婦警さんの正体は同じ魔法少女候補生の一人であった。


 どういう経緯で正体がバレたのかは不明であるが、まずはこちらも急いで変身をする必要があった。


「えっ? あ……あれっ?」


 手錠をガチャガチャとやりつつ、四苦八苦する櫻子。


 手錠のせいで懐にしまい込んでいた魔法のコンパクトが取り出せなかったのだ。


「ふっ、ふわはははははっ! わたしの勝ちよ、プリティーサクラコ!」


 高笑いする彼女に歯噛みする櫻子。


 どうやら櫻子は嵌められたらしかった。あの白い粉の包みを用意したのもこの婦警さんであり、変身させないために手錠を嵌めさせたのである。こうなってみると彼女が本物の警察官であるかどうかも怪しいところである。


「何で……どうしてわたしの正体を知っていたの? わたしをつけていたの?」


 握られていたステッキから見ても彼女の魔法少女レベルは櫻子よりだいぶ低い。

 つまり向こうはこちらの魔力を察知していてもこちらはできず、ある一定の距離を保ちつつ捕捉されない位置から見張り続け、こちらが変身を解くまで粘って正体を突き止めたと考えたのである。


 しかしその櫻子の予想は間違っていた。


「つけるなんてまどろっこしい真似なんてしてないわよ? それがわたしの特殊スキルなだけよ」


 竜の魔法少女候補生が使える攻撃魔法は〈竜の牙〉のみとなるが、それとは別に、特技なる代物が発動することがあり、それが個人別に与えられる特殊スキルであった。


 彼女の特殊スキルは超強力な探査能力。

 ドラゴンレーダーでは本来、変身している状態でしか魔法少女候補生を捕捉できないが、彼女の場合、変身前の素の状態から捕捉できるらしかった。

 そうして彼女は魔法少女候補生を見つけだし、変身を封じた状態で断絶世界に誘ったのである。


 とにもかくにもこの状況は非常にマズい。


 このまま変身できなければ一撃でやられてしまうだろう。

 時間をかければ魔法のコンパクトを取り出し、変身することも可能かもしれない。だが敵がそんな猶予を与えてくれないだろう。


 こうなれば一か八かである。


「ね、ねえ? あなた……名前は?」


「聞いてどうするの? すぐ忘れるのに」


 櫻子が竜の苗をこのまま奪われれば今のこのやりとりも記憶から失われる、彼女はそう言っているのである。


「そう……かしら? 意外と長い付き合いになるかもよ?」


 櫻子は微笑を浮かべて、


「どう? わたしと組んでみない?」


 と、そう持ち掛けた。


「ふんっ、笑わせてくれるじゃない? 生きながらえたいからって必死ね?」


「……かもね? それでもわたしと組めばあなたにだってメリットがあるでしょう?」


「メリット?」


「ええ、悪いけどあなたは弱い。不意打ちじゃなければ上位者を倒せないでしょう? でもわたしは違う。わたしとあなたが協力すればもっと上手くやれる。どう? 上位者を蹴散らすのに協力してくれない?」


「馬鹿なの? 竜座の魔法少女になれるのはたった一人……いつ寝首を掻かれるともしれない相手と共同戦線なんて張れるわけがないでしょう?」


「でも一人では限界があるでしょう? あなたの実力じゃ、いずれ詰むわ。少しでいいから考えてみてはくれないかしら? 三〇分……いえ、一〇分でいいから」


「一〇分ね……なるほど……わかったわ」


「えっ? わ、わかったって……もしかして、わたしと組むことを承諾してくれたってことでいいのかしら?」


「まさか……わかったと言ったのはあなたの魂胆のことよ。あなたがしたかったこと……それは時間稼ぎ……大方一〇分もあれば何とかこのわたしの目を盗んで変身にこぎつけるとでも思ったのでしょう? けどお生憎様……わたしはそんなに甘くはないのよ?」


「そ、そんな……」


 櫻子は表情を強張らせ、じりじりと後退りつつ、


「す、少しくらいは考えてくれていいんじゃないかしら? これはあなたのために言っているの……断れば後悔することになると思うわよ?」


「必要ないわね、わたしは一人でも上手くやれるもの。さよなら、プリティーサクラコ……」


 言うと彼女は櫻子に魔法のステッキを向けて、


「竜の牙!」


 襲い掛かる光の牙を真っ直ぐ見据える櫻子。


 そしてそれは眼前にて、横から放たれた光の牙とぶつかり、打ち消される。


「な……に?」


 驚きの表情の彼女が、突如乱入してきた魔法少女に目をやった。


「お、遅くなりました。種……じゃなくてプリティーサクラコ……」


「いえ、早いくらいだわ、プリティーキョーコ……」


 と、櫻子は笑顔で恭介に言った。


 彼女は櫻子が変身のチャンスを窺うため時間稼ぎをしようと考えていると思っていたみたいだが、実際は恭介の到着を待つためだった。

 櫻子は共鳴リングで恭介を呼び寄せていたのである。


 とはいえおそらく彼は床に就いていただろうし、もしかしたらリングを身に着けていない可能性もあり、恭介の姿が見えた時は心底ホッとした。


「ど、どうして……どっから湧いたのよ、あなたは……!」


「こっちに! プリティーキョーコ!」


 櫻子は彼女の喚き声を無視して恭介を呼びつける。


「な、何で変身してないんです?」


「説明は後! これをステッキで叩き切って!」


 と、櫻子は手錠を掛けられた両手を見せて言った。


「あっ……はい」


 恭介が魔力を込めてステッキを振りかぶる。


「ま、待ちな……くっ、パージ! 最終恥装・絆創膏の装!」


 彼女は慌てて最終恥装に換装を遂げ、


「竜の牙!」


 そのまま櫻子に向かって光の牙を解き放つ。


「パージ、セクランの装!」


 恭介に手錠を両断してもらって変身した櫻子も即座に恥装・セクシーランジェリーの装となり、


「竜の牙!」


 魔法がぶつかり爆発。

 彼女の魔法攻撃を打ち消した。


 それを見ると悔しそうに彼女は歯噛みして、


「くっ……に、二対一なんて、ひ、卑怯だわ!」


「心配しないで。あなたの相手はこのわたし一人で十分……プリティーキョーコは手を出さないわ」


「そ、それでも……そんなの卑怯だわ……」


 どうやら彼女は、櫻子から感じる圧倒的な魔力に怯んでいる様子だった。


 櫻子はセクシーランジェリーの装であり彼女は絆創膏の装……それでこの魔力差である。

 彼女は完全なる敗北を悟ったらしかった。


 そういえば恭介がきてからしばらく絆創膏の装への換装を遂げていなかった。

 自身より魔力が低い魔法少女と相対しているのもその理由だが、恭介の目があることでセクシーランジェリーの装だけでも十分に戦えたのが大きかった。


 恭介は、セクシーランジェリーの装になると、見てませんよという風を装いつつ、こちらをチラチラと見やってくるのである。


 その目で櫻子の恥辱心を煽り、力を発揮させていたのである。


「く、悔しいけど、わたしの負けよ、プリティーサクラコ……あなたの提案を呑むわ」


 苦渋に満ちた表情で言う彼女に櫻子は小首を傾げて、


「わたしがした提案? 何のこと?」


「い、言ったでしょう? 上位陣を掃討するまで共闘しようって?」


「それはあなたから蹴ったのでしょ? もう遅いわ」


「いや、でもほらっ……わたしの能力があれば残りの候補生だって見つけたい放題なのよ? 必要でしょ? わたしの特殊スキルは?」


「確かに魅力的なスキルね」


「だ、だったら……」


「うん、必要ないわ」


「えっ?」


 櫻子は、唖然とする彼女に魔法のステッキを向ける。


「だから言ったでしょ? 後悔することになるって」


「い、いや、待って! わたしにはどうしても叶えたい願いが……!」


 彼女は顔を歪め、命乞いするように言ってきた。


 正直、心が痛んだ。

 彼女を打ち倒すということは彼女の願いを摘み取ることでもあったのだ。

 例外もあるだろうが、基本的に魔法少女は皆、何かしらの願いを持ち、この戦いに臨んでいる。


 従って、共闘なんてあり得なかった。

 馴れ合って下手に情が移り、彼女たちが戦う理由を知れば倒しづらくなってしまうのが目に見えていたからだ。


 彼女たちを倒すということは、つまり彼女たちの夢や希望を打ち砕くのと同義語であるのだから……


「ごめんなさい、婦警さん……あなたの願い……叶うといいわね……」


 そして櫻子は、彼女に向け、〈竜の牙〉を容赦なく解き放ったのだった……

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