Ⅰ-5 LaS Kanore

 『高天原タカマガハラ』の動きが止まった。


 頭部だけとなったぼくの機体は、力なくゆっくりと地に下ろされた。

 急いでコックピットから降り、ぼくたちの家へと駆け寄る。


「サヤ……!」


 コックピットのハッチが開かれたと思ったら、そのまま重力に逆らわず、ゆらりと力なく落ちていく。

 あわてて上空から落下する妹を受け止める。

 改めて抱きとめてみると、こんなにも小さく、脆く崩れ去りそうな身体なのかと気付かされる。


「サヤ……! 大丈夫か、サヤ……!」

「ん……」

「よかった……! 無事か……!」


 ちょっと顔色はすぐれないけど意識ははっきりしているようで、ひとまず胸をなで下ろす。


「お兄ちゃん」

「……どうした?」

「パパの声が……聞こえたんだ……」

「ああ、ぼくもだよ……立てるか?」

「うん……ありがとう。これ以上は、迷惑をかけられない」

「そんなこと考えなくていい」


 その場で少し休んで顔色はよくなったみたいだけど、それでも疲労の色は隠しきれないようだった。

 どんな時でも表情をほとんど変えることのなかった妹がこれだけ苦しそうにしているのを見るのは、常に一緒にいたぼくでさえはじめてなくらいだ。


 ……あの、コヨミとかいう女はどうやら撤退したらしい。

 神出鬼没というかなんというか、そんな次元さえ超越しているというか。

 まあ、今はそんなことどうでもいい。

 

 それよりも……ぼくはともかくとして、サヤには休息する時間が必要だ。

 ただでさえ『セルツェ』システムと脳波をリンクさせるのは心身共に大きな負担となる。

 さっきのような予期せぬ動作をしたなら、なおさらだろう。



 ――しかし、あれはなんだったんだろう。

 あの『タカマガハラ』が人型に変形するだなんて……パパからも全く聞かされていなかったけど……


 そんな疑問を見透かしたかのように、妹はつぶやいた。



「ラス・カノレ」



「え?」


「『ラス・カノレ』……それがあの人型形態のコードネーム」


「そ、そうなのか……?」

「うん。パパがあの機体の中で教えてくれた」


「パパが……!? どういう意味だ……?」


「サヤも詳しくはわからない。だけど、サヤとお兄ちゃん、この2人で乗ることが前提になってるシステム……らしい。この2人の調和が崩れたり、ほかのひとが乗ったりすると、さっきみたいな暴走を起こしちゃうらしい……」


 よくわからないけど、さっき暴走を起こしたのは、サヤだけしか乗らず、おまけにコヨミという『異物』が入り込んだからなのだろうか……?

 

 パパはなんでこんなシステムを……?


 いやそれもそうだけど、この『ラス・カノレ』――『タカマガハラ』は、最初からぼくとサヤだけが乗るように設計されていた、ということか……? 

 

 どうしてわざわざそんな……


 もしかして、パパは初めからぼくたちに託すつもりで……? 

 でも、だったらぼく達には教えてくれてたって――……ああもう、わからないことだらけだ。



 ……それに、あのコヨミとかいう女のこともそうだ。



 身体を休めるのはもちろんだけど、このあたりのことをはじめから整理しておきたい。

 ひとまずは場所を変えよう。さっきまでの戦闘のせいで、この道がいつ崩れてもおかしくないだろうしね……。

 どこかに適当な町があればいいけど――


「行こうか……立ち止まって考えるのは、それからにしよう」


 ナミも小さくうなづいた。そして小さく一歩を踏み出したその時だった。



「さっきはよくもやってくれたな。……追いついたぞ」


 振り返ると、先程ラーメン屋で遭遇した兵士達。完全に取り囲まれている。

 くそっ、体勢を整えるのが早いな……心を鬼にしてきっちり撃ち落とすべきだったのだろうか。


 ……いや、それはできなかっただろうな。だってぼく達は兵隊じゃない。死ぬ覚悟もないし、死なせる覚悟もないのだから。


「ずいぶん派手に暴れてくれたようだな。まぁ、おかげでお前らの居場所が特定できたんだがな」


「くっ……『ヴォーラ』……!」

「おっ、おい、サヤ、今のお前には……!」

「……あっ」

「サヤっ!」

 

 ほら、言わんこっちゃない……! 

 ガクリと膝を落としたサヤを、慌てて抱き止める。

 この状態のサヤを連れて逃げても捕まるのは時間の問題だろう。ましてぼく独力では『セルツェ』の加護を得ることもできないからね……



 まったく使えない兄貴だよな、菅野かんのセイ――!



「大人しく来ていただこうか。世界の再編のために。我がファーシャスタン連合へ」


 抵抗はここまで。ぼくとサヤ彼らの軍隊に捕らえられたのだった。

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