それにしてはずいぶんと……

 

「ナメられたもんだよ……! まったくね!」


 こんなことしている時間さえ惜しい。

 ならば――さっさと引導を渡しておくのがせめてもの慈悲ってものだろう。

 

「我が心なる『セルツェ』よ……やつを取り囲め」

 

 小さな群体が『大率タイスイ』の逃げる隙間を与えぬほど、取り囲むように輪を作る。


「……!? この小さいの、いつの間に……!?」

 

 異様な状況を察した王林ユイリンは、一心不乱にビームを浪費し続ける。攻撃と防御を両立するユニットの前では、蚊が刺す毒ほどの力もない。本体の出力に縛られた碗部ビーム程度、いくらでもビームシールドで無効化できる。


「き、効かない……だと!? くそ……くそ、クソクソクソ! お前は、お前はまた! また、私の邪魔を――ッ!」

 涙ぐましい抵抗だけど……それも終わりだ。


「全砲門、照射――」


 輪の中で不規則に飛び交う光の直線がいくつも交差する。なすすべもなく刺し貫かれていく人型の構造物。それはもはや、その光学的な美しさを引き立たせるオブジェでしかなかった。その巨大な、壊れて使い物にならなくなったオモチャは、そのまま地球へと吸い寄せられるように落下していった。

 

「お、落ちていくけど……いいの!? 助けなくて」

「大丈夫だよ。大気圏突入の際に機体の大部分はなくなるかもしれないけど、コクピットくらいは残るでしょ」

「……そ、そういう問題なのかな……」

「優しいね、花耶かやは。あいつは君に刃物を向けた女だよ」

「そ、それはそうだけど……」

「あいつはステーションに被害を与えただけでなく、誰にも知られてはいけないロボット兵器まで持ち出したんだ。それで失敗したとなれば、どのみち生かしてはもらえないさ……非情な話だけどね」

「……」

「そんな顔しないで。ともあれこれでボクたちに危害を加えようとする者はいなくなったんだから、さ」

 

 そうだよ。花耶かやがこうして無事なんだ。ステーションの被害も最小限に抑えられた。少しのイレギュラーはあったけども、これでまた、人類の大いなる前進のため研究にいそしむことができるんだ。もう何も問題はないはずだ――


 こうして、のちの世界史に「宇宙での最初の戦い」と記されることになる戦闘がここに終結した。だが、これは戦闘と云うにはあまりにも一方的な、蹂躙。

 圧倒的なまでの掃討劇は宇宙ステーションの研究者にも、またあの憐れむべき歯車の女性を刺客として送り込んだところの勢力にも、深い危機感を惹起じゃっきさせるものになってしまった。

 

 ――ボクたちの本当の戦いははじまったばかりだったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

新規ユーザー登録無料