第Ⅱ章 親、その甘美にして破滅的な絆

ナギ&ナミ編

Ⅱ-1 ファーシャスタン連合

 ――2047年。華夏国ファーシャスタン連合首都・南寧ナンニン


 ぼくと那美なみの2人が捕らえられ、『高天原タカマガハラ』も取り上げられてからすでに数週間が経とうとしていた。


 軟禁、というのだろうか。


 とはいえ広い屋敷の中は監視の目こそあるもののある程度移動できた。

 だがシステムにロックがかけられてしまったのか、それとも応答できないほど遠くに離されてしまったか――何度試しても『セルツェ』システムを起動することはできず、逃げることはかなわなかった。

 

 今日はぼくと那美なみはそこでの政治家たちのパーティーに招かれた。

 ……いや、『連行』されたといったほうが正しいだろう。

 軟禁状態から一歩外へは踏み出せたものの、システムを取り戻せる手立てがわからない以上は無闇に動けず、従うほかなかった。


  

 やんごとない身分だろうと思われる人々から向けられる好奇の目。こちらをチラチラと見ながらあることないことをひそひそと話しているようだ。

「ほら、あの子が……」

「まあ、あの子が……」

 よくもまあ暢気のんきにパーティーなぞに精を出せるものだなあと半ば呆れるけど、『タカマガハラ』も取り上げられている身では参加しないというわけにもいかない。


 那美なみは食べることに関しては本当に目がないから、こういう場で出される料理を食べさせてあげたかったというのもある。

 宇宙での食事は保存食ばかりで味気なかったからなあ……。

 幸いあちらの方でひたすら満喫しているようで何より。


 そのかわいらしい姿から、すっかりご婦人方は骨抜きでたいそう世話を焼いているようだ。その様子から男たちは那美なみに興味があったとしても近づけないといったようなていである。

 まあこちらとしても、その方が好都合だ。妹に変な虫が寄りつかなくて安心できるというもの――



 さて、一方のぼくはというと――



「まあそう堅くならないで、あちらの妹さんのようにくつろいでくれ給えよ、イズミナギ君」


 ファーシャスタン連合の丹智高たんちこう総裁と名乗る恰幅かっぷくのいい男性と同席している。


 日本語での応対にもまずびっくりしたのだが、なによりもこの――

 宇宙ステーション時代には見たこともない豪勢なメニューばかりが並ぶ食卓。本来なら歓喜雀躍かんきやくじゃく、といったところなのだろうが、緊張で味覚など実感できようはずもなかった。


 なにせ完全なるアウェーだ。いつ殺されてもおかしくない。

 『セルツェ』の加護もなしにここの警備をかいくぐれる自信もない。

 胆力が半端じゃない妹ならまだしも……ぼくはこの状況下で中華料理の神髄に舌鼓したづつみを打てるほど無神経でもなければ、開き直れもしない。


「私のところの部下が非礼をおこなったことに関してはお詫び申し上げなければならない。ただ、我々としても君達と敵対する意志はない。そのことははっきりと申し上げなければならない」


 緊張でひざが笑う。

 ……だが、ここで信念を曲げることは、パパもよしとしないはずだ。


「ぼく達を本気で殺そうとしておいてよく言いますね。なんのために利用するかもわからない人たちに協力しろなんて言われても、できませんよ」

「……まあそう警戒しないで欲しいな。我々と君達は、あるひとつの目的で共闘できるはずだ」


「……ひとつの、目的?」


「そう。阿万原あまはらあかつき――あの日本の大部分を支配し、おまけに世界さえもコントロールしようとしている男。君達も阿万原あまはらを探していたのだろう?」

「……はい。そうです」

「ならば話は早い。我々は崩壊した秩序を再編成しなければならない。その際に、全ての元凶たる阿万原あまはらあかつき――世界の叛逆はんぎゃく者を打倒するために、君達の力が欲しいのだ」


「……ぼく達はそもそも、阿万原あまはらあかつきという人物のこともよく知らなければ、現在の世界のこともよくわからないのです。ぼくらに指示したボクらのパ……父も、阿万原あまはらという人が何かとんでもないことをしようとしている、ということはつかんでいたようですが、詳しいことまではわからなかったようですし……」


「なるほど。君たちのお父上――エトリー・マーロ博士。彼とは旧知の仲でね」

「なっ!? ほ、本当なんですか!?」

「ああ。そして、阿万原あまはらあかつきとも知り合いでもある」

 気がつくと、ぼくはこの男――たん智高ちこう総裁の話を食い入るように聞いてしまっていた。


「私達はかつてあるプロジェクトに関わった仲間だった。のちに、天孫てんそん計画と言われる『神伊号しんいごう計画』。日本主導で宇宙ステーション内にて進められたプロジェクトだ。もっとも、それについては君達もよく知っているはずだね?」


「えっ、は、はい……」


 驚いた。

 

 天孫計画――つまりぼく達が産まれることとなった計画じゃないか。 

 パパと知り合いだったなんて……この人の言っていることは本当なのか……?


「君達のお父上と阿万原あまはらが対立するようになり、結果エトリーと君達だけが宇宙ステーションに取り残されることとなった。大変心苦しいことであったがね……」

「つまりパ…父とぼく達は、宇宙に『捨てられた』ということですか……?」

「事実上、そうであったと言わざるを得ないだろう。もっとも私たちは一時的なものだと考えていたがね」


 パパは絶対にそうは言わなかったけれど、恐らくはそうなんだろうな、ということはぼくらもわかっていた。


「無論我々プロジェクトに関わった者もそのまま手をこまねいていたわけではない。だが、君達が宇宙に置き去りにされていた間、我々を巡る情勢も大きく変わってしまった。国際的な混乱から、もはや宇宙ステーション開発どころではなくなってしまったのだ」


 ぼくたちは『宇宙ステーション』という名の巨大な孤島に捨てられたんだ。

 だが、改めて告げられるとものがあった。


「そんな状況下で出たのが先の『世界無秩序宣言』と通称されるあれだ。君達も地上に降りてから聞いたこともあるだろう」


「は、はい」


「世界が国家のようなものに分かれているから対立してしまうのだ。それならすべていったんチャラにしてしまえばいい。そのような論理で、一部の勢力が一方的にすべての国家と国際機関の無効を宣言したのだ」


「……こどもが考えたような理屈ですね」


「そう、その通り。だが長い混乱で、実際にそれらを支持する大きな動きができてしまった。世界の国々はそれぞれ抱えていた問題が噴出し、一気に分裂していくことになった。私はなんとか『中華』と呼ばれていた一部をまとめ、周辺国と連合を組んだものの、実際安定とは程遠いというのが正直なところでね……」


「その流れを主導したのが阿万原あまはらなんですか?」


「そういうことだ。ヤツは混乱につけ込んで世界の通信制御網を掌握した。今や正確な時間を知るのだってかの国に頼るしかない。訳もなく『時を刻む国』なぞ名乗っているわけではないということだ」


「つまり通信システムを握った阿万原暁の『時を刻む国』対あなた方との戦いにぼく達を巻き込むつもりだ、ということですね?」


「物わかりが良くて助かるよ。君達の『高天原タカマガハラ』は現状ほぼ唯一と言っていいほど『時を刻む国』の干渉を受けることなく動かせる機体なのだ。そして、その力を引き出すことができるのは君達をおいてほかにない」


「……調べたんですね」


「私も研究者の端くれだからね。政治家なんぞ柄にもないことをしているがね」

「……協力しない、と言ったら?」

「君達にその選択肢はないと思うがね。君達はこどもながら、賢明な判断ができるはずだが――?」


 左右を確認すると、華々しいパーティーの中においても常に目を光らせて控えている数人の兵士。今ここで丹総裁が撃てと命じるのを待っているかのような、ピリピリとした視線を肌で感じる。


「恐れながら丹総裁、ぼくはまだこどもですよ、年相応のね」


「――君の母がここにいると言ったら?」

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