ナギ&ナミ編

Ⅰ-2 2人の兄妹

 ―ー2047年。和寧わねい国・漢陽ハニャン特別市


「宇宙から落ちてきたとされる未確認の物体をとらえた映像が、全世界で話題を呼んでおり――」


 店内のテレビが映す音声映像には目もくれず、ぼくたち2人はこの店の主人さんのご厚意に甘えて日式拉麺――『ラーメン』というものをいただいていた。

 特に食べることには目がない妹は、黙々とがっついていた。

 よかった、とても嬉しそうだ。


「おぅ、ボウズと嬢ちゃんにも気に入ってもらえたかい。そりゃあよかったぜ」

 気のよさそうなお店のおじさんが満足げに微笑む。

 お客さん(っていうんだっけこういう場合)はぼく達だけの貸し切り状態。

 パパとの勉強で見たドキュメンタリー映像のような、年季を感じるお店のたたずまいがなおのこと味わい深く感じられる。


「こちらこそ、ありがとうございます。ここに来てから何も食べてなくて……助かりました」

「――にしても見たところお前ら、ここらへんのヤツじゃないみたいだが、こども2人でこの辺をうろついてたら、危ないぜ。この辺はここ最近、一気にガラが悪くなったからな」


 がらが悪い。


 言葉の意味は理解できるけど、このたとえにいまいちピンとこない。

 ――なにせぼくたちはほんの少し前まで、そもそも集団での生活とはまったく無縁だったから。


「ありがとうございます。……でもぼくらは行かなきゃならないんです。あ、これごちそうさまでした。お代は要らないとおっしゃってましたが、やはりそれでは申し訳がないので、お受け取り下さい」


 ぼくはパパから預かっていたカードを店主のおじさんに手渡す。

 いざとなったら使えと言われていたヤツだ。


「だからいいってのに。今時律儀りちぎなヤツらだなあ。……食うに困ってたようなお前らが、本当に日本に行くのか!? あそこは今お騒がせの国に占領されてキナ臭いらしいから、やめといた方がいいってのに。……それよりもいっそどうだ、こんなロクに客のこないオンボロだがお前らくらい住み込みで――」


「ありがとうございます。でも日本が危ないというならなおさら、ぼく達が止めなきゃならないんです」

「止める? お前ら、いったい――!?」


 のれんの前で話し込んでいると、後方からけたましく足音が響く。

 等間隔で刻まれる力の誇示。これが――軍靴ぐんかの足音、というやつだろうか。

「お前らが宇宙ステーションから地球に降り立った――イズミナギイズミ那美ナミだな?」

 足音のんだその先には同じ恰好をした、屈強さにたのんでふんぞり返る男性達。――直接目にしたのははじめてだ。これが、軍人という存在か。 

 こういった格好の特徴はパパに見せられた旧世紀のドキュメンタリー映像とほとんど変わらないから、一目ではっきりとわかる。


「地球に……!? じゃあお前らがニュースの……」

 おびえながら発されたその言葉を軍服を着た構成員のひとりがさえぎる。

「おいオヤジ。長生きしたかったら、賢明な洞察力を今一度働かせることだな」

 おじさんは息をみ、ただ強くうなづいた。

 着飾られた勇壮さは傲慢さの虚飾。話に聞いたり映像や物語で見たイメージ通りだ――やはりこういった人種は好きになれそうにない。


「さて。イズミナギイズミ那美ナミ。お前らの素性はとっくに割れている。大人しく我々華夏国ファーシャスタン連合のもとへと、ご同行願おうか」

 

 ……やれやれ。イヤだという選択肢は恐らく考慮されてはいないのだろう。

 ここで突っぱねるとしても……店の外も招かれざる客達に囲まれているようだ。

 

 ――まずいな。

 

 地球に降りた以上遅かれ早かれこうなることは織り込み済みではあるけれど、無関係の人をくだらない争いに巻き込むわけにはいかない。

 まずはこのおじさんが巻き込まれないように離脱しなきゃ。

 ――けれど当然この兵隊さん達も、そうさせまいとするのが仕事だ。やはりというかなんというか、あくまでぼく達の行く手をはばむ。


「おっと。変な気は起こすんじゃないぞ。お前らが少しでも動いた瞬間このオヤジの頭は、パン! だ」


 自らのこめかみを指でトントン、としたジェスチャーで脅しをかける兵士。

 パパが口を酸っぱくして言っていた通り。軍人というのは度し難く、卑劣だ。


 だがそんな使い古された脅しなど、効きやしない――!

 

「おいきさまら! 話を聞いていたのか!? こいつがどうなっても――」

 構わずナミと目で合図し、兵隊たちをかき分けのれんをくぐろうとする。

「……ナメるなよ小僧。きさまらを連行するためならなんだってする。後悔するんじゃないぜ。――本当に撃つぞ!」

 


 パァンッ!!!



 嫌な音が耳に残る。

 だが発射された銃弾はどこにも命中することはなかった。

 

「……は?」


 ファーシャスタン連合、と名乗った軍人たちは呆気にとられていたようだ。

 それもそうだ。銃弾が忽然こつぜんと消えたのだから。

「ぐあっ!」

 ……そんな彼らの虚を突くのなんて、パパの出す計算問題を解くのよりもはるかに易しいことだった。


「この程度で驚くなんて、軍人っていっても人間だね」


「きさまらァ! 止まらないと撃つぞ!」

 もう撃ったじゃないか。

 それなら――!

「……そうですね、ぼくらは動きません」

「なにィ?」


 那美ナミが「『セルツェ』起動」と小さくつぶやく。


「ぎゃあああああ!?」

「どうした!?」

「銃が……撃ち抜かれ――」

「なんだと!? ……ぐぬぁっ!?」

「お、おいお前ら……なぁっ!? くそっ、上から!?」


 混乱に乗じて包囲をくぐり抜け、ラーメン屋をあとにする。

 ……巻き込んですみませんでした。


「……そこを右。まっすぐ行ったら2つめで左に曲がるよ」

 『セルツェ』から那美ナミに、直接送られてくる(らしい)俯瞰ふかん図を頼りにぼく達は市街地を駆け抜ける。

 なんとしても、『高天原タカマガハラ』をび寄せられるだけの、広くて開けた土地に出なければ。

「くそ……追え、追えぇッ!」

 逃がすまいと食らいつく軍人達。

 人の往来もたくさんあるところで銃撃戦にでもなって罪もない市民を巻き込んではいけない。――ぼく達がこの地から離脱するまで足止めしなければ。

那美ナミ……負担は大きいけど、いけるか?」

 妹は決意に満ちた面持ちでうなづく。


 ――そうだったな、愚問だった。


 四の五を言わずとも、いつでもぼく達は心で通じ合っている。那美ナミはどんな時も、己に課せられた役割をしっかりみ取ってくれる。

 妹ばかりに負担を求めてしまうことになって心苦しくはあるものの、想いは同じなはずだ――

 那美ナミは数機の浮遊ユニットを、追ってくる刺客を取り囲むように配する。先程これを見ている兵隊さんたちは、すっかり立ちすくんだようだ。

 そうだ、それでいい。そこで大人しくしていてくれ。

 

 ぼく達の身体から完全に独立した最小限の武装による、ピンポイント射撃での制圧。その高度な戦闘が可能なのはあるシステムの恩恵があるからだ。


 『高天原タカマガハラ』とパパのいる『宇宙ステーション』。

 この2地点と、ぼく達の位置座標。あわせて3地点を『セルツェ』とうシステムでリンクさせることで、『高天原タカマガハラ』本体やそれに搭載されている浮遊式ユニット『意志ヴォーラ』の移動や攻撃などが遠隔操作で行える。 


 といってもあまりぼくが誇れることじゃないのがもどかしいのだけど――


 那美ナミのナビゲートに従って人並みをかきわけて進んで数刻。

 これが本当の『公園』というところだろうか、とても広くて整地された場所に辿たどり着いた。

 よし、ここなら――!

「来てくれ、『高天原タカマガハラ』!」

 ぼく達は再び空へ――

 飛行艇『高天原タカマガハラ』をび寄せ地上を離脱する。


 視界には一面澄み渡る青天が広がる。

 地上の山や川、人の住まい。それら折々が具体的な姿として眼前に飛び込んでくるのが面白かった降下時とは違い、どこまでも続くのはただただ、吸い込まれてしまいそうなほどの、蒼。

 叶うならいつまでも、妹とこの作り物じゃない奇跡の光景を眺めていたいところだけど――残念ながらぼく達に立ち止まることは許されていない。

 このまま目的地へと行ってしまうか。目指すは日本。

 さっき『ファーシャスタン連合』の手の人達と衝突した一件で尚更確信した。ぼく達は行かねばならない……あの人を止めるために。

 

 だがやはり、はいそうですかとそのまま通してくれるはずもなさそうだった。 


「追ってくる、か。まあそりゃあそうだよね」

 後方には複数の戦闘機――数にして5機。さっきぼく達を取り囲んだ人たちよりは少ないけど、おそらくはその人たちと見て間違いはないだろう。


 ともあれ、この『高天原タカマガハラ』の『セルツェ』システムの加護のおかげで、まずは舞台を別の場所に移すことには成功した。

 ここからの戦いは空の下の被害には気を配らなければならないが、それ以外は自由だ。

 シミュレーションでしかやったことがないからぶっつけ本番だけど――システムの利点をフルに活かした立体的な機動戦、あなた達にも見せてあげるよ!

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