結愛、ペアルックを所望する。

「やっぱり色葉ちゃんもキスくらいはしちゃってる……よね?」


 色葉はその結愛の発言に、「えっ?」と軽く動揺をして見せた。


 色葉ちゃん『も』キスくらいはしちゃってるいうことは、結愛も当然キスをしちゃっているこその発言に受け取れたためである。

 しかしその答えは結愛から直接得ることはできなかった。


 色葉たちが降りる駅に到着し、結愛は急いで恭介との待ち合わせ場所に向かってしまったからである。


「……キス……嘘……だよね?」


 何かの間違いに違いない。

 結愛に対し、敢えて幼馴染の余裕を見せつけていたが、もしそうだとしたらせっかくの幼馴染要素をまったく活かせていなかったことになる。


 結愛にそっくりな女優さんがいるせいで、おちんちんを弄る時は結愛さんを思い浮かべている割合が高いし、更には恭介のファーストキスまで先に奪われてしまっていたら彼女として完敗である。

 というかどうして自身は今まで恭介の唇を先に奪おうとはしなかったのだろうか? 


 きっとそれはおちんちんばかりに気を取られ、キスにまで気が回らなかったせいだ。

 しかしである。仮に結愛が恭介とキスをしていたとしたら、自分はどうしたらよいのだろうか? おちんちんにキスをすればイーブンに持ち込めるだろうか?


 否。おちんちんにキスをしてもイーブンに持ち込めると考えている時点で彼女として負け越している気がする。


「そ、そもそも恭ちゃんがそんなことするはず……」


 奥手な恭介からキスするわけがない……とは思いたいが、自身に対してしてないだけで、結愛に対してもそうとは限らなかった。悔しいが結愛は可愛い。恭介が、結愛の前で性欲を爆発させていても仕方のないことだった。


「二人っきりだとどんな感じなんだろう……」


 恭介と結愛、二人きりの時はどんな会話をし、恋人同士として、どう過ごしているのか、今までは考えないようにしていたが、無性に気になってきた。


「……間に合う……かな?」


 色葉は結愛を追いかけるように駆け出し、改札を抜ける。


 待ち合わせをするとすれば……


「……いた!」


 案の定である。駅を出てすぐにある待ち合わせ場所として最適な、街の各所にある変なオブジェの前に結愛は佇んでいた。

 恭介はまだ来ていないようで、結愛は恭介が来るであろう方向をじっと見据えていた。


 色葉は二人の動向を探るため、とりあえず恭介が訪れるまで、結愛から距離を置いてこっそりと様子を窺うことにした。



          ◆



 帰宅途中に寄ったコンビニにて、恭介が月刊誌のマンガを立ち読みしていると、結愛からの着信があった。


『瀬奈君? 今日……今から会えたりする……かな?』


 何か用件があるらしく、結愛がそう訊ねて来た。

 恭介に大切な予定がこれからあるわけでなく、暇をしていたので「別にいいよ」と答えた。


 結愛は電車内から電話しているらしく、駅に到着する予定時刻を聞くと、自転車を漕げばいい時間帯に着きそうであったので、駅前で待ち合わせることにした。




 恭介が指定した約束の待ち合わせ場所である県内では有名なデザイナーがデザインしたオブジェの前に到着する頃には既に結愛が待っていてくれて、恭介に気付くとこちらに向け笑顔で手を振ってくれた。


「わりぃ、待たせちゃった?」


 恭介は人を待たせるのがあまり好きではないのでこれでも早く来たつもりであったが、駅の時計を見ると、若干待たせてしまったかもしれなかった。


「う、ううん……こっちこそ……いきなり呼び出しちゃってごめんね、瀬奈君」


「いや、それはいいんだけどさ、急にどうしたの?」


「あ、うん……ちょっとお買い物に付き合って欲しいかな……って」


「買い物?」


 俗にいう買い物デートというやつであろうか?


「う……ん。実はさっきまで色葉ちゃんと一緒だったんだけとね」


「えっ? い、色葉いるん?」


 恭介は慌てて周囲を見回してみたが、それらしい人影は見当たらなかった。


「あ、色葉ちゃんならもう帰ったと思うよ。さっき電車の中でお話してたっていう意味だから」


「あ……そ、そうなん?」


 恭介はその情報を聞くとホッと胸を撫で下ろし、


「そりゃ、よかった……」


 と、心の中で呟いた。


 色葉と結愛は恭介の彼女であった。


 しかしもし二人並ばれたら、どっちを立てていいか分からず、四苦八苦しそうであり、考えてるだけでも胃がキリキリし、なるべくそういう状況になって欲しくはないな、と恭介は思ってしまったのである。


「えと……それでね、瀬奈君……色葉ちゃんとお話しててわたし思っちゃって……やっぱりこのままだと色葉ちゃんには永遠に勝てないんだろうな、って……」


「ん、んなことはないと思うけど……」


 結愛は可愛いし、性格もよい。オムツをしていること以外の欠点は何もない、超絶美少女ちゃんと言っていいだろう。


「でも瀬奈君がずっと好きだったのはわたしじゃなく、色葉ちゃんでしょ?」


「そりゃ、まあ……そうだったけれどもさ?」


「わたしね、時々考えることがあるの。もしわたしが瀬奈君のお隣さんだったらどうだったのかなって……でも実際は違う。幼馴染の色葉ちゃんに瀬奈君の彼女レースで大きく水をあけられちゃってるのはもう仕方のないことだから、これからの時を大切にして、瀬奈君ともっと濃密な時間を過ごしていかないと……って思ったの」


「……それで買い物に付き合って欲しいってこと?」


 これからは些細なことでも一緒の時を刻みたいということだろうか?


「お買い物は……前々から考えていたの。恋人同士だし、ペアルックとかいいのかな……って」


「ぺ、ペアルック!」


 恭介は、結愛と同じパーカーを羽織って、手を繋いで街を歩く姿を想像して、


「無理! 悪いけどそーいうのはちょっと恥ずかしいお年頃っす!」


 こっぱずかしくてさすがに無理っぽかったのではっきりと告げた。


「ああ……違うの。服とか一緒に着て歩こうっていうんじゃないよ? 見えないとこでもダメ……かな?」


「……んっ? 見えないとこ? なる……ほど」


 おそらくは、ベルトやアクセサリーの類なのだろう。


「み……身に着けてくれる……かな?」


 と、潤んだ瞳で恭介を見て言ってくる結愛。


 こんな瞳で懇願されたら断りたくとも断り辛い。


「ま、まあ……そういうことならいいけどよ」


 恭介は、彼女である結愛の提案に乗ってあげることにした。



          ◆



 待ち合わせ場所に現れた恭介が結愛と接触した。

 そして二言、三言会話を交わした後、恭介は自転車を降り、結愛と合わせて歩き始めた。


 その様子を物陰に隠れて遠くから窺っていた色葉は、逸る気持ちを抑えつつ、ちょっとだけ間を開けてから二人の後を尾けることにし、身を隠していた駅の構内から飛び出した。


「あっ?」


 その瞬間、目の前に突然現れた女性と色葉はどんっ! と衝突してしまった。


「す、すいません」


 態勢を整えつつ、慌てて頭を下げる色葉。


「ええ、何ともないわ。大丈夫よ」


 と、女子大生風のファッションに身を包んだ女性もよろける程度で事なきを得たため、軽く頭を下げてから、再び尾行に移ろうとしたのだが……


「それより志田色葉さん、あなたのこと、捜していたのよ」


「えっ?」


 突如、赤の他人と思っていた女性に自身の名前を出されて困惑する色葉。

 彼女の顔をまじまじ眺めるも、まったく見覚えすらなかった。


「え、え~っと、すみません。お名前は何と……?」


 失礼かもしれないが、色葉はそう訊いた。


「八神栞よ」


 彼女の名前を聞いてもやはり思い出せなかった。


「すみません。八神さん? 以前どこかで……?」


「ああ、気にしないでいいわよ。あなたがわたしと会うのは初めてだから」


「えっ? 初めて……ですか? でもわたしのこと知ってて……」


「ええ、以前、あなたに迷惑を掛けてしまってね」


「迷惑? でもさっきは初めてって……わたしも八神さんのことは存じ上げないんですが……?」


「そうね、迷惑を掛けてしまったのは間接的にだし、そもそもわたしにとっては過去のことでもあなたにとってはこれから起こることだもの」


 色葉は眉を顰める。


「……これからですか?」


「ええ、そうよ。わたし未来人なの」


「!」


 よく分からないが、どうやらもの凄くヤバい人であるらしいことだけはビンビンと伝わってきた。


「ふふっ……その顔、信じてないわね?」


「いえ、そんなことは……」


 何かの冗談か、本物か、こういう手合いは変に刺激してはならないと思われた。それにどういう理由かこちらの身元が割れていたため、下手な対応をしたまま逃げるわけにもいかなかった。


「え~っと、昔も未来人騒動があって、信じてたりしましたよ?」


 と、身を固くしてぎこちない笑みで色葉は言った。

 もしかしたら過去の事件と絡めたジョークの可能性もあるかと思って振ってみた。


「未来人? わたしの他に、いたってこと?」


 どうやら彼女は知らないらしい。


「はい、何年か前に……」


 色葉たちがまだ子供であった頃、この界隈で年号が数年先の百円玉が数枚見つかったのである。

 結局、手の込んだ悪戯として片づけられたが、当時は未来人が出現したとちょっぴり賑わったのである。


「へぇ~、そんなことが……まあいいわ。とにかくわたしはあなたに謝罪する必要があってね。それで謝るのに手ぶらというわけにもいかないでしょ? だからこれ……受け取って」


 と、八神は一枚の紙きれを差し出し、言ってきた。


「……何です? これは……?」


 受け取ってみれば、その紙切れには数字やら何やらが印字されていた。


「そこの宝くじ売り場でさっき買ってきたロト6の当選券よ」


 色葉は始めて見たが確かにロト6の文字もあるのでロト6の抽選券であるのは確かのようだった。


「さっき購入したのに当選しているかどうかわかるんですか?」


「ええ、言ったでしょ、わたしは未来人だって。あなたに慰謝料代わりに受け取ってもらうため、番号を控えて未来からきたのよ」


「は、はあ……それは……どうも……」


 何を言っているのだろう? 普通に受け取ってしまったが、やはり返却するべきだろうか……?


「それより志田さん? いいのかしら?」


「……は、はい? 何がですか?」


「何か急用でもあったんじゃないの? 急いでいたように見えたけど?」


「あっ!」


 八神に言われて、恭介たちを尾行しようとしていたのを思い出し、そちらの方向に顔を向けてみれば、既に二人の姿は見当たらない。


「あ、あの……これ……やっぱり受け取れません!」


 色葉はそうやって八神にロト6の抽選券を突き返そうとしたが、


「あ、あれ……八神……さん?」


 八神の姿もいつの間にか消失していた。


 この一瞬でどこへ消えたかは不明だが、面倒であったので、八神のことは放置し、恭介たちの尾行を再開することにしたのだった。

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