7

えぴろーぐ

 青い海、白い砂浜、輝く太陽。


 夏休みに入って最初の週、恭介は彼女に誘われ隣県の海水浴場までやってきていた。


「ぷはっ!」


 海から顔だけ出した恭介は辺りを見回して、白いビキニ姿の彼女――結愛に大きく手を振った。


「お~い、九条。そろそろ飯にしようぜ~」


 恭介に言われ、岩場にいた結愛がこちらに駆け寄ってくる。


「おい、足場悪いから、気をつけ――あっ!」


「きゃっ!」


 結愛が岩場で足をグギリと捻り、転倒した。


「お、おい、大丈夫かよ!」


 恭介は海からざばぁーっと上がり、慌てて結愛の許に駆け寄った。


「どうだ? 大丈夫か? 変な風に捻ったように見えたけど」


「う、うん。だいじょ……いたっ!」


 立ち上がろうとし、顔をしかめる。どうやら捻挫でもしているようだった。


「しゃーない。おんぶしやるよ」


 恭介は結愛に背を向けて、しゃがみ込んだ。


「えっ? で、でも……悪いよ?」


「いいから」


「う、うん……じゃ、じゃあ……お願いするね?」


 恭介は結愛を背負って、立ち上がった。


「ううっ……」


 かなり辛いのか、うめき声が聞こえる。


「お、おい……大丈夫かよ?」


 ゆっくりと歩きながら、結愛に訊ねる。


「だ……ダメ……みたい?」


 彼女は、震える声音で言った。


「えっ? そんなに痛むのか?」


「そ、そうじゃ……ないの」


 結愛は顔を苦痛で歪めたように言ってくる。


「せ、瀬奈君と密着したから……わ、わたし……」


 結愛はぎゅっと強く恭介にしがみついてきた。


 その瞬間である。


「あっ……」


 恭介の背中に、生温かいぬくもりが、じゅわぁ~と広がったのである。


 結愛は顔を紅潮させ、


「ご、ごめん……なさい。そんなつもりなかったのに……我慢……できなくて……直に……」


 そう言えば、オムツなしの直でされるのは初めてな気がする。


「ま、まあ……それはいいんだけど……足の具合は……?」


「そ、そっちは……うん。大丈夫」


「そっか……じゃあ……」


 恭介は、結愛を一度下ろしてから、お姫様抱っこで抱え直した。


「……せ、瀬奈君……? こ、これ……誰かから見られたら……ちょっと……恥ずかしい……かも?」


「大丈夫。しっかりとつかまっていてな?」


「う、うん……」


 結愛が恭介の首に手を回し、しがみつく。


「んじゃ、いくか!」


 恭介は海に向かってダっと駆け出し、そして飛び込んだ。


 あのままであれば、他の海水浴客に、結愛のおしっこの匂いを嗅がれていたかもしれなかった。

 それだけは彼氏として、避けなければならなかった。


 だから結愛のおしっこを海水で洗い流すことにしたのである。


 結愛のおしっこの温もりと匂いを堪能していいのは、彼氏である恭介だけであったのである。



          ◆



「ただいまー」


「あら恭介、焼けたわねー」


 と、母が恭介の顔を見て言ってきた。

 確かに真っ赤に日焼けしていた。


「一日中海にいたしなー」


 風呂に入ったらヒリヒリと沁みそうな予感。


「ごはんは食べてきたのよね?」


「うん、いらね」


 恭介は答えて、二階の自室に向かった。


「んっ?」


 ドアノブに手を掛け、恭介は顔をしかめる。

 何か途轍もなく嫌な予感がした。


 恭介は、ドアノブをゆっくりと回して扉を開け放って――


「おかえり、恭ちゃん?」


「おかえりなさい、恭介くん」


 色葉と里緒奈、志田姉妹がまるで自分たちの部屋のようにくつろいだ姿で、そこにいた。


「ひ、人の家で何してんすか? 勝手に入るのやめてもらえますか?」


「あらっ? 彼女を部屋に入れられないやましい理由でもあるのかしら? 恭介くん、あなた……浮気しているわね?」


「そ、そんな暇があると思いますか? わかってて言ってますよね? っていうか、今日のリオ姉たちは俺の彼女でも何でもないでしょう?」


「ごめんね、恭ちゃん……でも明日の予定は立てておきたいし……」


 と、色葉が申し訳なさそうに言ってきた。

 すると里緒奈が不思議そうな顔つきで、


「色葉? 何を言っているのかしら? 恭介くんの明日の彼女はこのわたしよ?」


「えっ? で、でも……お姉ちゃんの順番は全部わたしに回してくれるって……!」


 なるほど。どうやらあの時、そんな密約が交わされていたらしかった。

 恭介は、三人の彼女ができた、あの日の保健室の出来事を思い出していた。


 その時の恭介は、本気でけじめをつけるべく、答えを用意していた。




「色葉……九条……ふ、二人とも、よく聞いてくれ。お、俺が好きなのは――」


「ま、待って!」


 恭介の言葉を遮ってきたのは、結愛であった。


「……な、何だよ、九条……?」


「ちょ、ちょっと色葉ちゃんに提案があって――色葉ちゃん、いいかな?」


 そして結愛は色葉と部屋の片隅でこそこそとやってから、恭介たちの前に戻ってきて、


「えっと……瀬奈君? ちょっと色葉ちゃんと相談したんだけど……その結論、ちょっと先延ばしに……具体的に言うと、高校を卒業するまで待ってもらっていい……かな?」


「えっ? 何だ……それ?」


「うん、わ、わたしはともかく……色葉ちゃんは瀬奈君と同じガッコーでしょ? 仮に瀬奈君がわたしを選んじゃったら辛いと思うんだ……だから答えを出すのは卒業まで待ってほしいの」


「い、いや……でも……じゃあつまり、現状を維持しろってこと……か?」


「そ、それは……ちょっと違う。卒業まで、わたしたちを日替わりで彼女にしてほしいの」


「ひ、日替わりで……?」


「うん……どう……かな?」


「ど、どうって……」


 恭介は少し困惑しつつ、色葉を見やる。


「色葉……お前はそれでいいのか?」


「う、うん……それでいいっていうか……それがいい。結愛さんが言った通りで、もし恭ちゃんが結愛さんを選んじゃったら、辛すぎるから……」


 これは後から聞く話となるが、色葉がこの条件をのんだのは、恭介は結愛を選ぶと思い込んでいたからだったらしい。


 そしてまた、この日替わり彼女の話を色葉に持ち掛けてきた結愛も、恭介は色葉のことが好きなのだと考えて、その話を提案してきたらしかった。


「じゃ、じゃあ……そうすっか?」


 恭介も、場の雰囲気に流されて、二人がそれでいいのなら……と、それを承諾してしまった。

 優柔不断と罵られようと、正直、惜しいと思ってしまったのである。


「馬鹿が……勝手にしろ」


 呆れたように言い捨てる雪菜。


 そして色葉と結愛が恭介の日替わり彼女になることが決まったのだが、ここで想定外の出来事が起こる。


「その日替わり彼女、わたしも参加するわ」


 なぜだか知らないが、里緒奈も参戦すると言ってきたのである。


「お、お姉ちゃんどうして! まさかお姉ちゃんも恭ちゃんのことを……!」


「ええ、恭介くんのことは昔から……愛していたわ」


 と、胡散臭い愛している発言を無表情でしてくる里緒奈。


「そ、そんなのダメだよ……!」


 それに猛反発する色葉であったが……


「ちょっと色葉……こっちにきなさい?」


 里緒奈に呼ばれると、姉妹は部屋の片隅でこそこそやり始めた。


 そしてその後、色葉の態度は一変した。


「お姉ちゃんも、恭ちゃんのことが本当に好きみたいだし……恭ちゃんの彼女になる資格がある気がそこはかとなくしてきました」


 どうやらこの時、密約が交わされたらしかった。

 大方、里緒奈に「お姉ちゃんは色葉の味方よ? わたしが彼女の日はぜ~んぶ、色葉に恭介くんを貸してあげるわ。そうすればうちの九条より恭介くんをより独占できるでしょ?」とでも言われ、丸め込まれたのだろう。


 しかし、実際に蓋を開けてみたら――


「お姉ちゃん! どういうことなの! お姉ちゃんが彼女の日はわたしに恭ちゃんを貸し出してくれるって言ったじゃん! ま、まさか本当に恭ちゃんのことを好きだと言い出すんじゃ……ち、違うよね、お姉ちゃん?」


「落ち着きなさい、色葉……わたしが恭介くんの日替わり彼女になったのは、安息日を作るためよ?」


「安息日?」


「そうよ。恭介くんだってあなたたち二人の期待に応えようと無理し過ぎたら壊れちゃうわ。だからお休みを与えないといけないと思って、立候補させてもらったのよ」


 確かに里緒奈の言う通りで、結愛が一緒に海に行こうと言い出したら、だったらわたしもと色葉が言い出しており、その辺の労力が二倍に膨れ上がってしまっていたのである。

 色葉や結愛は自身が彼女の日はフルに行使しようとしてくるし、そういうわけで里緒奈が指定した日を安息日としてもらえるのなら恭介としてもありがたかった。


「そんなのだったら、お姉ちゃんの参加は絶対に反対したのに……」


「まあ、そう肩を落とさないで、色葉……お詫びに明日は、わたしの彼氏がオナニーしている姿を鑑賞させて上げるから」


 その発言に、恭介の片眉がピンと跳ね上がる。


「り、リオ姉……?」


「何かしら、恭介くん?」


「その彼氏って……俺のことじゃないですよね?」


「あらっ? わたしの彼氏は恭介くんしかいないわよ……?」


「じゃあ言わせてもらいますけど、俺が人前でそんな真似をするわけないじゃないですか……?」


「あらっ? 彼女の言うことが聞けないとでも?」


「聞けるわけないでしょう?」


「どうせ毎日しているのだし、人前でしても同じでしょうに?」


「同じわけないでしょ? じゃあ、リオ姉が俺の前でしてください。だったら……しますから!」


「いいわよ。今度するわ。だから明日は恭介くんがなさい」


「ぜ、絶対にしませんよね! そう言って逃げる気ですよね?」


「きょ……恭ちゃん?」


 色葉はどこか恥ずかしそうに顔を赤らめつつ、


「恭ちゃんがおちんちんイジッてるとこ……間近でみたい」


「お、おまっ……な、何を急に言い出してるの?」


「恭ちゃんがみせてくれるなら……わたしも恭ちゃんの前で……するよ?」


「お、おう……」


 恭介は、少しだけ考えたが、もちろん断った。


 里緒奈と違って、色葉なら本当にするだろうから。




 そんなこんなで変態な彼女たちとの日替わりな日常は、しばらくは続きそうなのであった……

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