Ⅲ-8 戦闘と機転

「今だ! 行けェ!」


「はい! みなさん、私に続いてください! 総員……強行突破です!」


 銃声が合図だなんてまるで徒競走でもやっているような感覚だ。

 あの2機の注意が月読に向いているこの隙に乗じて、一目散に『大率タイスイ』のもとへと走っていく。


 『セルツェ』システムと物体の時空転移は同時使用できない。

 それなら『セルツェ』を統率しているママが時空転移を発動するよう仕向けることで強制的に『セルツェ』のバリア『マッカ』を打ち消せばいい。

 ……これが月読つくよみの戦いに干渉せず、かつ私が力を使わずに『マッカ』から出る方法だった。なるほどあの和寧わねいの人、よくもまぁこんな作戦を思いつく……!


 ママもよもや内部からバリアが破られるとは思ってもみなかったのだろう。心の底から驚いたといった調子で私の脳内へ直接賛辞を贈る。


「よくも私を出し抜いてくれたもんね……やるじゃん」


 あはは……本当に、無茶をしたものです。


「それで……? ここからはどうするの? 『マッカ』の加護を離れあえて危険を冒すなんて……失敗したらお母さん怒るわよ」


 その心配はもっともだと思う。


 あえて絶対防御のバリアを捨てるだなんて、愚策でなくてなんだろう。

 でもだからこそ敵も想定外であるはずだし……もとより失敗など……!



 だが敵もはいそうですかと易々と罠にハマってくれはしないようだ。

 ズゥゥン!という轟音ごうおんと共にわたし達のすぐ横の地面がえぐり取られる。

 ……くっ、もう少し誤魔化せると思ったんだけど。ふざけた態度に似合わずなんて隙のないやつらだ……!

 わたし達は洪水のように舞い上がった砂をよけながら進む。


「ちぃっ……いくら小さな人間といってもさすがに動く的だな……!」


 ……だがここにきて計算外のことがあった。わたし達は何かしら特別な訓練を受けている。

 パパはパパで眠ったままの妹さんをおぶっても私達のペースについてくる。

 だからとんでもない見落としをしてしまっていたのだ。


 わたし達が特別な訓練を受けている『逸般人いっぱんじん』であること。なおかつ――


「……ぜぇぜぇ……ま、待って……キミタチ……は、早すぎるって……」



 ここ十年まともに外出せず、ひきこもりを続けてた運動オンチがいたことを。



 ただひとり、完全にバテてしまっている。なんてことだ……知らず知らず自分たちを基準に考えてしまっていた。


 でもこの人1人のペースに合わせていたら全滅はまぬかれない。

 ……どうする!?


 

 いや、考えるまでもなかったな。



「!? ――陽乃ひの、ちゃん何を――!?」

「ごめんパパ。……みなさんは先に乗っててください! 大野様を助けます!」


 独り反転し、音を上げている彼の救護に向かう。



 あの人はわたしが巻き込んでしまった、本来無関係だった人だ。


 それにさっきはあの人がいなければ月読つくよみにやられてしまっていたんだ。

 ……万が一、わたしがここで命散らしたとしてもタイミングが少し遅くなっただけのこと。後悔などしません……!

 わたしは以前そうしたように、再び大野様に肩を貸して前に進む。

 大野様は、目に大粒の涙を浮かべていた。ご自分を責めていらっしゃるようだった。

「……ごめんな、頼りないヤツで……」


 最初はただ被害者意識に酔っていただけの人が、ここまで――


「余計なことを気にしないで。今は少しでも歩いてください」

 むしろ謝るのは、わたしの方なんだから。


「仲間を見捨てられず、か。さすがはWAの国民。情に厚いじゃないか……だがオレは兄貴と違って甘くはないぜ!」


 上空の敵機が再び砲撃準備に入る。


「幼い少女を撃つのは本来主義じゃないが……大いなる正義のため。せめてラクに冥府に送ってくれる!」


 ……さすがにここからパパたちとの合流には間に合わないか。

 じゃあわたしの役目はここで終わりということなんだろう。


陽乃ひの――!」


 ママがしらせてくれたのか月読はこちらに救援に向かおうとしてくれたようだが、どことも知らぬ幼き声色の兵士は不相応なほどの老練ぶりで取り付いてくる。


Hejヘイヤポヌカ! よそ見してる場合じゃないぜ!」

「……ぐっ!」


 『禍津日マガツヒ』の行く手が阻まれる。――どうやらここまで、か。


 ママ……この先みんなを導いてくださいね。



 だがそうやって決めた最期の線引きは所詮わたしの思い込みだったようだ。



 朝ぼらけの空を切り裂くような黒い影が上空をはしる。

 あれは――……小型宇宙艇『高天原タカマガハラ』形態。


Achアフ! ……変形!? 」


 なるほど……変形する動作そのもので敵の突撃をかわしてしまうとは……

 ――阿万原あまはら月読つくよみ

 先程機転を利かせたアルジといい、つくづく今は味方で助かりますね……!


「……ふん。オレの『カジミェシュ』も生身の人間を撃つより、こっちの方が性に合う!」

 上空を陣取る敵がすかさずバズーカで応戦する。

 だが、『高天原タカマガハラ』の機動力はその大仰なバズーカなどでは捕らえられやしない。



 ……よし。うまく敵を引きつけてくれているうちに、わたし達も急ごう。



「この……うざったいハエが!」

「冷静になれ弟! そんな無駄撃ちお前らしくもない! これではオレが援護しようにも流れ弾に当たりかねん!」

「……わかってる! わかってるけど、コイツは ……! ――はっ!?」

 すさまじい速度で突撃する『タカマガハラ』。そのまま体当たりする気か――!?


「カミカゼ……! Jesteś szalona狂ってる!」


 衝突しそうになるほどの距離まで肉薄したその刹那、目の前で再び人型の『真人マヒト』形態――『禍津日マガツヒ』に急速変形。呆気にとられて棒立ちの敵に振りかぶった拳を振り下ろす。敵機は地面に激しく叩きつけられた。



「セイムーーーーーーーッ!!!!」



 『大率タイスイ』の碗部ビームがもう1機の『シュラフタ』を捉える。

 ……おかげでなんとかみんなで乗り込むことができましたよ。すし詰めのようになってはいますがね。

 兄貴と呼ばれていたセナトは弟・セイムの方を見やる。

「……弟! 無事か? 起き上がれるか?」

「……なんとか、ね」

 弟・セイムの方の『シュラフタ』も立ち上がる。

 兄・セナトは苦虫を噛み潰したような声で「……撤退するぞ」と告げる。対する弟の方はその決断に不満げだった。


Nieやだね! ……兄貴、オレの『シュラフタ』ならまだあの程度……」

「セイム!!!」

 最初はおどけた態度だった兄セナトの怒号に周りの空気も張り詰めた。

 その姿に血の気のはやる弟をいさめる『兄貴』らしさを感じた。阿万原あまはらこよみのような、猪突猛進型のいなしやすい男だと思っていたけど、こんな一面もあるのか。


「数の上での戦力差などアテにならないのがヤツら『アストロラーベ』だ。態勢を立て直されればこちらに勝ち目はない」

「……チッ!」

 セイムはこれまででこれまでいちばん大きな舌打ちで悔しがった。プライドの高さを感じさせる。


「……さらばだヤポニャの怪物よ! また会う日まで! ナ・ラヅィエまたな!」

 対照的にセナトはまた元のようにおどけてみせる。……まったく、感情の起伏が激しくて忙しい人達だ。

 『シュラフタ』2機はきびすを返し、曙光しょこうの彼方へと飛び立っていった。



 ……なんとか追い払った、のですかね。

 かくしてパパとわたし達――それぞれの長い一日の戦いは終わり、海雲台ヘウンデビーチは静寂を取り戻したのだった。

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