Ⅱ-15 奇妙な共闘

 突如として光が流星のように走り去り、『解慕漱ヘモス』の健在だった機体右方『好太フテ』の下半身を射抜く。

 『解慕漱ヘモス』はバランスを失い、転倒した。

 あの光線の正体は、まさに今目の前に現れたその黒いフォルムで、すぐにわかった。


「……『大率タイスイ』!」


 その黒い闖入ちんにゅう者を前にして最も動揺を見せたのは、メイファだった。


「あ、ありえない……ありえない! なんであんたがここにいるのよ、『時を刻む国』のあンたがァ!?」


 確かにボクも驚いたが、この取り乱し方は尋常じゃない。

 メイファの混乱をよそに『大率タイスイ』は機械的なまでに淡々と、残っていた『解慕漱ヘモス』機体左方の推進部も腕ごと破壊する。


「お前まで私を裏切るのか阿万原あまはら……ファーシャスタンに楯突いたらどうなるかわかって……ぐぅっ!?」

 抵抗ができなくなったメイファになおも冷酷なまでの『大率タイスイ』の追撃。転倒してもなお『解慕漱ヘモス』が握りしめていた『天日鉾アメノヒボコ』も木っ端微塵になった。

 刻々と変わり続け、状況の整理がまた困難な中で、どうしても頭の中で引っかかったフレーズがあった。


 『裏切る』……? どういうことだ?


 もとより『時を刻む国』の阿万原あまはらとメイファの『ファーシャスタン連合』は敵国同士のはずじゃ――?


「裏切る、ね。……やはりそうでしたか。あなたも大概口が軽くて助かります」

「――!? 阿万原あまはらこよみじゃ、ない……!? お前は、誰だ……!?」

阿万原あまはらこよみですよ。とっても操られやすく、感情豊かな人形です。そう、まるであなたみたいに」

「人のなりそこないが、ナメた口を……お前ごときが私に勝てるとでも――?」


 メイファが金卵のユニットで『大率タイスイ』を瞬く間に包囲する。

 だがそれらのユニット達は力なくポトポトと落ちていき、阿万原あまはらこよみ包囲網は脆くも崩れ去ってしまった。


「!?  な、なぜ……ご、ゴフッ!? ゲホッ、ゴホゴホ……」

「潮時、でしょう。大人しく投降してください。わたしも、あなたを撃ちたくはありません」


「投降!? 誰に!? お前に!? ……笑わせる!」


 すべての武装、そして巨体を支える推進部を失っても、片腕でよろめきながら起き上がる『解慕漱ヘモス』。

「私はこんなところで……私である全てを捨ててまで、やっと、やっと……!」

 もうとっくに勝敗が決していることは誰の目にも明らかだったが、それでもなお……。

 だが起き上がったのは、ぼくのママだけではなかった。


 ママの乗る『好太フテ』コクピットの死角から、ゆらりと忍び寄る黒い死神。その腕には、『瑠璃王の剣』が握られていた。



「やめろォォォーーーーーーー!!!」



 それは力任せに振り下ろされた。



 ベキベキベキッ!



 ……悲鳴のような音と共に、『ヘモス』は大きくへしゃげる。

 剣は機体の中央部あたりで真っ二つになったが、ママが乗っていたと思われる『好太フテ』の腹部に至るまで完全に潰れてしまっていた。あれではもう――……


 ぼくはこの一夜にして2人のママを同時に……なんでだよ、なんでこうなってしまったんだよ……!?



「……人の道を外れてしまいましたか」



 心から侮蔑ぶべつするように吐き捨てた声の主は、阿万原あまはらこよみ


「いけませんね。わたしは常に冷静でいることを信条としてますが……父を悲しませることだけは別です。頭を冷やしてもらいましょう――イズミ那美ナミ!」


 『冷静』という言葉でハッとした。


 そうだ。悲しんでなんかも、怒りと恐怖で震えてなんかもいられない。

 ぼくだけは努めて冷静でいなければ……様々な感情は隅に置いて、なんとか立ち止まって考えなきゃ……。それくらいしかイズミナギ、お前にできることはない。


 まずは那美ナミをなんとかして元に戻さなきゃ。


 そんな折りに「乗ってください」と思いもよらない誘いが舞い込む。

 ――言動からまったくの別人にも思えるけど、あの機体からの声は阿万原あまはらこよみのもののように思える。

 ……だとしても、今那美ナミに対抗しうる存在はあいつくらいだ。

 本来は敵なのかもしれないけどこの状況、利用させてもらうしかない……!


 だが今のやり取りの間も、那美ナミを取り込み単なる戦闘マシーンと化した『ラス・カノレ』は荒々しい生身の攻撃を次々と繰り出しており、易々とぼくが乗り込むチャンスなど与えてくれそうにない。

 どうにかして那美ナミの動きを止めるか、せめて注意をどこかに逸らさないと。何か、何か使えるものはないのか……!?

 焦る気持ちを抑え、周囲を見渡す。すると2機が交戦している近くに落ちていた、あるものを見つけることができた。


 ――そうか、あれだ!


 ぼくはあらん限りの声を振り絞り叫んだ。


「……あれを、撃ち抜けぇぇーーーッ!」


 すぐさま放たれたビームは確実に目標を捉え、打ち捨てられていた武装『大雷オオイカヅチ』が爆発、その爆風に『ラス・カノレ』を巻き込むことに成功した。

 衝撃はそれほど大きくなく、わずかによろめいたくらいだったが、その程度の隙で充分だった。

 一瞬で『ラス・カノレ』から距離を離しこちらに接近する『大率タイスイ』の元へ駆け抜け、那美ナミに追いつかれることなくなんとか乗り込むことができた。


「……まさかこれに再び乗ることになるとはね……」


 だけど不思議と、嫌な気持ちはなかった。

 それどころか阿万原あまはらこよみかたわらにいることで、まるで日頃寄り添ってきた身内のような、そんな穏やかさすら抱くほど。

 雰囲気が以前と全く違うからだろうか。

「……いいですか? いきますよ」

「ああ……」

 そのことになんだか決まりの悪さというか、困惑した思いを秘めつつも、かつては敵として戦った者同士の、奇妙な共闘が成立したのだった。

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