願い

「色葉……どうする? 誰かに助けを求めてみるか?」


 帰りの電車、向かい合った座席に腰掛ける自分の……色葉の姿をした恭介がそう問い掛けてきた。


「でも……こんなこと話しても誰も信じてくれないよ?」


 二人揃って言ったところで冗談としか思われないだろうし、言ってることが本気と取られたら頭がおかしくなったと思われて入院させられてしまう可能性だってあった。


「そりゃ、わかってるけど……このままってわけにも……なあ?」


「う、うん……」


 色葉は自分の身体で排尿している恭介の姿を俯瞰で見て不思議な気分になるのと同時に、絶対に恭介には見せたくない恥ずかしい姿だとも思った。


 一体、どうしてこんなことになってしまったのだろうか?


「こんなことになるなら、ピクニック何て計画しなきゃよかった……」


 今日のピクニックの予定を立てたのは色葉だった。


 思いついたのは三日前のこと――




「はぁ~、ラッキーおちんちんがしたいなぁ~」


 思わず願望が口から漏れ出てしまったのに気付き、怖々と顔を上げた。

 いつもの休み時間の教室、誰も色葉のことを気に留めている様子もなく安堵。


 よかった。こんな呟きを聞かれたら、平穏な学校生活が終わりを告げていたかもしれなかった。


「はぁ~、でもやっぱり恭ちゃんとラッキーおちんちん……したいなぁ~……」


 色葉は机の上に頬杖をつきながら、ため息混じりに口の中で呟く。

 ラッキーおちんちん、何という甘美な響き。


 恭介におちんちんを触れさせてくれるように頼んでも拒まれてしまうだろうし、そもそも面と向かってそんなことを言える勇気は恥かしがり屋さんの色葉にはなかった。

 よっておちんちんに触れるには、ラッキーおちんちんに頼るしか方法はなかったのである。

 とはいえどうしたらラッキーおちんちんが成立するのだろう……?


「どうせラッキーおちんちんするなら、ラッキー生おちんちんの方がいいかな……」


 しかしラッキー生おちんちんするには、おちんちんを露出した状態でもつれ合い転倒する必要があり、かなりの難易度が要求された。

 恭介と一つ同じ屋根の下で暮らし、風呂上りはタオル一枚で出てくるとかであればともかく、そういった状況をどう作り出すかが問題であった。


 つまりはまずどうやって穿いているものを脱がせるかが争点なわけで……


「はっ! そうか……崖から落ちれば……」


 色葉は閃き、脳内でシミュレーションを開始する。


 まず、恭介がバナナの皮で足を滑らせるか何らかのアクシデントで崖から落ちる。


「恭ちゃん!」


 崖の下には木の枝に辛うじてぶらさがり無事な恭介。


「恭ちゃん! 今、助けるからね!」


 色葉は崖の下の恭介に手を伸ばして、


「えっ? きゃっ!」


 足元が崩れて、色葉も落ちる。

 そして色葉は恭介の足にしがみつくが……


「い、色葉! しっかりとしがみつけ! じゃないと!」


 きっとそこで穿いていたパンツがずり落ち、おちんちんがぽろんっと露出するだろう。

 それをつかんで――


 ミッションコンプリート。


「――って、だ、ダメよ! ダメだわ!」


 頭を抱える色葉。

 その作戦には致命的な欠陥があった。


「そうよ。恭ちゃんの発展途上な粗末なおちんちんじゃわたしの全体重を支えれるわけがないもの」


 下手したらもげてしまう。電球みたいにおちんちんがきゅっきゅっと取り外しが可能であれば、おちんちん屋さんで、


「すんません。おちんちんが取れちゃったんで、新しいおちんちんください。あ、せっかくなんで一つグレードを上げて」


 と、やればいいが、現実問題として、そんなわけにもいかず、恭介の貴重なおちんちんを危険な目に晒す真似はできやしなかった。


「わたしが痩せれば……まだ可能性は……いや、そういう問題じゃない」


 とにかくこの方法は全面的に却下。


「じゃあ、どうすれば……」


 まずは脱がせる方法である。脱がせるより、自発的に脱いでもらった方が楽だろう。自発的に脱ぐといえば着替えかお風呂かおトイレあたりだろうか……?


 混浴の温泉にでも誘えればいいが、奥手な恭介は絶対に断わるであろうし、色葉も恥ずかしい。


「おトイレの場合は……外でおトイレ?」


 そうか。利尿作用のある飲み物をたくさん与えて外で催させれば……そして近くにトイレがなければ……


 そうすれば恭介は立ちションを余儀なくされるだろう。

 立ちション=おちんちんを露出させている状態であるから、その時に、さりげなくタックルをかませば……


「よしっ!」


 色葉はその方法でラッキー生おちんちんするべく、調整に入ることに決めた。


「……ラッキーおちんちん祈願してこっかな……」


 天孤神社で手を合わせれば願い事が叶う、隣のクラスの神田清音がそう教えてくれた。

 そんなわけで色葉はこの日、天孤神社で手を合わせた。


 しかし願い事は変えた。どうせ神様にお願いするならより大きなおちんちんにしようと思ったからである。

 そして今日、恭介がおしっこをしている最中に、お酒を飲んで酔っ払ったような振りをしてタックルをかました結果がこれであった。


 一日限定で恭介と身体が入れ替わったとかで翌日には戻ると分かっていれば、たっぷりおちんちんを堪能して過ごせばいいが、そうでなければとてもじゃないがそんな心境にはなれそうになかった。


 例えおちんちんを自由になる状況になったとしても、である。


「んっ?」


 おちんちんを自由に……できる?


「あっ! そっちの願いを……?」


 色葉はハッとなり、思わず声を上げていた。


「ど、どした、色葉? 急に? 大きな声を出して?」


「う、うん……もしかしたら元に戻る方法見つけたかも」


「えっ? マジで……! で、その方法って?」


「う、うん。それはね――」




「か、神頼みかい……」


 恭介が天孤神社に続く長い階段を見上げ、呆れたように言った。


「うん。隣のクラスの神田さんが言ってたの。天孤神社にはお天狐さまがいて何でも願いを叶えてくれるんだって」


「あ、ああ……神田……清音……だっけ? そーいや前、巫女装束でこの神社の宣伝チラシ配ってたっけ?」


「うん、目には目を。超常現象には超常現象を。きっと神様が何とかしてくれるよ」


 というが色葉が三日前に願った結果がこれだった。

 色葉は神様に願ったのである。


「神様、お願いします。どうか恭ちゃんのおちんちんをずっといじり続けれますよーに」


 ――と。


 神様はその願いを聞き入れてくれたのだ。

 確かに身体を交換すれば日がな一日、おちんちんを弄り倒すこともできよう。


 しかしこれは色葉が望んだおちんちんの形ではなかった。


 とりあえず色葉は、もう一度恭介と一緒に参拝し、元に戻してもらおうと思ったのである。


「恭ちゃん? 騙されたと思って一緒に付き合ってくれるよね?」


「んっ? ああ……まあ……何もしないよりは気休めにもなるかもな?」


 そんなわけで色葉は、恭介に参拝の手順を教え、一緒に天孤神社を参ることにした。

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