現在二位

「あらっ? わたし……こんなところで何を……?」


 断絶世界から強制的に引き戻された里緒奈は、記憶が曖昧な様子で、周囲の建物を見回している。


 恭介はそんな彼女に小走りで駆け寄り、ぎこちない笑みで声を掛ける。


「お、遅くなりました。リオ姉」


「恭介……くん? あなたが何で――」


 そこで暫し固まる。その間に、整合性が取れるよう記憶が再構築さたらしく、里緒奈は落ち着いた表情で言う。


「呼び出し方が遅刻とはどういう了見なのかしらね、恭介くん?」


「す、すんません……」


「それで……わたしに用って何なの?」


「あ、はい……一緒に、あ、遊びにいきません?」


 里緒奈は眉根を寄せる。


「何を言っているの? 何か相談事があるって話じゃなかった?」


 恭介は目を泳がせつつ、


「い、いえ……リオ姉、最近忙しいそうだったから……息抜きでもって……こ、こういう風に呼び出さないと出てきてくれないかなって……ははっ」


 とりあえずそういうことにして誤魔化す算段であるらしかった。


「確かに最近は忙しかったりしたけど……」


 そこまで言うと里緒奈は不思議そうに小首を傾げて、


「わたし……何で忙しかったのかしら……?」


 おそらくは魔法少女の活動であろうが、その辺の記憶はごっそり抜けているらしく、里緒奈は戸惑い始めた。


「えっ、し、仕事じゃないんすか?」


「……仕事……?」


 里緒奈は暫し黙考してから、


「ああ、そうね……仕事で忙しかったんだわ。でもどうしてわざわざこの商店街に? 何もないわよね、ここ……?」


「え、えと……リオ姉の学校の生徒とか、俺のクラスメイトとかと鉢合わせしないようにと思ってとりあえずここで待ち合わせしてから移動しようかなって……余計なお世話でしたね。すんません」


 恭介は頭を下げて謝罪して、


「じゃ、そーいうわけで失礼します!」


 嘘を悟られまいと、そのまま踵を返し、慌てて立ち去ろうとするが――


「待ちなさい、恭介くん?」


 ぱしって彼の手を取る里緒奈。


「は、はい……何すか?」


「行くわよ?」


「へっ? どこにです?」


「遊びによ。恭介くんが誘ってくれたんでしょ?」


「あ、ああ……はい」


 恭介は予期せぬ答えに驚いたように頷いた。


 そうして二人は、腕を組んで商店街のアーケードから姿を消したのだった。


「ふぅ~……いっちゃたわね……?」


 占い師姿のまま二人の動向を見守っていた櫻子もこれでこの場から立ち去れる。

 恭介は里緒奈に連れていかれてしまったが、こちらも魔力が尽きていたのでこれ以上魔法少女を探している場合でもなく、今日のところは良しとする。


 とりあえずこの場を片そうと櫻子が水晶玉を手にすると――


「おめでとう、プリティーサクラコ……」


 その声に足元をハッと見やれば、そこには白い尻尾のもふもふした生き物がいて、


「ボクは信じていたよ。キミが勝つとね」


 抑揚なくそう言ってきた。

 櫻子は周囲を見回し、近くに人がいないのを確認してから、


「あなた……志田里緒奈の味方だったわよね?」


 と、不審な目を向け訊いた。


「いいや、勝った方の味方だよ。ボクの仕事は強い魔法少女を生み出すことだからね」


 特に悪びれた様子もなく白い子狐――QBは言い切った。まあ、ある意味理に適っているといえるのかもしれないが。


「あなたのことはQB……と呼べばいいのかしら、お狐様?」


 里緒奈にはそう呼ばれていたので一応確認。


「好きにしてくれて構わないよ。名前を訊かれた際、名前はなく、九尾の狐であることを説明したらQBと呼び出した魔法少女が過去にいてね……リオナに話したら彼女もそう呼ぶようになっただけだしね」


「九尾だからQB……」


「そうだよ。それ以外に他意はないよ」


「ふ~ん、そう……」


 この何を考えているかまったく読み取れぬ、腹に一物もニ物も抱えていそうな白い子狐を、今後、ずっと様付け呼び続けるのも癪だ。櫻子も前例に倣うことにする。


「それでQB……わたしに何か用だったりするのかしら?」


「ああ……キミがリオナを撃破したことで、竜座の魔法少女候補は完全に一位の候補生と二位になったキミのどちらかに絞られたと言っていい状態になったからね」


「まだ二位……一位にはなれなかったのね?」


 里緒奈に挑み、彼女の竜の苗を自身に取り込んだので、何ならぶっちぎりで一位になっているかもしれないと思っていたのである。


「確かにキミが単独で一位になっていてもおかしくなかったんだけど、キミがリオナを撃破したのと同時刻、一位の娘も四位だった候補生を打ち負かしてね……差は縮まったものの、首位は動かずだよ」


「……ちなみにその差というのは結構離れていたりするのかしら?」


「ごく僅かさ。キョーコの助けを借りればサクラコ……魔力知的にはキミが上回るだろう」


「そう、いいことを聞いたわ。ありがとう」


「どういたしまして。それじゃあ明日、一位の候補生と対戦するようセッティングしておくから用意してもらっていいかい?」


「えっ! セッティングって……?」


「文字通りの意味合いだよ。一位の娘にこれ以上力をつけさすより、倒すなら今がお薦めだよ?」


 櫻子は眉を顰める。


「QB……あなたは中立の立場ではないの?」


「戦場ではね、しかしさっきも言ったけどボクの仕事は強い魔法少女を生み出すこと。リオナが倒されてしまったったからには、キミに味方するつもりだよ」

「よくわからないのだけれど、一位の娘は一位だけど素養自体は少ないってこと?」


 なぜかQBは一位の娘ではなく里緒奈に、そして里緒奈が敗れた今は櫻子につこうとしていた。櫻子はそれを不自然に思ったのである。


「伸びしろを考えてね、今のキミなら十分に勝ち目もあるし、サクラコ……ボクはキミを応援するよ。そんなわけでだから明日の同時刻、キミの許に向かうからキョーコと一緒に準備を頼むね?」


「えっ? ちょっと待って……できれば最高のコンディションで……明日のこの時間までに魔力が戻せるかわからないわ?」


「大丈夫、キミならできるよ。じゃあ、そういうことだから、また明日ね?」


「また明日って! 勝手に決め――あっ……」


 QBの姿が一瞬でその場から掻き消えていた。


 QBにはこちらから連絡を取る手段はない。

 こうなれば意地でも明日のこの時間までに魔力を全回復させておくしかないらしかった。


「不本意だけと、仕方ないわ……」


 櫻子は明日もまた、生徒たちの目に晒されながら、ノーパンツで一日を過ごすことにした。

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