大宇宙モテ期

 櫻子は、激怒していた。


 そりゃ、知らぬ間にパンツを脱がされていたら怒るのも当然だ。


「ど、どうやってわたしのパンツを脱がして……というかこの手際……ま、まさかあなたがおパンツ強盗の犯人だったの!」


「んなわけ……この状態で脱がせれるわけないでしょ?」


 恭介はチラッとお天狐様の満足げな顔を一瞥してから、


「ど、どうやら、これがお天狐様の奇跡らしいっす」


「な、何なのよ、それ……何でわたしのパンツが犠牲に……」


 ちょっぴり涙目になる櫻子。


「ま、まあ、存在証明はできたってことで」


「くっ……瀬奈くん?」


 櫻子はお天狐様に聞こえぬよう、


「お天狐様って女性……なのよね?」


 と、恭介に耳打ちするように訊いてきた。


「はい。とってもきれいなお姉さんです」


「そう……だったらまだいいけど……男だったらこの手で首を絞めてやりたいくらいなんだけど」


「ははっ……」


「ったく、何でわたしには見えないのかしら……」


 櫻子は愚痴りつつ恭介から離れて、


「というか見える方が希少ってことよね? 瀬奈くんにはそういう他人には見えないものを『視る』力があるようだけど……他にもそういう人が多いのかしら? だったらおちおち変身もしてられないのだけれど……そこら辺を訊いてもらっていいかしら?」


 恭介には魔法少女エフェクトが効いていない節があり、櫻子は、お天狐様を『視る』ことのできた恭介の目と関連付けたらしかった。


「そんなわけでして……お訊きたいのですが、説明しますと――」


 恭介は魔法少女エフェクトが効かなかったのが神通力とやらのせいか、お天狐様に訊いた。


「ふむ、それはおそらくわらわがそなたに施した術のせいじゃな」


 予期していなかった答えに恭介は眉を顰める。


「術って……えっ? どういうことっすか?」


「神社には好いた異性のために手を合わせに来る者も多い。それで判明したのじゃが、そなたは今、大宇宙モテ期の中におる」


「大宇宙モテ期って……何その大層なネーミング?」


 どうも天狐神社に恭介に関して複数人手を合わせに来たものがいたらしくそう言った表現を使ったらしかった。とはいえ手を合わせたのは色葉と結愛の二人だけだろが。


 結愛は魔法少女候補生をしていたから尿漏れに関して願ったのかと思ったが、恭介に関して手を合わせていたようだった。


「神通力……それも関係してそうじゃが、そなたの子を孕みたいと思う女人はこれからももっと現れる可能性があってな……他の神に幻惑や魅了の術を施され先を越されてしまったらことじゃてな……手を打たせてもらったまでじゃ」


 恭介に想いを寄せた誰かが天狐神社で手を合わせて恋愛成就を願っても、その前に他の神社で誰かが願い、恋愛が成就してしまったら天狐神社としては立つ瀬がない。よって幻惑や魅了の術で恭介が誘惑されぬよう幻惑・魅了無効化属性をつけられたとのことだった。


 そしてそのことを恭介は櫻子に簡単に説明した。

 以前お天狐様と接点があり、幻惑の類が効かぬように術を施されていたらしい、と。


「う~ん、その話を全部鵜呑みにすると基本的に瀬奈くん以外の人からは正体がばれることはないってことね?」


 そういうことになる。ただ、恭介と同じような属性を付与されている人間がいれば別となろうが。


「瀬奈くん、次の質問だけど……」


 櫻子の質問は残りの魔法少女候補生の数がどの程度いて、自身がいま何番目に多く竜の苗を集めているかというものであった。

 恭介は仲介役としてお天狐様にその回答を聞き、櫻子に伝える。


「十九人だそうです。順位は俺の苗も合わせるならペアとして七番手らしいっす」


「そう……頑張ったつもりだけど七番手……結構きついわね……」


 苗の数は魔力の最大値に直結するので数が離れれば離れるほど上位を下すのが難しくなってしまい、櫻子からは焦燥感が漂いつつあった。


 次に櫻子は自分たちが勝ち抜けるよう、他の魔法少女候補生の素性や戦闘方法の情報提供等の協力をお天狐様に求める。


「無理じゃな……特定の誰かを贔屓する真似はできん」


 無論そうだろう。そんなことをすれば公平性に欠ける。


「ではお天狐様、最後にお聞かせ願えますか? もしわたしが敗れた後、天狐神社に手を合わせ続けていれば、その願いを聞き入れてくださいますか?」


「約束はできんが……時には人間にも奇跡は必要じゃろうて」


 他の願いと混ぜて、その中から掬い取る可能性はあるが、神通力を多く使う願いなので極めて低い可能性となり、約束はできぬとのことで、恭介はそのまま櫻子に伝えた。


「つまり……確実に願いを叶えるには魔法少女となって頂点に立つしかないと……わかりました。聞いていただいてありがとうございました」


 櫻子はお天狐様がいるであろう位置に当たりをつけ、深々と頭を下げた。


 そういえば櫻子は今もノーパンであった。

 スカートを捲りたい。


 一陣の悪戯な風がスカートを捲くり上げたりしないものだろうか?


「瀬奈くんもお天狐様に引き合わせてくれてありがとう。感謝するわ」


「いえ、そんな……」


 感謝はしなくていいのでスカートを捲らしてくれないだろうか?


「それじゃあ瀬奈くん、帰りましょうか?」


「あっ……えっ? 俺まだちょっと話があるんで……先に帰ってください」


「そう? 待っていてもいいけど……」


「いえ、帰ってください」


 恭介がきっぱり言うと、櫻子は小首を傾げつつも、


「わかったわ、それじゃあ、さようなら」


「はい、さよならっす」


 恭介は櫻子のスカートのお尻を眺めつつ、見送った。

 すると同じく横で黙って櫻子の姿を見送っていたお天狐様が口を開いた。


「――そなたの願いはあの者のスカートを捲り上げることかえ?」


「なっ!」


 絶句する恭介。もしかして心の声が漏れていたのだろうか? 


「わらわの耳には心の声がよく届く……ただそれだけじゃよ?」


 なるほど。手を合わせて願い事をする際、わざわざ声に出さずに願ってそれが届いているということは、思っていることが筒抜けになっていても不思議はなかった。


「こりゃ、迂闊に変なことを考えられんということか……」


 どうやらお天狐様には無心で接しなければならないようだ。


「そう構えるでない。別にすべてが聞こえるわけではないからな。それでそなたもわらわに訊きたいことがあったのじゃろ?」


「はい、色葉のことで……色葉も竜の苗争奪戦に参加してますか?」


「その答えには回答できんな。さっきも言ったが不公平じゃろうて」


「……じゃあ……色葉も手を合わせに来てると思うんすけど……手を合わせたら必ず魔法少女候補生にスカウトされるとかではないんすよね?」


「うむ、願望の強さや適性もあるしの」


 普通では叶えられない願いや思いの強さ、そして竜座の魔法少女の適性があるものを優先的に候補生としてスカウトしているらしかった。


「まああの娘の場合、願いはすべてそなたに直結するものじゃ。魔法少女にならずとも、そなたが聞き入れれば叶う。何なら聞き入れてやればよかろうて」


 恭介は表情を引き攣らせる。


「……お、俺への願い?」


 途轍もなく嫌な予感しかしなかった。


 身体を入れ替えたいとかそんな願いであれば不可能であるが、色葉はどんな願いをしたのだろうか?

 変な願いであれば絶対に阻止しなければならないが、それ以前に候補生に選ばれていないことを願うばかりである。


 しかし色葉が魔法少女になったらちと手強そうで……


 というかそもそも魔法少女というのはこんなことして育て、最終的にどうしたいのだろうか?


「あっ、もしかして魔法少女には敵とかいるんすか?」


「敵? そんなものはおりゃせんよ」


「えっ? じゃあ何で魔法少女を育成しようとしているんです?」


「ふむ、単なる神々の戯れ……お遊びじゃよ」


 八十八の神社を選んで魔法少女を選出し、競わせ戦わせる。単なる神々の暇つぶし。


 しかし竜座の魔法少女になり、更に八十八人の魔法少女の頂点に立たねば願いが叶わぬとは……


「さっき七番手と言ってましたけど……お天狐様の目から見てうちらが勝ち残る見込みってありますか?」


「正直に言えばあの者はわらわの本命ではない。ただの駒じゃ……期待はしておらぬ」


 いきなり本命を魔法少女に任命して魔法少女大戦にぶつけるよりも候補生を募って切磋琢磨させるべき。

 そうして集められた竜座の魔法少女候補生たち。


 しかしお天狐様の中では既に本命が存在し、他の集められた候補生たちは彼女を鍛えるための駒にすぎなかったらしい。


「ぶっちゃけるとわらわは本命を頗る優遇しておる。恙なく事が運べばわらわの本命が勝ち残るじゃろうてよ」


「ちょ……出来レース?」


「才能がある者を推しているだけじゃて。そなたが残ればそなたでもわらわは構わんよ。ただしその際は股間にぶら下がってるものは切り落とさせてもらうがの」


「ええっ!」


「当然じゃろ? そなたは男なのじゃから本戦に進むなら身も心も女になってもらうしかなかろう?」


「いやいや、俺ただのサポートですから! 勝手に魔法少女にされただけですから!」


「知っておる。無論、例えばの話じゃて。もしもそなたが勝ち残りそうになったら自ら負けを認めればよい。ただそれだけの話じゃよ」


「ああ、そ、そうか……」


 驚かせないで欲しい。

 というかそもそも恭介は最後まで残るわけないからそんな心配いらなかったのである。


「え~っと、じゃあ後は……」


 後、何か訊きたいことがあっただろうか?

 とりあえず色葉のことを聞きたくて来たがその辺は聞けなかったし、他に必要な情報は……


「ね、ねえっ!」


「えっ?」


 唐突に声を掛けられ、恭介は振り返る。


「き、キミ……隣のクラスの瀬奈君……だよね?」


 と、少し驚いた表情をしてそう訊いてきたのは天狐神社の娘さん、神田清音であった。


「せ、瀬奈君……今キミ誰と喋って……」


「あっ……」


 しまった。お天狐様は恭介にしか見えぬから傍から見れば恭介は独り言を呟く危ない人に映っている可能性があった。


「ねえ? もしかしてキミ……天ちゃんのこと、見えるの?」


「天ちゃん? んっ? あ、あれ……?」


 恭介はお天狐様と清音の顔を交互に見やって、


「お天狐様が見えるのって俺だけって……?」


「やっぱり!」


 清音は興奮気味に恭介の手を取り、目を輝かくして言ってくる。


「天ちゃんのこと見える人に会ったの初めて! 凄いよ、キミ!」


 どうやら彼女にもお天狐様の姿は見えているらしかった。

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