Ⅲ-4 SEESAW GAME

 僕なんかはすぐ諦めてしまうけど、陽乃ひのちゃんはどんな状況でも落ち着き払っていた。


「そうですか……かえって安心しましたよ。あなたごとき、何人束になっても敵じゃないです」

「なに――!?」

 小さなこよみたちは揃って憮然ぶぜんとした。

「はっ……どこまでもコケにされたもんね。そういうセリフは私を倒してからにしなさいな!」


 おいおい、挑発して大丈夫なのか……いや、わざとか。


 不規則であった攻撃が直線的になった。

 相変わらず熱くなると周りが見えなくなる。陽乃ひのちゃんはその阿万原あまはらこよみの操る浮遊体を順調に撃ち落としていく。


「あなたのことはあなた自身がよく知っていますからね」


 向こうも阿万原あまはらこよみなら、こっちの同じ存在に行動を読ませればいい、というわけか。

 いいじゃん、やるじゃん、和久わく陽乃ひのちゃん。僕は最初から信じていたよ。

 浮遊体から発せられるビームは着実に、無数にあると思えた敵のユニットを減らしていく。


「さあ駒も少なくなってきましたよ。そろそろ本体も出てきたらどうですか?」


「……ふん、このくらいでいい気にならないことね」


 浮遊体が挟み込むようにいくつもの方向から飛来する。

 だがこの程度の攪乱かくらん、今の陽乃ひのちゃんならどうということはないはずだ。


 ほら、すべて撃ち落とし――……てない!?

 ビームは当たっているはずなのに、効いていない……!?

「ひ、陽乃ちゃ、これどうなって――」

「ははッ、これが本命だよ! 死んで詫びな、駄メイド!!」

 こちらの攻撃の雨をものともせず突っ込んでくる……! ダメだ、かわしきれない……!


 何度訪れたかもわからない絶望的な状況。

 しかしやはり今回も、年不相応に悠然ゆうぜんと。

 そして言葉少なに、『クナト』とだけ唱えたのだった。


 それはまさしく魔法の呪文だった。敵の阿万原あまはらこよみがすべて沈黙し、浮遊体もポトポトと重力のままに落ちていった。

 それだけじゃない。もっと驚くべきは――さっきまで僕たち以外巨大ロボットの姿なんて影も形もなかったのに、気がつくと目と鼻の先というところに存在していたということだ。

 陽乃ひのちゃんは機体を振り向かせ、そこへ射撃武器を構える。

「やはり、近くにいましたか」

「き、きさま、なんで!? ――こ、声が!?」

 その時聞こえた狼狽ろうばいの声は――陽乃ひのちゃんと同い年くらいだろうか。そのくらい幼さを残していた。


 少女と少女が戦っていたのか……


 そんな現実離れした光景、アニメの中だけだと思っていた。

 そのことに僕も大概ひどく動揺していたのだが、あちらのそれは、もっと切迫したような声色に感じられた。


 対照的に和久わく陽乃ひのはさもありなんとばかりに淡々と主導権を引き寄せる。


「何が起こっているかわからない、って声色ですね。『セルツェ』の加護以外知らない『お姫さま』」

「わ、我の正体を――な、なんで……!?」

「ちょっとステーションとのリンクを遮断させてもらいました。これでお得意の空間幻術も使えないでしょう? ……終わりです」

 配下(?)のロボット2体と取り囲み、一斉射撃。

 うち一発はゼロ距離といってもいいほどの接射。

 形勢は完全に逆転、もうこちらが勝ったも同然――……!



 ――と僕はつい思い込んでしまった。


 だが、このせわしないシーソーゲームはまだ幕を下ろしてはくれなかった。


「おいぃ、また!?」

 ゼロ距離射撃だぞ!? 回避のしようなどなかったはず。でもなんだろう、まるで肌から水を弾くような手応えのなさは――!?


 ともかくビームは相手に効かない。


 そんな目の前のことに気を取られている隙に、敵は長く伸びた刃を振り下ろさんとしていた。

「出し抜いたつもりだったかもしれないが、残念だったな――『原理』!」

 いかに相手の上をいくか。いかに手の内を隠しながらあざむき続けられるか。

 これが物語ならどんなにアツいだろうか、という怒濤どとうの展開。でも、僕は最後には結局勝つことの約束されたアニメだかラノベだかの主人公じゃない。


 今度こそこれまでか――……!


 ……けれど悪運があるのか、僕はまだこの物語のような展開の傍観者であり続けられるらしかった。

 敵の振りかぶった斬撃はむなしく空を切る。


「……いない!?  バカな……!?」


「……今まで自分がやってたことをやられるのは、どんな気持ちですか?」


 『禍津日マガツヒ』はもう片方に持っていたライフル型の武器で、無防備になった敵の腕の関節を鮮やかな丸形にくりぬいた。

 ちょ、ちょっと……ちゃんと敵の装甲を撃ち抜けるんじゃないかよ。ハラハラさせられたじゃないか……。

 撃ち抜かれた碗は巨大な剣をずしんと落とし、力なくだらんと垂れ下がる。


 地面に敵側の少女は完全にこちらに出し抜かれたのだろう、その場で固まっていた。

 まるで壊れた旧世紀のディスク媒体のように、何拍も遅れて声がついてきた。

「……なっ……ぜ……!?」


「ビーム光線で貫けないのなら物理力で貫けばいい。これまた至ってシンプルな話ですよ」

 続けざまに、阿万原あまはらの乗る機体に銃創じゅうそうを開けていく。

 実力差は残酷なまでに明らかだった。


「あぅ…な、何故だ!? この『八十禍津ヤソマガツ』の装甲は携行火器ごときでは貫けないはずだ! なぜ……」

「いや何、ただちょっとでかくて強力なだけの水鉄砲ですよ――ただの、ね」


 ……水鉄砲。


 はっ、もしかして、行きがけに海水を汲んでいたのは――!?

「勝負あり、です。大人しく降参してください。阿万原あまはらあかつき――の一人娘、ツクヨミ」

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