Ⅰ-3 DOGFIGHT

 戦闘機同士との闘い―ードッグファイトっていうんだっけ?

 いつかはそういうこともあるかと思ったけど、まさかこんなに早いとは。

 少しくらい地球観光するヒマも与えてくれないだなんて、まったく空気に閉じこめられた星というのは宇宙ステーションの狭苦しさに負けず劣らずだね!


 そうこう無駄なことを考えているうちにすぐ追いつかれてしまった。

 なんて速度だ……戦闘機としての性能はあちらの方が上か。

 まぁ仕方ない。戦闘機として特化してるワケじゃないし、開発したパパも本来そっちの専門家じゃないからね。

 マシンスペックそのもので見劣りするならそれ以外のところで勝負するまで。『セルツェ』システムの武装で負けるつもりはない。


「小僧、さっきはよくもやってくれたな。お前らみたいなクソガキを、今度は大人がしつける番だ!」


 ――通信回線であちらさんの声が。

 しつけ、ですか。大人のそれはいつも斜め前だって、パパが自嘲気味に言ってたよ。

 

「『宇宙そら御子みこ』だかなんだか知らないが、我ら『五王』のフォーメーション、お前らみたいなガキには破れやしない!」


 ご丁寧にもこれからフォーメーションとやらを見せると予告してくださった。

 いくらシミュレーションしか経験してないと言っても、何かしてくると警戒していれば問題ない……!

 ――はずだったけど、やっぱり実戦というのはそう甘くはなかった。

 

「く……目が回る……」

 5つの機体が目まぐるしく行き交いながら『高天原タカマガハラ』の周囲を蛇行する。衝突スレスレで、一糸乱れずにり合わさっていくかのような動き――これが熟練操舵そうだ士の腕ってヤツか……!


 ……はっ、感心してる場合じゃない。


「……小手先の動きなんかで! 那美ナミ!」

「うん、わかってる。『ヴォーラ』射出……迎撃する」


 こちらには寸分違わず狙った照準に砲撃を撃ち込める小型浮遊ユニット『ヴォーラ』がそれこそミサイルのようにびっしりと搭載されている。

 変則的な動きでいくら惑わせようとも、速度から通過地点を予測し、遠隔操作で挟み込むように撃てば当たるはずだ。

「よし! 撃てっ!」

「……発射」

 狙いは外さない。那美ナミは予測していた地点に完璧に撃ち込んでくれる。……が、そこに現れるはずの敵機は、そのわずかに手前。

 くそ、タイミングをずらされた……!?


「狙いが素直だねぇガキンチョよぉ。そろそろ最初の速度に目が慣れてくる頃だと思ってたぜ!」

 

 計算ずくだったというのか、老獪ろうかいな――!

 その後も那美ナミは幾度となく精密な攻撃を繰り出しているはずだが、ことごとくすらりとした機体のこなしで回避されてしまう。まるで本当に自らの手足のような滑らかさだ。

 こんな動き、プログラム化されたシミュレーションの敵機ではありえない。

 

「生身ならいざ知らず、空中戦になれば俺達には勝てねぇよ。それに、狙った獲物を確実に仕留められるのはお前らの専売特許でもないんだぜ!」

 

 ミサイル……! 追尾型か!

 でもその程度の火の粉なら、振り払える!

 ……妹頼みだけどね!

那美ナミっ! ごめん頼む!」

「? ……何を謝るの?」

 妹はキョトンとしながらも自らの役割を淡々とこなす。あっさりと追尾ミサイルを撃ち落としているように見える……

 が、『セルツェ』システム――脳と宇宙ステーションとのリンケージは本来のヒトの処理能力を大幅に超えたもの。那美ナミへの負担は相当なもので、あまり長時間続けられるシロモノじゃないと聞く。

 

「へぇ……頑張るねぇ。でも我ら『五王』の連携をいつまでそうしていられるかな?」

 

 これでもかと言わんばかりのミサイルの雨霰。あいつら、勝負をつける気だ。

 これなんかのアニメで見たな。なんとかサーカス、だっけ……?

 しかし要所要所でタイミングをずらして射出しているため、かわすのも迎撃す

るのも一苦労だ。


 那美ナミばかりに負担を強いるわけにはいかない――


 ぼくも微力ながら機銃やレール砲といった非『セルツェ』の武装である程度弾幕を張る……けど、やはり1機のみの武装だけで5機の変則射撃に対応するには限界がある。那美ナミの身体も心配だ。


 防戦一方ではいられない。

 さっさと勝負をつけなきゃいけないのは、こちらの方だ。

 今後のことも考えたら、これ以上の弾薬の消費も惜しい。可能な限り最小限の消費で、カタをつける。

 

「このままじゃジリ貧だ。……那美ナミ、防御は任せた!」

「……任された。『セルツェ』システム、光学シールド防御『マッカ』展開」

「衝撃に備えて! ……那美ナミ、行くぞ!」


「そろそろ終わりだ。怨むなら宇宙ステーションで産まれた自分自身を怨むんだな!」

 これまでで最も多いバラマキ……目がくらむようだ。だがこれをいちいちかわしていく気もない。

 特攻上等。ここまできたらイチか、バチか!


「うぉぉぉおぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」


「九千歳! 敵、突っ込んできます!」

「……イカレちまったか? 来るぞ! 八千歳、七千歳!」

「わかってますよ!」

「……俺達がこんなヤツらに捕捉されるわけないでしょ?」

 機体全方位に張り巡らせた浮遊小型ユニットのビームシールドで、降り注ぐ豪雨のようなミサイルの乱舞を受け続ける。いつまで保つかわからない怖さはあるけど……逃がしはしない。

「――こいつら減速どころか、ますます速度を……特攻のつもりか!?」

 ……あいにくだけど、そのつもりはないね。生きるための突撃だ。

「動揺、焦燥……感じるよ、わずかなほころび」

「撃てぇぇッ!」


「!? 挟み撃ち!? う、うわぁぁっ、来るなァッ!」

「ば、バカ! 七千歳、隊列を乱すな!」

 『セルツェ』システム―ー浮遊ユニット『ヴォーラ』の包囲の恐ろしさを見せておいてよかった。いったん捕捉してしまえば、こちらのもの。

「……こんな、ところで……すみません、九千歳……」

 やった! やっと……1機。こちらはフォーメーションなどせずとも独力で十字砲火できる。システムの強みをやっと発揮できた感じだ。

「……コクピットの直撃は避けた。死なないでね」

「よし! ……この調子でいくぞ! 那美ナミ!」


「ガキが……調子に乗るなよ!?」

「……おい八千歳! ……ダメだ、熱くなっちまってる……」

 単機でくる……やっとフォーメーションが乱れた。那美ナミは残った攻撃ユニットで機体両翼を射抜いた。1機が相手なら、どうということはない。

「……バケモノだ……」

 さっきのパイロットのつぶやきが聞こえた。……バケモノ、か。

 遺伝子レベルであれこれいじられてるからね。他人と比べる環境になかったからわからないけど……普通では、ないのかもね。


「七千歳と八千歳が……九千歳。どうしますか……?」

「六千歳……」

「相手はたかが1機。2機落とされたといって、我々の優位が変わったわけではありません。こどもの操る1機捕らえられず撤退なんて本国の笑いものですよ」

「五千歳……」

「五千歳。お前は血気にはやりすぎだ。あいつらがただのガキじゃないことはもうわかったろう。幸いやられた2機は完全に爆破されたわけじゃない。2人も離脱できているはずだ。2人を回収し、体勢を立て直すべきだ」

「そうはいうが六千歳……!」

「―ー来たぞ! 五千歳!」

「なっ……!?」

「危ない!」

 ……咄嗟とっさにかばった!? 3機のうち1機が、ターゲットにしていた機体の代わりに『ヴォーラ』の連撃を浴び浮力を失い、落下していった。

「シャオ!」

「……五千歳、撤退だ。3人を回収するぞ」

「――ッ。了解……!」


 残った2機の戦闘機が落ちた仲間の元へと降下していった。

 ……ふう。なんとか、追い払った、か。


「……はぁ、はぁ……」

「大丈夫? 那美ナミ

「……ん。なんてことないよ、お兄ちゃん」

 そうは言うけどこの子はキャパの限界以上までがんばろうとするんだ。

 それが危なっかしくて仕方ない。

「とりあえずはどこか休める場所で身を隠そう」

 僕たちは再び単機、航路を進めるのだった。

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