ふたりの実母編

Ⅱ-9 眠れぬ夜

 世界が分断されたあとの中国のおよそ半分ほどを領有し、アジア大陸での最有力国家として君臨する華夏国ファーシャスタンの首都南寧ナンニンからはるか北。

 都市としては日本に近い半島南部釜山プサンにあるビーチ『海雲台ヘウンデ』。

 今ぼくと那美ナミはそこで専用の部屋をあてがわれ、休息を取らせてもらっている。

 ここはわずかな領域ながら、『華夏国ファーシャスタン連合』加盟国である『和寧わねい』に抵抗し、実質的に独立した地となっているらしい。


 美名みまな花耶かや――数日前、ぼく達を助けてくれた女性。

 彼女が指導者なのだそうだ。

 その花耶さんは、ぼく達のママだと言っていたが……

 ファーシャスタンで出逢ったメイファ――西シー王林ユイリンといい、自称・母親がこんな短期間に沸いてきたんじゃ、混乱だってする。いったい真実はどこなんだ……?

 

 それに、嫌な予感もしている。

 今はこうして宿代わりにさせてもらってるわけだけど、否応なしに大人の争いに巻き込まれている感が日増しに強くなっている。

 ぼく達は地球で暮らしていける場所を求めているだけなのに……なんだか状況に流されて、悪い道を進んで行っているような気がしてならないんだ。

 本当にこの、ママと名乗っている一人の女性についていって正しいんだろうか……



 ダメだ。寝られない。



 少し外の風に当たろう……そのくらい、大丈夫だろう。

 ぼくは2段ベッドの上ですやすやと寝ている那美ナミを起こさないように部屋を後にする。



 結局ナミもあのあと何事もなく意識を取り戻すことができてよかったよ。

 ……それにしても。

 那美ナミはあの花耶かやさんにずいぶん懐いているんだよな。

 メイファの時はあれほど拒絶していたのに。本当にあの人がぼく達のママなんだろうか……?


 ここでも当然のように監視が付いている。

 その点でぼくから言わせれば、ファーシャスタンと大して変わらない。

 いや軟禁状態でこそあったけど、高級そうな料理もあったし、あてがわれた部屋も、こんなボロっちいところなんかじゃなく、綺麗な装飾がされてすごく広かった。待遇でいえば、あっちの方がよほどよかった。

 ……まあ大国と、それに抵抗し続ける都市ひとつとじゃ、そもそも比較にならないのかもしれないけど。

 もしかしたらあのままあそこにいた方がぼく達の生活は保障されていたんじゃないか、という後悔もちょっとある。

 監視の目をくぐりつつ、外へと出る。


 ファーシャスタンとコトを構えてるにしては、あちらよりもずいぶん警備がザルだなあと思わされる。

 まるでみすみす抜け道を用意しているかのような……


 ――と、思っていたところだった。


 『ヴォーラ』が一つ、こちらに向いている。


 しまった、気付いたときには遅かった。

 そうか『ヴォーラ』システムを操れたんだった……だからそれほど警備もいらなかったのか……! 砲門が向けられ、思わず身構えた。


「ばーん」


 その声のした方へ振り返ると、手で銃を撃ったマネをしてみせた花耶さんが冗談めかして笑っていた。


「ダメだなあ、お兄ちゃん。相手が相手なら、キミは今ここで本当に撃たれていたよ?」

 ……おどけたような調子。あれ……こんな人だったっけ?

「……悪い冗談ですね」

「そう、ね。悪い冗談よ、ほんとにね」

 口角を上げてなんとか笑っているように見えるが、その表情はなんとも複雑そうだった。


「……眠れないのね?」


 そして、そうかと思えば、曇った表情を一瞬で穏やかに立て直す。

 でもそれは大人だからこどもに弱いところを見せられない、といった類の、強がりのようなものだと見透かしてしまうぼくは、きっとかわいくないガキなんだろう。


「……はい」


 でもたまには、それに乗っかってみたい時もある。


 不安もあるし、この人を完全に信用したわけじゃないけど……眠れない夜の、気の迷いのせいだということにしておこう。

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