恭介、漫喫デートを満喫する。

 前に一度来ているので漫画喫茶店内の位置関係は大体把握していた。


「んじゃ、こっちな」


 恭介は結愛を促し、割り当てられたペアシートに移ることにする。


「へ、へぇ~……」


 物珍しそうに店内を見回しながら、結愛。


「え~っと、漫画とかはそっちで、トイレはあそこな」


「う、うん……あっ、ドリンクコーナー……あれって全部タダ……なんだよね?」


「そうそう、セルフサービスだけど無料で飲み放題」


「そ、そっかぁ~……なら、ジュースだけでも元取らないと……だよね?」


「いや、無理だろ、そう飲めるもんでもないって」


 ソフトドリンクの原価なんてたかがしれている。どう考えても元が取れるわけがなかったし、もしそうなるようであれば漫画喫茶の経営が成り立たない。


「とりあえず瀬奈君は何を飲みたい?」


 ガラスのコップを手に取り訊いてくる結愛。

 恭介は先にペアシートを確認してから考えていたが、問い掛けられたので答える。


「んじゃまあ、コーラで」


「瀬奈君、コーラ好き……なの?」


 結愛が訊きながら、コーラのボタンをポチッと押した。


「むしろ嫌いな理由がないな……ありがとう」


 恭介が取り出し口から取り出されたコップを結愛から受け取ろうと手を伸ばした。


「う~んと、それだとボックス席のドア開けれないからわたしのと一緒に持ってくね?」


 結愛はドリンクコーナーの脇にあったトレイを一つ取り、コーラをその上に置いた。

 それもそうかと思って恭介は結愛の厚意に甘えることにした。


 そして次は結愛が自分の分のコップを手に取り、恭介同様、コーラのボタンを選択してポチッとな。


 更に結愛はコップを取って、今度はミルクティーのボタンはポチッとな。


「って、こらこら。誰の分だよ?」


 恭介の突っ込みに、結愛は不思議そうに小首を傾げて見せて、


「えっ? わ、わたしの……だよ?」


「いやいや、もう二つあるじゃん。何で二人なのにコップ三つになってるん?」


「えと……コーラ二つは瀬奈君の分……ね?」


「んっ? 二つとも俺の?」


「そう。男の子だしいっぱい飲むでしょ? 往復するのも面倒かな……って」


「ああ……そんなもんなのか」


 お店だから構わないのかもしれないが、恭介の場合、家だとわざわざ洗い物を増やすような真似はしないし、何となく店の人に気が引けたのである。


「まあ、いいか……ついじゃったし。どうせ飲むし。席に行くか?」


「う、うん……」


 恭介たちはドリンクコーナーから、ペアシートのエリアに移る。


「番号は……ここでいいな」


 恭介は番号を確認し、狭い空間に仕切りが入れられたペアシートのドアを開いた。


「へ、へぇ~……け、結構、広いん……だね?」


 結愛が三つのコップが載せられたトレイを並んでおかれたパソコンの代の上に置きつつ言った。


「確かにあっちより広いな」


 以前は一人席で窮屈な部分があったが、こちらのペアシートは、二人でもゆったりと寛げるようなスペースが取られていたのである。


「結愛はどうすんの? パソコンあるしテレビとか映画やアニメも……何かチャンネルあったし、ゲーム機も借りれるのかな? もちろん漫画とかも……」


「その前に瀬奈君? 喉……渇いてる……よね?」


「おう。さんきゅ」


 結愛にコーラのコップを一つ手渡され、口に付けて傾けてごくごくと喉を鳴らす恭介。


「あ、出前も頼める……んだね?」


 ピザやら写真が載った出前表を見つけ、感心するように結愛が言った。


「……げぷ、腹減ったの?」


「あ、ううん……お昼もここで済ませれるんなら便利だなって思って」


「ああ、そうね。確か時間内なら一旦外出して戻ってもよかったはずだけどな」


「へぇ~、そう……なんだ……じゃあどうしよう? お昼までは時間あるし、瀬奈君は何がしたいの?」


「んっ? 俺か? 俺は……漫画の棚でも漁ってこよっかな」


「えっ? せっかく二人できたのに?」


「いや、漫画喫茶だからそんなもんでしょ? 結愛はどうしたいの?」


「わ、わたしは……その……」


 結愛はそこまで言うと頬を赤らめ俯いて、


「瀬奈君とキスがしたい……かな?」


「えっ……」


 固まる恭介。


「あ、冗談……だよ?」


 と、結愛ははにかみつつ言った。


「あ、そうか……そう……だよな?」


 慌てて取り繕うように恭介。

 結愛の言動のせいで、胸の鼓動が早くなりつつあった。


「えと……瀬奈君? 映画とかも観れるんだよね? だったらさ、一緒に……どうかな?」


「でも一緒には……ヘッドホンが……ああ、二つ繋げれるようになってんのか。じゃあ、観てみるか?」


 恭介は、パソコンの起動ボタンを押した。

 そしてデスクトップ画面になると、そこから『遊感』がお薦めするサイトのアイコンの一つをクリック。


 そのサイトは、インターネットカフェ等と主に提携している動画配信サイトで、レンタルDVD店であれば新作、準新作のような比較的新しい作品も見れるようであった。


「あっ、これ……」


 恭介は、いきなり目に飛び込んできたパッケージに反応した。

 それは最近話題の海外ドラマであった。

 トーク番組でとあるタレントさんが徹夜して全話を一挙に観てしまったほど面白いと話題にしていたり、何かと話題の作品であり、ちょっと気になっていたのである。


「結愛、これとりあえず一話だけ観てみないか?」


 ファーストシーズンは全十二話だ。

 すべては観れないが、どんな話か一話目だけせっかくなので観たいと思ったのだ。


「ああ……最近CMでよくやってるよね? 友達も面白いって言ってて気にはなってたんだ」


「そんじゃあ決まりだな」


 そんなわけで恭介たちは、今話題の海外ドラマ『Large athletic meet』を観ることにした。




「お、おもすれー」


 一話しかまだ観終えていないが、このテンションが最終話まで続くなら、徹夜してしまうのも頷けた。


 少なくとも恭介は、初っ端から引き込まれ、通して二話目をそのまま観たいと思ったが……


「瀬奈君? 瀬奈君?」


 肩をとんとんと優しく叩かれ、結愛を見やり、


「んっ? んっ? 何? 何?」


 と、恭介はヘッドホンを外して訊いた。


「えと……一旦、止めてもらっていい……かな?」


「あ、もしかして合わなかった? 俺はこのまま続き観たいから、悪いけど――」


「あ、そうじゃなくてね、それ……」


 と、結愛は恭介の飲み干したコップと飲みかけのコップを指差して、


「わたし、もう一杯欲しいから、瀬奈君のもついでに、持ってこようかな……って?」


「ああ……一つは少し残ってるし喉も渇いてないからまだいいかな」


 それよりも早く続きを観たかった。


「でも……ついで、だから……コーラでいい?」


 結愛が空になった二つのコップをトレイに載せ、訊いてきた。


「えっ? ああ……まあ……あったらあったで飲むか? でも炭酸はもう……さっき結愛が飲んでたのってミルクティーだっけ? それと同じやつ頼んでいい?」


「じゃあちょっとだけ待っててね」


「ごめん。さっきから。ありがと」


「ううん、全然」


 結愛はそそくさとペアシートを出て行ったが、すぐ外のドリンクコーナーで二杯分コップに注いで帰ってくるだけなので、すぐに戻ってきた。


「お、お待たせ」


「んっ?」


 恭介は、結愛が手にしていたトレイの上の湯気の立った陶器のカップに小首を傾げる。


 おそらくホットな飲み物は結愛のものだろう。


 しかし他に二つ、恭介のミルクティーが注がれたコップと、見た目からしておそらくはグレープジュースであろう飲料が注がれたコップが同じくトレイに鎮座していたのである。


 つまりはまた三人分であったのだ。

 そして結愛はグレープジュースを自身の前に置き、残り二つを載せたトレイごと恭介の前に置いた。


「な、何故に?」


「あ、ミルクティー……アイスとホット、どっちがいいか聞いてなかったから、両方もらってきちゃった」


 恭介は眉を顰めつつ、


「そ、そう……なん?」


 どうしたのだろうか、なぜか今日の結愛は、変な方向にから回っている様子だった。


「まあ……勿体ないし、飲むよ? せっかくだし飲むけどね?」


 恭介は残っていたコーラのコップを一気に傾け飲み干して、


「げぷ。とりあえず続き観ようぜ」


 と、続きが気になるので結愛を促すよう言った。


 この時、結愛がとんでもないことを画策していようとは、暢気に愉しむ恭介には知る由もなかったのだった。

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