Ⅲ-5 化かし合いの死線

 娘――!? 

 この年端も行かぬ声をした子が……『時を刻む国』の支配者と言われる阿万原あまはらあかつきの――!?


 ええい最初からだけど人物関係とかが混乱する。一から説明してほしい。

 だけどこの状況において、僕は端から蚊帳かやの外――無関係のことだ。考えるだけムダムダ、やめやめ。


「……我の素性をすべて知っているならッ! ここでくだるとは思っていまい!」

「ムダですよ。もうこの空間はすべてわたしが掌握してます。圧倒的な実力差、これ以上は意味がないでしょう?」

「……それはどうかな?」

「強がりを。……終わりにしましょう」


「……終わり? ……すべての始まりとなったこの地で、終わりなどないさ!」


 ……僕がこの状況の中、集中しなくてよかった立ち位置だったあったおかげで、得をしたこともあった。

「ん? ……陽乃ひのちゃん、あれは?」

「?」

「うわぁっ!?」

 あれは……この戦いの前に撃ち落としたはずの1体――もう動かないと思ってたのに!?


「――!?」


「『セルツェ』システムは美名みまな花耶かやの血統でのみ動くモノならば、阿万原あまはらの血統のみで動くシステムもあってしかるべきだろう?」


「……屍体使いネクロマンサーとは趣味が悪いですね。けどしょせんは悪あがき!」


 陽乃ひのちゃんは残っていた浮遊ユニットのビーム集中砲火で応戦する。

 ……が、どんなに各所を撃ち抜き致命的な打撃を与えたと思っても止まることなく向かってくる。

 推進部を撃ち抜き爆発させる。装甲が剥がれフレームが露出、あまつさえ至る所が欠損しつながっていない。

 しかしそれでもこちらへ引き寄せられるように迫ってくる。

 ……気味が悪い、これじゃまるで……本当にゾンビじゃないか……!


「……死してなお王に従順なしもべよ、彼徒きゃつらに裁きを!」


 おかしい。あの機体自体はもう動力源もないはず。

 ということは、吊り下げられた人形を操るように、無理矢理外部的な力で姿勢制御させている……!?


 ならそれを止めるには2つ。大元を叩くか――


「塵になるまで破壊する!」


 阿万原あまはらの手に落ちていない、こちら側制御の『大率タイスイ』もある。しかもこちらには2体。それなら数の上でも有利……


 おかしい、いない――……!?


 うわぁぁぁ!あれは……無力化したはずの、敵の浮遊体!

 まさかこれらも相手しないといけないのか――!? キリがない!

「無理だよ、こんな数!」

 しかもどんだけ食らっても立ち向かってくるんだろ!? 今度こそ完全に無理ゲーじゃないか……


 ポーカーフェイスの陽乃ひのちゃんにも流石に焦りの色が明らかだ。

 ここにきて形勢は完全に逆転したように見えた。


 それでもさらにキレを増した浮遊体さばきで敵の猛攻をいなしていくあたり、陽乃ちゃんはまだ心が折れていない。


 だが、ようやく襲い来るすべてを灰燼かいじんに帰したというところで阿万原あまはらの『八十禍津ヤソマガツ』が斬り掛かる。

 嘘だろ関節は全部綺麗に撃ち抜いたはず――そうか、こいつもゾンビか……!


「チェックメイトはこちらが言わせてもらうぞ! 裏切り者!」

「…くっ! しつこいやつ……!」

 陽乃ひのちゃんはすかさず『ヤソマガツ』の装甲を貫くライフル銃の引き金を引いたが……


「水がなくな――……」


 なんだって、こ、こんな時に!?


 終わった、もうこれで完全に打つ手なし。死ぬ、死ぬのか!?


 こ、こんなところで、よくわからない争いに巻き込まれたまま死ぬのはイヤだ。に、逃げなきゃ――!


「ははっ! 万策尽きたな! 消えろォーーーーー!」

 こちらの機体なんか一刀両断だろうと思われるほど大きな刀身。

 今度こそこちらに振り下ろされんとしていた……が――



「……――という幻だったのです、ちゃんちゃん」



 またしてもそれは空を切ることとなる。

「――ぬぁっ!?」

「言ったでしょう?この空間すべてわたしが掌握している、と」

「きっ……きさま、何を言って――」

「まだわかりませんか? ……だからお子さまなんですよ、お姫さま」

「きさま、我を愚弄するのも……はっ、ま、まさか……我が繰り出していた攻撃も、だったというのか……!?」


「そうです。阿万原あまはらこよみはとても御しやすいプログラムでしたがあなたも負けず劣らず、思った通りに動いてくれました。わたしが描いたシナリオだと知らずにね。まあ動けなくなったはずのロボットをも無理矢理制御できると知った時には驚きましたが、そこから先はすべてわたしが見せた、実体のない幻だったというわけです」


「嘘だ、そんなこと――この『八十禍津ヤソマガツ』が乗っ取られるわけが……」

阿万原あまはらの血を引く者以外操れるはずがないから、ですよね?」

「そうだ、父上の血を引くのは我をおいていな――……」



「本当に?」



 うろたえる『八十禍津ヤソマガツ』の主。

 どうしてそんなに取り乱す必要があるのか、蚊帳かやの外の僕にはよくわからないが、当事者の間ではさぞセンシティブな問題なのだろう。


 対してこの空間を掌握していると豪語した陽乃ひのちゃん、そのセリフに違わず余裕の笑みだった。


 阿万原あまはら月読つくよみうらしい声の主がおそるおそるこちらに尋ねる。


「……きさま、何者だ――!?」

「そんなことはどうでもいいことです。……今度こそ何もできないでしょう。さあ、こんな旧時代の遺跡みたいなところにいつまでもいたって無意味です。わたしと共に来てもらいますよ」


「こんな――!? ……この島のもつ重要な意味をごうかいせぬ愚か者が! この島は父上が――」


「だからかつてあった意味もいまは全くないんですって。あなた、いつまでもこんな誰もいない、放棄された島を後生ありがたがってその敬愛する父を独りで生き続けるおつもりなんですか?」


「……もとより、そのつもりだ。……きさまにはわかるまい、世界を変革しようとした父上の偉大さなど」


「わかりませんね。偉大なに成り代わりたい心理など。あなたこそ何者ですか?」


「我が何者か、だと……? それこそ意味のないことだ。我は『時を刻む国』を統べる『阿万原あまはらあかつき』。偉大な父・阿万原あまはらあかつきとして生き、死ぬ。それだけだ」


「……そうですか。じゃあその偽りの人生は、今日限りです」


 『禍津日マガツヒ』はライフルの銃口を『八十禍津ヤソマガツ』のコックピット部と思われる腹部に当てる。

 恐らくはこども同士のやり取りなのであるが、とてもそうだとは思えないほどの物騒さ。

 いや、こどもほど「死ね」だとか強い言葉を使いたがるものか。


「ああ、そうだな。……だが、きさまも道連れだ!」

「――こよみ、何を――!?」

「よくも今まで好き勝手やってくれたな、駄メイド!」

「 ……お前…ッ……」

 持っていたはずのライフルが無力に打ち捨てられる。

 えっ、なに、なんなの!?  唐突にシステムが制御できなくなった!?


「こちらも隙をずっとうかがっていたってことさ! ……我らが主がそのおつもりならば私は共にじゅんじる」


「……自爆する気!?」


 は!? じ、自爆!?

 冗談じゃない、こっちは状況がみ込めてないんだよ、勝手に死ぬなよ……!

 やはりというかなんというか事態はやはり僕を無視して進行する。

 なんだよ、この世界に僕だけ取り残されてるみたいだ。 

 そしてそのまま、死ぬのか――!? イヤだ、そんなの、イヤすぎる――!


 しかしそんな思いとは裏腹に、外堀を着実に埋められていくように不利になっていく。

 陽乃ひのが掌握していたはずの2機の『大率タイスイ』も完全にこよみが奪回したらしく、『禍津日マガツヒ』の手足が押さえつけられる。


「……ぐぅっ……」


月読つくよみ様、私がこいつを押さえられるのにも限界があります……はやく!」

「ムダなあがきを……! くそ、こんなの、こんなの……ッ!」


 陽乃ひのは操縦桿を必死に操作して抵抗を試みるが、システムそのものが乗っ取られているらしくうんともすんとも言わない。


 「動いて、動いてよ……! どうして……!」という陽乃ひのの消え入りそうな弱々しい声ばかりがこの空間に伝わる。


 そうか……今まで強がってはいたけど、本当は――根っこはずっと年相応の女の子だったのかもしれない。


 そう思うと、なぜだろう、僕がなんとかしなきゃって思いがこみ上げてくる。

 おかしい、ほんのついさっきまではただ巻き込まれただけだと思ってたのに。



 ……僕にできることは――!?



 この子を護るために、僕にできることは何かないのか――!?

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