Ⅰ-5 天を覆う陰と光明

 突如何もない空間から姿を現した謎の敵の猛攻を受け、那美ナミが深い谷の底へと投げ出されてしまう。


 だが――寸分も狂いもないタイミングだった。


 那美ナミの落ちていったところで『高天原タカマガハラ』搭乗口のハッチが開き、うまく救出した。

「間に、合った……!」

 ほっと胸をなで下ろした。

 だからと言って安心するにはまだ早い。これで脅威が去ったわけではない。

 ――でも、これでこちらも敵に対抗しうるだけの力を得た。

「……よくもやってくれた。ここからは那美ナミたちの、反撃……!」

 大空へと飛翔する『タカマガハラ』。

 ……ぼくは戦闘だということすら忘れ、その美しさに息をんだ。


「はっ、どうしたところでこの『大率タイスイ』にはかないはしないのよ……!」

 うわっ……!? と、飛んだ……!? 

「なんて跳躍だ……!」

 高度を上げる『高天原タカマガハラ』の、そのさらに上空を一瞬でとらえるほどの速さ――


 化け物だ。

 完全に間合いを取られてしまった。


すべてにおいて! お前らよりも、上なのよ!」

 『大率タイスイ』と言っていたあの黒い機体の腕が再び振り下ろされる……!

 

 もうダメか、と思われたが――


「なッ……!? な、何がどうなってるのよ―……!? は、離せ……!」


高天原タカマガハラ』機体主翼の上から、腕が――?


「こ、こんなの、知らない……!? 何がどうなってるのよ……!?」

 明らかに狼狽ろうばいの色が見えるこよみ

 ぼくもこんなギミックの存在はまるで知らなかったからびっくりしたが、しかしこの取り乱しよう。意外と想定外のことが起こると弱いのだろうか。

「反撃と言った……!」

「くっ、は、離せ……! ……離せっつってんだろォ!」

 まずい、 また碗部レーザー…… そのままその腕を持っていたら直撃する……!


 だが光が放たれるその刹那、グイッと大きく『大率タイスイ』を引っ張りそのまま力任せに腕を引きちぎった。


「……は?」


 こよみは面食らっていた。

 さらに、大きく「く」の字に割れ脚のような形状になった船尾で『大率タイスイ』を蹴り上げる。

 

 ズゥゥゥン!

 敵機はすさまじい勢いでに斜面に叩きつけられる。

「は、はは……なんてバカ力だよ……。いや、それよりも」


 『高天原タカマガハラ』も、人型に、変形した……!?

 ただのギミックじゃなく、れっきとした形態としての手足だったのか。


「とんだブラックボックス。面白い、面白いじゃない! エトリー・マーロ!」

「!?」

 くっ……また消えた……!?


 それもそうだけど、アイツ、ぼくらの――


「その機体、私にちょうだい! 那美ナミ様ッ!」

「――!?  オマエ……ッ……!」


 ……何かおかしい。

 人型になった『高天原タカマガハラ』が……何かを振り切ろうと必死にもがいて……何かがあったのは間違いない。



 まさか、乗っ取られた……!?



那美ナミぃッ!」

「兄妹愛もいいですけど、まず、自分の心配をしたらどうです!?」

 『高天原タカマガハラ』が人型になったは、不気味な静止時間を置いてから、ぼくへ向けて再び襲いかかってくる。

「くっ…!」

「あははっ! この狭い山路で、どこまで頑張れるでしょうかねぇ!?」

 この人型、さっきのより……

「動かせる。システムは『大率タイスイ』とほとんど変わらない。これをあのお方の手みやげにすれば……」

「あ…あ……ア…ア……」

「……? 那美ナミ様? どうされたのです? ……バイタルに乱れが」

「アアアアアアーーーーーーーーーーーーーッ!!」

「――!? な、那美ナミ様!?」


 『高天原タカマガハラ』が禍々しく、変形していく。

 ……機体の色まで、どんどんと、黒く……な、なにがどうなってる……?

 まるでさっきまでアイツが動かしていたあの『大率タイスイ』とかいう――阿万原あまはらこよみとかいうの、何をしたというんだ。

  

「……クソッ、うんともすんとも……チィッ、ブラックボックスっぷりにも程が……――ぐっ!? まさか、この私を取り込むつもり……!?」


 何がどうなってるかわからないけど……迷ってなんかいられない。

 那美ナミを――妹を助けなきゃ。でも、どうする……?

 アレは……そうか、もしかしたら……

 イチか、バチかだ……!

「……危険だわ。ここは一時――!? 移動、で、できない……!? バカな、実体を持たない私が……!? ふざけやがって――はっ!?」

「うおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

「『大率タイスイ』……! あれにあのガキが!? クソがッ!」


 よし、ぼくにも基本的な動作くらいは……!


 あちらはどうやら制御できなくなっているみたいだからな……まずは一発お見舞いしてやる!

 だが突き出した拳は空を描いた。……くそっ、外した……!?

 だがこちらが大きな隙を晒したにもかかわらず攻撃してくるわけでもなく、ただガタガタと小刻みに震えている。

 不気味だな。

 ――でも!


「構うもんか、押し通る!」


「うぁ…あ……」

「――那美ナミ様……?」



「ウアアアアアーーーーーーーーーーーーーーッ!!」



 あれはまさか――

 

 はっと気付いた時には遅かった。

 険しい谷を切り裂くかという破砕音と共に横断する衝撃。

「あああッ……! …ゲホっ、ゲホっ……」

 機体の制御を失い尻もちをついた形になった。

 ……クラクラする……確実に機体脚部を……!? 立ち上がれない。

 その黒く禍々しい機体が、獲物を追い詰めた野獣のように見下ろす。

 それまではぼくたちの安心して身体を預けられる、我が家のような存在だったはずの、禍々しい『何か』。 

 本当に、これに那美ナミが――!?


「!!  ……がっ……!」


 激しい前後の揺れが起きたと思ったら、ぼくの周りだけが重力に逆らい持ち上げられていく感覚に襲われた。

 頭部から下が……くそっ、まったく操作が――まずい。

 目に入れても痛くないほどかわいい妹に兄殺しの非業など、背負わせたくない。けれどもぼくはこの逆境を変えるには、あまりに無力で。

 残されたのは、せいぜい祈ることくらいしかない。


「……ナミ…目をましてくれ……!」


 もうぼくさえも認識できないというのか……!?

 ぼくの乗っている頭部ユニットに手をかけ潰そうとしたその時だった――



「パパ……?」



 パパの声が、聞こえた気がしたんだ。

 パパがぼく達に直接語りかけてきたに違いないんだ。

 

 涙が頬を伝っていく。

 

 そうそれはおそらく、那美ナミにだって――聞こえたはずなんだ。

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