西の騎士&ファーシャスタン編

Ⅲ-7 西の兄弟騎士

――2047年。再び釜山プサン海雲台ヘウンデビーチ


「『マヒト』との同期開始……セルツェ改システムスタンバイ」


「!? 阿万原あまはらこよみ――!?」


 気付くとわたし達は、おびただしい量の浮遊ユニット『ヴォーラ』に包囲されていた。


 パパとの出逢いに安らいでいたわたしを再び闇へ誘わんとするかのように、漆黒から顔を覗かせる『禍津日マガツヒ』。

 ――つい数時間前今生の別れをした彼女だ。わたしだけこんな幸福なのは許せるはずもない。


「……ツクヨミ」



 しかし、どうする和久陽乃わくひの……?


 彼女からシステムを奪い返すことはできる。

 けれどそれまでの一瞬、たった一瞬だけで彼女は充分と見ているはずだ。

 わたしと刺し違えるか、はたまたパパを……。

 あの子はあの子のパパ――阿万原あまはらあかつきじゅんじて自爆しようとしたくらいだ、そのくらいの覚悟でやってくる。



 ……ここはわたしだけでみんなをまもらなきゃいけないか……!



 そうこう考えているうちに浮遊体ユニット『ヴォーラ』から発せられた光に取り囲まれていた。

 

 そうか違う、これは――

 

 果たしてわたし達を覆っていた光『マッカ』は、飛来した炸裂弾の爆発から護ってくれたのだった。

 阿万原あまはら月読つくよみはわたし達を……にしても、この砲撃、どこから――!?


「驚いたね! 光のシェルターだなんて! さすがはヤポニャの技術力!」


 ヤポニャ……? 日本のこと?

 東洋の言語じゃない? 声は少年といったくらいの高さだけど……?

 声のする方を見やると、上空に2機。肉眼でも確認できる。

 すらっとした細身の、人型だ。『時を刻む国』発祥の『大率タイスイ』型とも『ラス・カノレ』型とも違う……?


「バールゾ・ミ・ミウォ! ハジメマシテ! さっきのはあいさつ代わりさ! でもソデにされた? だっけ? ザンネン!」


 何語だ? すぐには判別できないってことは、西欧じゃない……北欧か、東欧か? そんなところに人型ロボットを配備できる勢力があったのか……?

 2人はおしゃべりが好きなのか放っておいてもあれやこれや口をついて出る。


「それにしてもその姿、恐ろしいね」

「『時を刻む国』の秘密兵器『マガツヒ』。データ通り、まるでサタンのように凶暴な姿じゃないか」


 ……な――!? 今、なんて……!? ……!?

 なるほど……筒抜けってことですか。


「お前はオレたちが敬愛してやまないヤポニャに巣喰う悪! 行くよ兄貴!」

Takああ! セナト・ヴォルノスキ、『シュラフタ』! 推して参る!」

「セイム・ヴォルノスキ、同じく『シュラフタ』! 撃つよ!」

 ……こちらに向かってくる。 ……まずい。四の五を言ってられない。

 多少強引にでも――指揮権をわたしの元に戻す……!


「……ぐ……!」


 だが予想以上に先の戦いで疲弊ひへいしていたのか、うまくシステムにアクセスができない。頭がガンガンに痛い……。


「ヘイ! 見せてくれよ、武士道!」


 レイピアの形状をした刀を抜き、迫り来る新たな敵。

 

 速い――

 だが、『八十禍津ヤソマガツ』ほどじゃない。

 

 その搭乗者だった月読つくよみが、その夜の更けないうちにわたしの『禍津日マガツヒ』に乗っているのだから、どうなるかわからないものだ。


「……ふん、日本かぶれの東欧人か。まったく次から次へと!」


 月読つくよみがわたしに代わり『禍津日マガツヒ』で応戦する。

 わたしとほぼ対等に渡り合ったとはいえ……彼女に『禍津日マガツヒ』を操れるのか……? だがそれも杞憂きゆうだった。


「――消えた!?」


 一瞬だけ周囲に幻の映像を仕立て正しい位置を誤認させる――原理を知っているわたし達であっても初見で対処するのは難しい。魔法でも使ったかのように消えたと錯覚してしまうだろう。


Ojejオゥ……東洋の神秘。まさにニンジャ!」


 いちいち大袈裟に感心してみせる敵機のパイロット。

 やれやれ、脳天気ですね……だが今の攻防でわかった。

 いかにスピードがあろうが、取るに足らない。


「スバラシ――……ぃ!?」


 敵の目の前で拳を寸止めする。

 わざわざ武士道とやらの流儀にしたがう義理もなければ、ヘタに武装を出してこれ以上手の内を見せる必要もない。


「……ね。あいにく我は今、気が立っておる。次は手心を加えてやれるかわからんぞ……?」


「これがヤポニャのスン・ドメ…クール……」

「……ふざけてるのか? きさま」

「オゥ……ホンモノのヤマトナデシコはコワイね……」


 上空から砲撃が降り注ぐ。

 なるほど、最初の攻撃はあれか……たまらず月読つくよみは距離を取る。わたしたちを護る『マッカ』でシステムのリソースが使われていなければ押し切れたろうに。


「兄貴!大丈夫かい?」


ジェンクイエンありがとう!  やはり頼れるはセイム、我が弟!」

「どういたしまして。むしろいつも兄貴の騎士道の邪魔をしてすまないね」

「なぁに。崇高な理念も命あってのなんとやら。正義は常勝でなければね!」


 なるほど。単なる蛮勇と思わせておいて、なかなか切れ者なのかもしれない。取るに足らないという評価は早めに撤回しなければならないかな……!


「ヤバくなったらまた援護するよ、兄貴」

ドブジェオーケイ! ……自慢の大砲『カジミェシュ』、今日もアテにしてるよッ!」


 2機の息のあった連係にさすがの月読も防戦になる。これもやはりわたし達の存在がかせになっているのだろう。……これ以上わたしが足を引っ張るわけにはいかない。


 まだ『大率タイスイ』が1機、誰も乗っていないのがある。それに乗れたら――


 だがこのままではわたしたちを覆っている『マッカ』の傘から出ることもできない。これをなんとか解除しなければ――!

 ……ああぐっ……頭が…割れそうだ……!

 ……くそっ、この脆弱ぜいじゃくな身体が恨めしい……!



 そして問題は、どうやら光の外にいる敵やわたし自身の身体だけではなかったのだ。



「あなた……なんのマネです?」



 確か『アルジ』と言ったか……先の戦闘でママらと死闘を繰り広げていたらしい長身の男が、わたしに対して銃を突き付けてきたのだ。


 やれやれ……こんな時に内紛ですか。つくづく救えない。


「見ればわかるだろ。……お前らはオンジョの仇だ。それにお前らをあいつらに差し出せば、オレの武功になる。お前らと仲良しごっこするより、合理的な判断だと思わねェか?」


「やめろアルジ! 私達は美名みまな花耶かやさんに命を助けられたんだぞ!? それを――」


「止めるンじゃねェ、ユリ。それにこの女は『原理』の裏切り者だ。こいつを生かしておいたら逆にオレらの立場が危うくなる。……お前、すっかり牙をかれたな。こいつらを生かしておく理由が、オレらにはねェんだよ。それとも何か? お前、オレとオンジョの絆より、こいつらと心中する方を選ぶってかァ?」

「……ッ、それは……」

 ユリという少女は押し黙ってしまう。……この男の立場からすればその通り、か。


 そもそもこの2人の目的はおそらくママ――美名みまな花耶かやの処分。大きな犠牲は払っているが、それ自体はママの『肉体』の死によって一応達成されているのだ。わたしたちを見逃して『戦果』を放り投げるのは、それこそバカらしいだろう。


「お前……その子を撃ってみろ。その後どうなるか、わかってるだろうな……!?」


 パパがものすごい剣幕でアルジに食い下がる。

 だがこの『アルジ』という男、腐っても『原理』の送り込んだ刺客である以上、くぐり抜けている修羅場は恐らくパパとは比べものにならない。恐らくは押さえつけられてしまうだろう。


 どうする……? 考えろ、考えろ和久陽乃わくひの。どうすれば、どうすれば……

 くそっ、浮遊ユニットが『マッカ』として使われてなければ――



 ん? 待てよ。そうか。そういうことでしたか。

 ……チャンスは一度。そのくらいなら……ギリギリの無理はしてやります。



「……いいでしょう。わたしを撃ってください。ただしわたし以外の全員は助けてください」

「なっ!? ……なんてことを言うんだ!」

「パパは黙ってて下さい……わたしに考えがあります」


「へェ……そうかい。それは……甘く見られたモンだぜェ!」



 パァンッ!

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