Ⅰ-10 彼の小規模な世界から

 ――それが、あの日の阿万原あまはらこよみとの出逢いであり、『時を刻む国』の住人となった、大きな節目の日のことだ。



 2047年。混乱を極めた国際連合で『世界無秩序宣言』なるモノが勝手に発表されてひと月余りが過ぎた――らしい世界。

 だからと言って、ネットはつながってるし、毎日普通に暮らしていけるんで、そう言われてる世界の方が空想のものに感じられる。


 いや、普通じゃ、ないな。


 僕は生涯毎月100万のお金と、家を一切出なくとも過ごしていける衣食住の保証と引き替えに、この、『時を刻む国』とやらでの生活を余儀なくされている。

 とはいえ、いきなり別の国に来させられて閉じこめられてるんだから、まともじゃないはずなのに、この上ない安堵感を覚えている。


 それは、家をそのままの状態で移されたからかもしれないけど、それ以上に、テレビとかで見る世界が実際戦乱に巻き込まれてたり悲惨な状態らしいのに比べたら、完全に『勝ち組』だということがわかったこともあるかもしれない。


 最近はニュースをモニターで見ることも楽しい。

 日本のはるか東に建てられた『時を刻む国』は小さな国土でありながら人口10万にも達しつつあり、首都である『極東京きょくとうきょう』も発展めざましく、急ピッチで開発が進んでいるという。

 実際我が家の四方から見える外の様子も、さらに日増しに発展していくのがわかる。


 全世界のネットワークを掌握し、『時を刻む国』の提供するネットワークなしには時間を知ることすらもできない、と言われるほど圧倒的な影響力をもって秩序なき世界に新秩序を築こうとしている、新興の強国なのだ。

 もう日本は保護国として完全に手中に収めており、ほかの世界各国を飲み込むのも時間の問題だろう。


 僕はそんな『強国』の一員として、この勝ち馬状態に一足早く乗ることができたのだ。

 だから、僕を文字通りこの国に『売った』両親を、今では感謝すらしている。


 最初は不安で不安でたまらなかったけど、お目付役と思われるこよみとかいうノイズが現れただけで、美少女ロリメイドの陽乃ひのちゃんとも最近は話もできるし、むしろ僕の生活は以前よりかえって充実していた。


 外に出ずに一生こうしてネットしてゲームして……好きなことして暮らしていけるなら、それで僕は充分だ。将来の心配もしなくていいし。

 あえて不満点を挙げるとしたら、こよみの目があるせいで独り遊びがしづらいくらいか。



 しかし、今日はちょっと様子が変だ。


 いつもはこよみがたいがい僕の部屋にずぅーっといるにもかかわらず、今日はとんと見ない。


 まああんなプログラム、いない方が心おきなく陽乃ひのちゃんと2人っきりでいられるし、全く構わないんだけどね――



 メイドの陽乃ひのちゃんの煎れてくれた紅茶を飲みながら、他愛もない会話を交わしながら過ごす時間。

 長い間引きこもりを続けていた僕にようやく訪れた安息の時。ああこの時間がいつまでも続いたらいいのに。心の底から、そう思える。


 ……と思ったら突然、命からがら戦地から逃げ出してきたかのような、余裕のない表情をして現れてきたもんだから、久しぶりにびっくりした。


「おいこよみ、どうしたんだよ。そんな青ざめちゃって。実体のないお前でもとか?」

「……うるさい!」

「おおこわ。これだから女は」


「『宇宙そら御子みこ』め……やってくれる……! ……まぁ、いいですわ。あなた方の『時』は我々が握っているのですからね」


「? なんの話だ?」

「いえ、こちらの話ですわ、大野様」

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