絆創膏三枚の攻防

 恭介はひたすらプリティーユアから逃げ続け、隔絶された断絶世界でも佇む、自身が通う東雲高校に駆け込んでいた。


 プリティーユアにとって初めて足を踏み入れる学校であれば、地の利がある分、逃げ隠れするに有利に働くと考えたのだ。


「つーか、マジでいつまで逃げ続ければ……?」


 恭介は駆けながら、レーダーをポーチから取りだそうとし、それがチラッと視界に入り思い出す。


「そ、そうか……そういうことかよ……」


 このレーダーを受け取った後、「いざとなったら使って」と言われ櫻子に渡されたものがあったのだ。


 しかしそれにはあまり頼る気がしなかった。


「と、とりあえず通信を……」


 レーダーで櫻子に通信を試みるもやはり繋がらず。

 そして恭介は、ポーチからそれを――数枚の絆創膏を苦い顔で取り出した。


「怪我したら使えって意味だと思ったんだけどな……」


 実際には違っていた。

 これはただの絆創膏ではなく、魔法少女の恥ずかしい衣装……略して恥装だったのである。


「どうする? 使って……みるか?」







「――って、こんな姿で人前に出れるか~い!」


 男子トイレに駆け込み最終恥装に着替えた恭介は、鏡の前で自身の姿に突っ込みを入れた。


 乳首はともかくおちんちんに絆創膏を巻きつけてもまったく隠せてはいなかった。


 魔法少女エフェクトが掛かり、プリティーユアにはしっかりと隠れて見えるかもしれないが、恭介の今の格好はどう見ても変態、よくて両乳首とおちんちんを怪我した人のコスプレをする人である。


 こんな姿で女の子の前に出るなんていくらこの状況でも許されるわけがなかった。


「とにかくもう一度着ねーと」


 途轍もなく無駄な時間を過ごした。

 とっとと着替えないとプリティーユアに追いつかれて――


「!」


 トイレの外に、強い魔力を感知し、後ろに下がる。


「くる!」


 その瞬間、どぉぉん! とトイレの扉を破って、魔力の牙が恭介に襲い掛かった。


「くっ、いけるか、竜の牙!」


 恭介は咄嗟にステッキを構え、〈竜の牙〉をぶちかまし、相殺。

 とりあえず、一発分は回復していたらしく、何とか切り抜けることに成功した。


「男子トイレに逃げ込んでも、む、無駄です。 わたしたちしかいないんですから」


 プリティーユアが男子トイレの入り口付近に佇み、ぶち壊した扉の向こう側から言ってきた。


 どうやらユアは、男子トイレに逃げ込めばそうそう追ってこないと考え恭介がここに潜んだのだと考えているらしかった。


「別にそういうわけじゃないんだがな……」


 実際は単に、着替えるのであれば鏡があり、狭い空間であるのが望ましいと考え男子トイレに入っただけで……


「あっ!」


 そうなのだ。恭介の今の着衣は絆創膏三枚。乳首とおちんちんに巻きつけた絆創膏三枚のみ。


 しかしプリティーユアの反応から察するに、魔法少女エフェクトはしっかりと効いている様子で、彼女には恭介の姿はきちんと女性の姿として映っているらしかった。


 それならそれで、魔力も回復したし、こんな恥ずかしい姿になったかいがあったというもの。

 最終恥装になることで魔力障壁による防御態勢が充実し、ついでにかつて感じたことのないパワーが身体の奥底から湧き上がっているのを恭介は感じていた。


 おちんちんが心許ないが、それだけの価値はあるようだ。


 とはいえ相手も最終恥装であり条件は同じなのだからまともにやっても戦闘が長引くだけかもしれなかった。

 恭介は女性を……ましてや結愛の顔をしたプリティーユアを傷つけるような真似はしたくなかったのである。


「とりあえずもう一発……」


 恭介はプリティーユアにもう一度、〈竜の牙〉をぶちかました。


 しかしあっさりと避けるプリティーユア。


 その間に恭介もトイレから駆け出して、プリティーユアと対峙する。


「ったく、連続で二発……凄い回復力ね?」


 確かに。さすがは最終恥装だ。


 プリティーユアからは認識されてはいないとはいえ、おちんちんが絆創膏一枚だけの状態であるという恥ずかしさから、魔力は撃ったそばから回復しており、今なら立て続けに何発でも撃てそうな気がしていた。


 それでもいつしか限界は来るだろう。


 どうしたものか? 恭介自身の手で〈竜の牙〉で倒すか、時間を稼いで櫻子との合流を待つか……恭介としてはそのどちらでもなく、話し合いで解決できればそれが一番なのだが、プリティーユアはそれをよしとしないだろう。


「ど、どうしたの? もしかしてさっきので打ち止め?」


 ちょっと考えを巡らせていただけだが、プリティーユアは恭介の魔力が尽きたと思ったらしく、それを好機と捉えたか、


「だ、だったらわたしの方からいくね?」


 そう言って〈竜の牙〉を恭介に向け放つ。


「この距離なら避けれる!」


 恭介はそれを横っ飛びにかわしつつ、


「竜の牙!」


 ステッキを振るった。


「魔力、まだ残って……えっ? どこを狙って……」


 無理な体勢から恭介が放った〈竜の牙〉はプリティーユアから大きく反れて――


「あっ!」


 彼女の頭上で爆裂。天井の瓦礫が崩れ落ちる。


「くっ! 防御障壁!」


 プリティーユアはステッキを掲げ、降り注ぐ瓦礫を魔力の障壁を頭上に展開し、弾き飛ばす。


「これが狙いで……って、えっ? あれっ? か、彼女は……!」


 目の前にいたはずの恭介の姿が消え、辺りを見回すプリティーユア。


 恭介はそっと彼女の背後に忍び寄り、耳元で囁く。


「……ここだよ~ん」


 ビクッと身体を震わし振り返り、距離を取るプリティーユア。


「び、びっくりさせないでよ……! というかその動き……何なのよ!」


「俺もびっくりしたけどこれが最終恥装の力だろ?」


 恭介は〈竜の牙〉を放った後、自分でも驚くスピードで、プリティーユアの背後に回り込んだのである。


 しかしその動きにプリティーユアを驚いている様子であった。


「よくわからないけどあなたの方がスピードがずっと上みたいね? 早く片を付けさせてもらうとするわ」


 プリティーユアは苦い口調で言うと、魔法のステッキを恭介に向けようとして――


「えっ? あれっ? ステッキが……ない? ど、どこ?」


 プリティーユアはようやくその事実に気付いたようで、ステッキが落ちてないかと周辺を見回す。


「もしかして探してるのはこれか?」


 恭介はプリティーユアから奪った魔法のステッキを掲げて見せた。


「い、いつの間に……!」


「さっき……声かけた時にね」


 魔法の障壁を張るためステッキを掲げるプリティーユアの背後に回り込み、すぽっと抜き取ったのである。


「か、返して! そ、それ……わたしのよ!」


「いや、返せと申されても……返したら攻撃してくるんでしょう?」


 だったら返せるわけがない。


「そんなの……卑怯よ! 魔法少女だったら正々堂々と勝負してよ!」


「ふ~む、仕方ない……」


 恭介はプリティーユアに彼女のステッキを向ける。


「ありがとう。感謝するわ」


 恭介を信じ、プリティーユアがステッキを返してもらおうと手を差し出してきた瞬間、それをガラス窓に向かっておもくそ投げつけた。


「あっ!」


 ステッキは窓ガラスをパリンッと割って、校舎外へ。


「な、何てことを……!」


「だって敵に武器を渡せないでしょう?」


「くっ、もういいわよ。あなたを信じたわたしが馬鹿だったわ」


 プリティーユアは窓ガラスの鍵を開け、足を掛けようとして――


「えっ! ま、待て、何をしている!」


 恭介は慌ててプリティーユアに駆け寄り、彼女を羽交い絞めにして、


「アホか! ここは三階だぞ! 落ちたらヤバイでしょうが!」


「ま、魔法少女だから大丈夫よ! だから離して!」


「あ、ああ……それもそうか……」


 彼女を羽交い絞めにしたまま納得する恭介。


 もしかしたら魔法少女だし空も飛べたりするのだろうか? 


 というか、咄嗟に羽交い絞めにしてしまったが、よくよく考えてみれば恭介もプリティーユアも、互いに着衣は絆創膏が三枚のみで……


 こんな柔らかくて温かな肌に密着していたら変なに気になってしまう。


 そして鼻腔をくすぐるは女の子特有のグッドスメル。


 ユアに気づかれぬよう、無駄にすー、はーと深呼吸をしてしまう恭介であったが、


「あ、あれっ? ていうかこのかほりは……」


 それは嗅いだことがある女人スメルであった。


 そして、その考えに至った次の瞬間である。


「えっ? 瀬奈……君?」


 と、羽交い絞めしていたユアが唐突に言った。


 それではっきりととした。


 この嗅いだ覚えのあるスメルは紛うことなき九条結愛のモノ。


 やはりプリティーユアは、魔法少女エフェクトにより九条結愛に見えているわけでなく、正真正銘の九条結愛であったのだ。


 しかもどうしてか、彼女にはこちらの正体がばれてしまったらしかった。

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