答え

「ひ、ひどいよ……恭ちゃん!」


 ポロポロと人目も憚らず涙を流す色葉。


「な、泣くことないだろ?」


「だ、だって恭ちゃん……雪菜先生やお姉ちゃんの前で迸らせて……結愛さんのことを考えておちんちんいじってたりしてたのに、わたしには手さえ握ってこようとしてくれなかったんだもん」


「い、いや、それは、だな……」


「えっ? わ、わたしでって……せ、瀬奈君……? そ、それって……本当……なの?」


 結愛がドン引きしつつも、訊いてきた。


「く、九条……まあ……あれだな……ははっ……」


 しどろもどろしていると、色葉が顔を上げ、答える。


「……ほ、本当だよ? 恭ちゃんね、中学の頃、結愛さんに似た女優さんのビデオ探してきて、おちんちんイジってたの」


「べ、別に探してきたわけじゃ……友達から借りたらたまたま九条に似てたんだよ!」


 恭介の言い訳じみた口調に、冷ややかな視線を送る面々。


「ははっ……」


 ここまで来たらどうなってもいいかな、と思った。


 そして自分の中で何かが吹っ切れた。


「あ、ああ……そうだよ! 悪かったな、九条でオナニーしてたよ!」


 突如声を荒げた恭介に、びくっとなる結愛。

 続いて恭介は色葉に向かって、


「ついでに言うとお前でもオナってるからな! 俺はそんなだし、そんなことでいちいち泣く必要ないから!」


「……えっ……?」


 泣き止んで、呆けたような表情で恭介を見やる色葉。


「あ、あの……瀬奈君……?」


「何だ、九条……? 俺を軽蔑したか……?」


 結愛は「ううん」と慌てたように首を横に振って、


「け、軽蔑なんて……ちょっぴり驚いちゃったけど、ど、どっちかっていうと嬉しかったし」


「んっ? 嬉しいって?」


「う、うん……だ、だって……それってわたしが告白する前……だよね? その前からそういう目で見ててくれたのは……ちょっと嬉しい……かなって」


「そ、そう……なのか?」


 結愛にそう言われると少し冷静さを取り戻し、何だか急に恥ずかしくなってきた恭介。


「うわっ、お前最低だな?」


 雪菜が追い打ちをかけるように、言ってくる。


「お前、知り合いの女の子、端からオカズにしていやがるんだろ?」


「べ、別にそんなことは……」


「嘘を言え。わたしもオカズにしたんだろ? 手でされたことを思い出して、一人でシコシコしてたんだろ? 正直に言えよ?」


「はっ……はぁ? してないっすよ? 雪菜おばさんでするわけないじゃないですか? 雪菜おばさんで……! そもそもおばさんは女の『子』じゃないでしょう。女の『子』じゃ」


「ん、んだと、こらっぁぁっっ! 童貞のくせにバカにしやがってよぉっっっ!」


 雪菜はガッと恭介の胸倉をつかみ、凄んできた。


「誰が女の子じゃないって! 女の子はいつまでたっても女の子なんだよ、こらぁぁっっ! クンニさすぞ、おらぁあっっ!」


 こんな激昂した雪菜をいまだかつて恭介は見たことがなく、ここは素直に謝った方が賢明であるかもしれないな、と思った。


「……わ、わかりました、雪菜先生は女の子です。す、すんませんした」


 女の子の定義は知らないが、少なくとも女の子ならそんな汚い言葉を吐かないで欲しいものであるが。


「よし――」


 すると雪菜は一瞬で気が抜けたように元に戻り、恭介の胸倉から手を退けて、


「エデンの檻ごっこはここまでにして……」


「えっ? ごっこって……?」


 雪菜は、目をパチクリとさせる恭介の頭にポンと右手を置いて、


「見ての通りこいつはバカだ。道に女の子が通ればすぐさま欲情するようないろガキだ」


「い、いや……そこまででは……」


「黙れ」


「……は、はい」


 雪菜は一息ついてから、


「とにかくだ。このバカに選ばれなくても人生の終わりなんかじゃないんだから、気に病む必要はまったくない……そういうこった」


「あ……ああ……」


 もしかして雪菜は、色葉と結愛に、恭介に振られたとしても全く問題ないと言いたいがために恭介を貶めるような真似をしたのだろうか? 下手すりゃ、両方に嫌われてもおかしくない方法ではあったが。


「お前らはわたしの目から見ても、平均以上のスペックの持ち主。恭介には正直もったいないくらいのいい女だ。むしろ選ばれなければもっといい男が待っている……そう思っておけ」


 雪菜はそこまで言うと、恭介の背を強く押した。


「さあ、お前の答えを聞かせてやれ」


「は、はい……」


 色葉と結愛、恭介は二人の顔を交互に見やって、緊張した面持ちで、息をゴクリと呑み込んだ。


「さあ恭介……」


「……わ、わかってます」


 既に答えは決めていた。


「そうか………だったらここにいる女の子……どちらを選ぶか……好きな方を――」


「はい」


「――クンニしろ」


「は、はい……って、をいっ! こんな時に冗談はやめてくださいよ? み、みんな引いてるじゃないですか?」


 恭介は苦い顔で、色葉、結愛、里緒奈、彼女たちの表情を順番に見やっていく。


「冗談ではない。彼女になるということはクンニされるということ。ここにいる女の子は皆、その覚悟はできている。スカートをめくり、クンニしろ。志田に九条さん、それに志田姉に……このわたしも、今はノーパンだからな」


「えっ? えええっっっ!」


 恭介は、スカートの下に、まだ踏み込んだことのない桃源郷が広がっているのだと知り、驚きの声音を上げた。


「ノーパン………」


 それはとても目のやり場に困る響き。


 風……窓は閉まっていて……


「恭介くん……ちょっといいかしら?」


 ノーパンの里緒奈が、胡乱な目つきで言ってきた。


 ノーパンだと知ると、更に緊張が高まり、真っ直ぐに見れず、目が泳いでしまっているのが自分でもわかった。


「な、何でしょうか……り、リオ姉ちゃん?」


「まさか鳥居先生の言った戯言を信じているのではないでしょうね?」


「えっ?」


「ノーパンなわけがないでしょう」


「ええっ!」


 ノーパンではない……だと!


 いや、それはそうか、普通に考えればその通りだろう。しかしこの面子ならそれもあり得るかと思ってしまったのである。


「とにかく恭介くん、色葉を泣かすような真似をしたらただじゃおかないわよ?」


「…………」


「わたしからはそれだけ。さあ、あなたなりの答えを見せてごらんなさい」


「は、はい……」


 そうなのだ。けじめをつけなくてはならなかった。


 恭介は緊張にごくりと息を呑み込んで、顔を上げる。


「色葉……九条……ふ、二人とも、よく聞いてくれ。お、俺が好きなのは――」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る