Ⅱ-16 別離、そして新たな出逢い

 そういえば以前も那美ナミの暴走を止めるために、こうして――……。

 だがぼくのママを実際手にかけてしまうほど、那美ナミは完全に我を見失っている。以前のようにまたうまくいく保証もない。


 でも、やるしかない。


 2人のママ――そして恐らくはパパも――

 ……もう本当にぼくと那美ナミの2人しか、家族がいないんだ。これ以上失うわけにはいかないんだ――!


 だが以前操作してみてわかったことだが……実際この『大率タイスイ』と『ラス・カノレ』では機体性能差が天と地ほど違う。

 おまけに今は『ラス・カノレ』のシステムが偏り暴走を起こし、リミットが切れている状態だ。すぐに距離を詰められる。反応しきれない!


「くぅぅっ……!」


 『ラス・カノレ』から繰り出されるのはきわめて野性的な殴打。

 乱雑な大振りなはずなのだが、いかんせん速すぎる。

 こちらが反撃を試みようにも、まさに猛獣のような機敏さでかわしてみせる。そこから本能的なカウンター攻撃――たまらず横転してしまう。


「ぐあっ……!」


 『ラス・カノレ』はぼく達の『大率タイスイ』に飛びかかり、マウントを取り凄まじい殴打を浴びせてくる。

 強烈な衝撃と機体が凹んでいく音。

 まずい、こんなのをずっと浴び続けていたら、この機体が保たない。

「ぐぅぅっ……このままじゃ、やられる……!」

「諦めないで。もう少し、もう少し、時間を稼いでください。わたし自身がここに着くまで――」

「……それはどういう……?」

「詳しくは、後です!」


 相手が攻撃に気を取られている隙にこよみが手のレーザービーム砲で反撃、虚を突かれた格好の『ラス・カノレ』が今度は横転する。

 それに乗じて『大率タイスイ』を立ち上がらせようとするも、あまりにもダメージを受けたせいか、うまくバランスを取ることができず、機体がギシギシと悲鳴を上げる。


 反対に『ラス・カノレ』は先程までの『解慕漱ヘモス』との激闘を感じさせない早さで態勢を立て直してくる。


「くそっ、バケモノじみてる……」


 正直な感想だった。

 人の意志を離れ、タガが外れた怪物。

 こんなのにどうやって対抗すればいいんだ……!?


 だが獲物を狩らんとする化け物は大人しく待っていてくれず、再びこちらに迫ってくる。


「まだです。まだ……下がってください、全速で!」

 突然の指示に一瞬戸惑ったものの、迷ってる暇はない。


 なんとか移動しようとブーストをかけるものの、今にもバラバラになってしまいそうなほどに大きく軋む。

「もうこの機体がもたない!」

「やるんです。やらなかったらもっと壊されます」

「……そりゃそうだ!」


 ――やるしかないってことか!


 推進力全振りで、前を向いたまま後方へ下がり続ける。

 それまでよりも深いところがブチブチと切れていく音がするが、立ち止まってはいられない。『ラス・カノレ』も後を追ってくる。


 この機体が壊れるが先か、追いつかれるが先か……考えるより先に答えが出てしまった。


「くそ、もう――!? 」

「……なあに、かえって狙いやすいってもんです!」


 こよみは先程と同じほうの腕の掌からビームを撃つ。だが先程見せてしまった手にかかってはくれない。すぐさまかわされてしまう。


「まだ! ……本命はこちらですよ!」


 もう片方の手からすぐさま発射されたビームが『ラス・カノレ』の肩部、接続されていた砲台に命中し爆発。全速力で疾走していた『ラス・カノレ』はその反動で大きくバランスを崩し激しく転倒した。

「……やったか!?」

「あっダメです、立ち止まったら――」


 しまった、つい気が緩んで――……


 驚異的な速度とアクロバティックな態勢で再び『ラス・カノレ』に肉薄されてしまった。

 こよみがなんとか両腕をクロスさせ防御を試みたが、その両腕が一撃で吹き飛ばされてしまう。

「なっ……!?」

 マズい、もう機体が耐えられない……!

 ナミの『ラス・カノレ』の拳が振り下ろされようとしていたその時、ビームが眼前を横切り、その腕は消し飛んだ。


 そしてこよみが、心から安心したというような声色で呟いた。

「……ギリギリでしたが、間に合いましたね」


 その光の柱が飛来した方からは、2機の人型ロボットがこちらへと向かっていた。

 1機は『大率タイスイ』と同型に見えるが、もう1機は……『ラス・カノレ』とも、『媽祖マーツー』とも先程迎え撃った3機とも違う、まったく異質なフォルムをしていた。


「あれは……増援か?」

「……というよりかは、わたし自身ですね」


 ……?!

 もはや感覚が狂わされるほど理解不能な状況下に慣らされているが、今回もまたありのままの状況を追認していくしかないのだろう。

 わからないことは判断を留保。目に映ることの把握に全神経を注ぐ。


 那美ナミの乗る『ラス・カノレ』は新たな乱入者へ目にも止まらぬ速さで捕食せんと迫る。

 だが新たに現れた援軍の『大率タイスイ』はそれをかわすどころか、むしろ真っ向から受け止めた。


 いかに百獣の王といえど逃げまどうはずの獲物が敢然と立ち向かっていくとひるむのだろうか、『大率タイスイ』と思われる機体に吸い込まれるように捕らえられた。

 『ラス・カノレ』はそのありあまる力で必死にもがいているが、それでも『大率タイスイ』は掴んで離そうとしない。


 どうする気だ……はっ、まさか――


「よし、捕まえた! この距離なら……!」


 見慣れぬ機体がライフル型の銃を構える。お、おい、本当に味方ごと撃つつもりか!?

 やめろ、そんな残酷な……! やめろォォォっ!!

「いっけぇーーーーーーーー!!!」


 暦が叫ぶと同時に、全く躊躇われることなく『大率タイスイ』ごと『ラス・カノレ』の腹部がビームで撃ち抜かれ、爆発――跡形もなく消し飛んだ。


 ……そんな。……那美ナミが……那美ナミまでが……!?


こよみぃっ! お前、よくも……!」

「安心してください。誰もいなくなってませんから」

「でも、あれじゃ助から……」

「心配しないでください。那美ナミさんなら脱出させてあります」


 そう言って、こよみはすぐ下で浮遊している光の珠のようなものを指さす。


 あ、あれは……


「そうです。『セルツェ』――『マッカ』の加護がナミさんを護ってくれているのです」


 その光の中にナミがいるのがわかった。


 ナミ……よかった。本当に、本当に……!


 待ちきれずぼくは機体を降りる。

 ゆるやかに落ちてくる温かな光の元へ駆け寄り妹を抱きとめた。

 心配していた外傷もほとんどなく、穏やかに眠っている。この寝顔、この生の息吹――失わなくて本当によかった。

 ぼくはゆっくりと、那美ナミを戦禍をまぬがれわずかに残っていた草木のところに寝かせる。


 気付けば朝の日射しも差してきた。

 ようやくひとまずの平穏が訪れた、といっていいのだろうか。


 

   ……でも。引っかかっていることがある。


 

 さっきまで那美ナミの『ラス・カノレ』は制御不能だったはず。システムを起動することはもう誰にもできなかったはずだ。

 いや、こうして那美ナミが助かったことは心の底から嬉しいんだけど、一体何が……!?


 飄々ひょうひょうと近侍するこよみ。彼女は逃さずぼくの疑問を拾う。


「……信じられませんか? でも答えは至ってシンプルです。『セルツェ』を操ることのできる条件を考えれば、1つしかないでしょう?」


「……そんな。まさか。いや、ますます信じられ……」


「そうでしょうか? 『天孫計画』をご存じでしたら、そんな人がもう1人いても、おかしくないと思いませんか?」


「……君は、誰だ!?」


「それはこの姿ではなく、できれば直接」


 こよみの視線を辿っていくとやや離れた距離から、例の見慣れぬロボットから降りてきたひとりの小さな少女がこちらへ駆け寄ってくる。

 そして衝撃的な言葉と共に、ぼくの元へと飛び込んできたのだった。



「パパぁっ!」



「わぁっ!?」


 あまりの勢いに倒れそうになった。

 少女は目に大粒の涙を浮かべながら、ぎゅぅっとぼくの身体にしがみつく。


「逢いたかった……ずっと逢いたかったよぉ……パパぁ……」


 少女は感激の余り嗚咽おえつを止められないといった感じだったので、ぼくが「えっと……誰?」と言うのもなんだかはばかられる。


 でもぼくにはまったく身に覚えがない。


 なにせ本当についこの間までずっと宇宙ステーションにいたのだし……それにぼくだってこの少女ほどではないにしろ、まだこども。

 ……ああもう、相変わらず地球は混乱することだらけだった。

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