Ⅱ-11 3人の刺客

ナギ! 伏せて!」

 突如として流れ星のように降り注いだ銃撃。ママは『セルツェ』で咄嗟に対応する。


「……やれやれ。『好太フテ』『阿莘アシン』『実聖シルソン』……三国時代揃い踏みか。よほど私が邪魔と見える」


「……こ、これは、ファーシャスタン!?」

和寧わねい軍ね。……まあ似たようなものだけど。そんなことよりも、応戦よ」


 火急の危機にすぐ馳せ参じる、まさに守護神のような、『高天原タカマガハラ』。

 すぐにコックピットに乗り込もうとするぼくとママを、3機の人型ロボットがはばむ。

 だが『ヴォーラ』さばきが慄然りつぜんするほどにママはうまい。

 ……メイファさんを手玉に取っていた時のように、相手に完全に翻弄ほんろうし尽くしていた。


「くっそォ……生身の人間だぞ!? 我々の誇りである3機をもってして……!?」

 動揺する声が聞こえてくる。音声をこちらに聞こえるようにしているのは悪手だね。


「落ち着け、閼智アルジ迂闊うかつな動きは相手に利するだけだぞ」

「そうよ。カッカしやすいのはあなたの悪いところよ」

「そうは言うが温祚オンジョ瑠璃ユリ。なら動かずに的のようになれってかァ!?」

「そうではない。もっと効率的に動けということだ。我々は3機。一方あちらはシステムの加護はあろうが所詮生身。どうとでもなる」


 ……どうにでもなる、か。言ってくれるじゃないか。


 3機のうちの1機がぼくに向けて集中的に銃撃する。

 ……どうやらぼくが『セルツェ』を操作できないことが知られているらしい。

 ママも防戦に精一杯で『タカマガハラ』に乗り込むことができないでいる。

 ただでさえ神経に大きな負担を強いる『セルツェ』。いつまでも使えるものじゃない。このままじゃジリ貧だ。なんとかしないと……!


「足手まといがいる中ここまで防いでいるのは褒めてやりたいところだが、こちらもこれ以上無駄撃ちするつもりもない。次で沈める。アルジ、ユリ!」

「はいよォ!」「わかったわ」

 ……3機はぼく達を三角に取り囲み『高天原タカマガハラ』から遠ざけ、一斉に豪雨のような連射を浴びせる。

 ママはそれらをすべて『ヴォーラ』で光のバリア『マッカ』を展開しいなしていく。


 くそっ、ぼくはこの状況で、何もできず守られているだけなのか……!?


「……ふふ、本当によくやる。同じ女として誇らしくさえなってくるわ。でも、あんたは母でありすぎる……!」


 はっ……!

 ママの背後に、狙いを定める金色の卵のような形の浮遊砲台――

 この状況、ママを守れるのは、ぼくしかいない!

 ぼくは咄嗟とっさにママの背後に詰め寄っていた。


「!? ……ナギ……!? 」


 発射される弾道がスローモーションではっきり見える。

 狙いは正確、このままの軌道を描けばぼくの心臓を貫くだろう。



 これが、走馬燈。



 そうか、ぼくは、ここで死ぬのか。

 この状況下で、心は恐ろしいほどに落ち着いていた。

 ……というより、もはや慌ててもしょうがない、というのが本能で理解できているのだろう。

 ママ、那美ナミ、ごめん。でも足手まといの状況で、血がつながってない兄ちゃんが生きてたって、なんの意味も――



 ……どれだけの時が経ったと聞かれたら、きっと一瞬だったのだろう。

 だが永遠にも感じられたこの一瞬、はっと元の世界に戻ったとき、まだぼくは生きていた。


「……時空転移で弾丸を消し飛ばしたか」

 ……あいつらのやかましい声が響く。

 胸のあたりをさすり自身の無事と、およそ何が起こったのかを察した。

 

 またぼくは守るつもりで、守られてしまったのか。

 

 でも、物体の時空転移は完全な奥の手、発動させた瞬間――

「だが我々は知っているぞ、それは遠隔操作と同時には使えないことを!」

 ……ママの顔が歪む。悔しいかな、相手はこちらを知り尽くしている。

「今なら防ぎ切れまい。……蜂の巣になれ!」

 

 ここまでか……!

 

 ……再び死を覚悟したが、またもぼくは生きながらえた。


「!? ……何故だ、『ヴォーラ』は出せないはずじゃ……」

 ぼくとママを巨大な笠で覆うように展開された光の『マッカ』。


 ……これは、まさか。


「ごめんお兄ちゃん、遅くなった」


 やっぱりか、那美ナミ


 ぼく達のはるか後方に見えたのは、以前ママが乗っていた、あの大型戦車砲搭載型戦闘機『天浮橋アメノウキハシ』。そうか、まだあれがあったのか。


「……イズミ那美ナミ。忌々しい子。先に殺しておくべきだったわね」


「あなたたちは、何者?」

 おそらくは『ユリ』だろうか、少女の声が那美ナミの問いかけにあからさまな敵意をぶつける。

「……何者でもいいでしょう? あんたたちはこれから死ぬんだから」

那美ナミたちは死なない。殺させない」

「あっ、そう。いくら粋がっても、一人増えたところでこちらの数的有利は覆らない」


 彼らの注意が妹に引いているうちにぼくとママは『高天原タカマガハラ』に乗り込もうとひそかに動き出す。


「させん! ユリ、アルジ!」


 だがやはり、簡単には見逃してはくれない。彼らは再び銃をこちらに向けた。

 だが、『天浮橋アメノウキハシ』の援護射撃と『ヴォーラ』の合わせ技が、彼らに隙を与えない。

「乗って、今のうちに」

「……そうね。ありがとう、ナミ」

 そう言って那美ナミの方を見たママの目は、戦場にありながら穏やかだった。


 かくしてぼくとママはなんとか『タカマガハラ』、もとい人型に変形した『ラス・カノレ』に搭乗、生身の危険から脱することができたのだった。


 ……だがいずれにせよ、確かにあちらさんの数的有利は覆らない。


 それに、ママの背後を取ったあの金の卵のようなもの――アレは恐らく、ぼく達の『ヴォーラ』のようなもの。和寧わねいとファーシャスタン連合はまだこれほどのものを隠し持っていたとはね。

 

 ……ともかく、どうする……?


「ちっ…まあいい。ユリ、アルジ。プランD2だ」

「おいおいオンジョ、もうアレを出すのかァ?」

「そう出し惜しみできる相手ではあるまい。ユリも、いいな?」

「オンジョがそう言うなら」


 ……!?  何を始める気だ!?  瞬く間に彼らの中の1機に、変形した2機が側面に取り付くように合体していく……!


「……なんだ、これ……!?」

 機体背面に2機が合わさり、三角の形を形成している。

 さらに両側面には腕よりも長い角柱の構造物がせり出しているように見える。

 声から判断すると『オンジョ』だろうか、まるでこの『新しい機体』を誇示するかのように言い放つ。

「『解慕漱ヘモス』――我ら3体が合わさった、真の姿だ。この姿をもってすれば、貴様らなど!」


 ――! 来る……!

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