Ⅱ-12 無秩序宣言下での『戦闘』

ナギに操作は全て任せるわ、よけなさい!」


「はぇ!? え、え、ええ!?」

 いきなりそう言われても……!

 いや確かに『セルツェ』に集中してもらってぼくは機体操作に専念するのがいいんだろうけども!

「なにくそぉっ! 援護はしてよ!」

 金の卵からの砲撃をよけながら、なおかつ敵との白兵戦もこなさないといけないなんて……!

 こちらもママが『ヴォーラ』の多方向砲撃で応戦。

 那美ナミも慣れない機体だろうけどこちらの欲しいタイミングで援護してくれる。

 しかし敵も、合体して巨大化したとは思えないほどの身のこなしでこちらの攻撃をかわしていく。


「くそっ……」


「しかし、妙ね。敵は3機あるという絶対的な有利を犠牲にして、あえて1機となった。数的にはかえって不利になるにもかかわらず、ね。見た限り運動性能は上昇しているようだけど……」

「確かに……裏を返せば、3機で相手にするより1機の方が強いと踏んだということか…」

「そうね……でも、いくら機体の情報が筒抜けだと言っても、こちらはそうそうマネできないオーバーテクノロジーを満載している。それこそ材質から構造、武装、コアシステムに至るまでね。……それは敵も熟知しているはずなのだけど」


 ……つまり、敵はその機体差を跳ね返せると思ってる。そのくらいの何かがある―そんなところだろうか。

 っと、考えてる時間もない、か――


「来るわ、ナギ!」

「わかってる!」

 ……どんな秘策が敵にあろうが、どうにかしていくしかない!


 全方位射撃を……あの金の卵で防御している!? そのまま突っ込むつもりか!?


「変形で惑わそうとしたってッ! ――隠し玉はこっちにも、あるんだよ!」


 腰に下げていた銃『大雷オオイカヅチ』を取り前方めがけて高出力ビームを放出する。あまりの出力にコクピットにすらビリビリと反動が伝わる。

 敵の張っていたバリアが完全に消滅した。……よし、あとはもう一発お見舞いするだけだ……!

「なっ……!? まだ突っ込んでくる……!?」

 完全に防御バリアも無効化した。これ以上は自殺行為だぞ!?

 

  ……でもいいね、正面突破、か。


 そういう作戦もクソもない馬鹿、嫌いじゃない。

「知らないぞ! 消し飛べ!」


 ガキィン!


「――!?」


 碗部からの衝撃が伝わってコクピットが再びビリビリと振動する。一瞬何が起こったのかわからなかった。


ナギ! 前!」


 ママの声ではっと我に帰る。敵に何かされたんだ。次発装填、撃たなきゃ……  あれ――!? 『大雷オオイカヅチ』がない!?


ナギッ!」


 長剣によって薙ぎ払われたと気付いた時には完全に遅かった――


「もらったぞ、日本人!」

 ……や、やられる!? 何度目かの死の覚悟。

 だがストロボ映像1コマ1コマさながらのスピードで戦況は目まぐるしく変わる。


 メイファ戦後の、あの阿万原あまはらこよみを破った時のように、猛スピードで眼前を横切った物体が敵の持つ大剣をはじき飛ばした。

 その構造物――『天瓊矛アメノヌボコ』が手持ち無沙汰だった『ラス・カノレ』にあてがわれる。

 ともあれ、またボクは助かったらしい。


「驚いたわ。そんなで、わが高氏高麗こうらいが三宝『瑠璃王の剣』をはじき飛ばすとはね……! でも!」

 ――ッ!?

 背後からまた何やら長大な武器を――ま、まだ得物を持っているのか!?

 しかも『天瓊矛アメノヌボコ』とそっくりな……!?


「『天日鉾アメノヒボコ』の突きはかわせないだろォ!? 」


「くっ!」

 ぼくがその突きを受けようと構えるよりも先に、敵の矛に『セルツェ』の集中砲火を浴びせたらしく、反動にたまらず敵機がのけぞる。

 あまりもの戦闘スピードに目も頭もついていけてない。

 だが手を止めることはできない。


 何が起こったのかわからないけど、これは好機――!


 逆にこちらが超重量に任せて巨大な鉄塊で突進する。

 直後、眼前にまばゆい閃光が目を覆ったと思えば、『天瓊矛アメノヌボコ』の刀身が砕け散っていた。


 間髪を入れず再び閃光が走る。


 それが『解慕漱ヘモス』両側面から続けざまに放出された巨大なビームだろうと判断できたのは、『マッカ』がそれを辛うじて防ぎきった後だった。


 高度な読み合いと互いの武装の応酬。


 初めてともいえる人型ロボット同士の白兵戦の中、ぼくはどうしたらいいかわからないまま、藻掻くようにがむしゃらに動かし続ける。

 しのぎを削った駆け引きに参加できない分動き続けるしかないと直感していた。

 ママと那美ナミの2人任せだけど、どうにかしてもらうより仕方ない。

 敵の遠隔操作ユニットからが襲ってくる。

 それらをひとつ、ふたつと撃ち落としていくが、こちらとはまったく別の方向へ飛んでいくユニットには注意が向かず、撃ち損じてしまった。そのユニットはママ達の拠点である建物の壁を射抜いたのだった。


「しまった……!」


 爆風で瓦礫がれき砂塵さじんが舞い上がる。

 ま、前が見えない……!

「今度こそ、捕らえた!」

 まともに矛の突進を受けて、『ラス・カノレ』の機体が大きく吹き飛ばされてしまう。


「ああっ!」


 機体を覆う鈍い衝撃。背中に灼けるような痛みが駆け抜ける。

 横転したと思われるコクピットからは原型を留めず砕けた壁がうかがえる。

 どうやら建物の壁まで吹き飛ばされたらしい。……まずい、早く態勢を立て直さないと……

「やっと動きが止まったなァ! トドメだァ!」

「くっ……」

 『天日鉾アメノヒボコ』を構え向かってくる。起き上がってかわそうにも間に合わない。

 ――この戦いだけで何度ヒヤリとしたシーンがあったかわからないくらいだけどいよいよ悪運も尽きた――……のか!?


 芯の深いところまでえぐり尽くすかの、胸にまで響き渡る音の鈍重さ。

 恐る恐る目を見開く。

 すると装甲を貫かれていたのはこちらではなく……

 

 敵の腹部であった。

 

 後ろから剣が刺し貫かれており、剣先には血とも機体の油ともつかないものでべったりと黒ずんでいた。


「うっ……これは……」


 こみ上げる酸っぱいものをこらえながら惨状を目で追う。……あれは、さっき敵からはじいたもう一つの得物。

 まさかアレをまたのか……!?

「……間一髪、間に合ったようね。あの状況ではこうするしかなかった。和寧わねいの人、ごめんなさいね…」



 ……人が、死んだ。



 合体していた中心部を動かしていたのは、確か『オンジョ』だっただろうか。


 改めて無秩序宣言下での『戦闘』というものがいかに残酷か、この目で思い知らされた。

 ……数秒あの剣が刺し貫いているのが遅かったら、今頃ぼくとママがこうなっていたのかな……。


「……人が死ぬのを見るのは初めて?」

「……」

「……そうよね。あなた達兄妹にできればこんなところを見せたくはなかった。ナギ、たった今一人の命が失われたけれど、それはあなたのせいではないわ。責めは全部私が負う」

 『ラス・カノレ』を立ち上がらせる。でも……ぼくは操作していない。


 またこの人は、のか。


「だけど、くだらない争いのためにその犠牲となった人たち。その人たちのことは、忘れないであげて」


 ……『セルツェ』システムフル稼働、『ヴォーラ』を敵全方位に配する。

「残りのパイロットに告ぐわ。勝敗は決した。機体から降り投降しなさい。こちらはこれ以上無益な争いは望まない」


 心の底からの、ママの本心だろう。


 だが、先程まで命のやり取りをしていた程溝が深かったのに、はいそうですかと引き下がれるほど理性的にはなれないだろうことは、想像に難くなかった。

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