エア風呂

「恭ちゃん、いこー」


 色葉が風呂に入ろうと促してきた。


「あ、ああ……そうだな?」


 恭介は里緒奈の顔をチラッと一瞥してから立ち上がり、きゃっきゃっとはしゃぐ色葉と一緒に風呂場に向かう。


 そしてなぜかそこまで同行し、脱衣所の引き戸を閉めた里緒奈に眉をひそめる。


「え、え~っと……ま、まさか……リオ姉も一緒に入るつもりじゃ……?」


「いえ……ただ、あなたが色葉にいかがわしい真似をしないかここから監視させてもらうだけよ?」


「い、いかがわしい真似なんて……」


 そんなこと、これっぽっちしか考えていない。


 里緒奈はずいっと恭介に顔を近づけ、


「いいわね、恭介くん……? もし少しでも変な真似をしたら一生後ろ指さされることになるから覚悟しておきなさい?」


 と、凄んで言ってきたのである。


「は、はぁ~……」


 表情を引き攣らせる恭介。


 そんなわけで今日の色葉とのお風呂タイムは里緒奈の監視付。


「色葉……くっつき過ぎよ?」「色葉、自分で洗いなさい」「恭介くん? 手つきがいやらしいわ」


 里緒奈は、受験会場の試験官の如くに目を光らせ、スキンシップが過ぎる行為を脱衣所から口を挟み、是正してきたのである。


「さあ、もう満足でしょう? 帰るわよ、色葉」


「いやっ!」


「わがまま言うんじゃないの、色葉!」


 恭介にしがみつく色葉を力づくで剥しに掛かる里緒奈。


「恭ちゃん!」


 縋るような目つきで恭介を見てくる色葉から視線を反らし、


「すまんな、色葉……」


 心の中で謝罪する恭介。


「いやぁっっ! おねぃちゃん、キラい!」


「嫌いで結構よ」


 無慈悲に言うと、里緒奈は色葉を脱衣スペースに追いやり、仕切りの引き戸をビシャッと閉める。


「さあ、さっさと着替えなさい」


「おねぃちゃん、キラい! だいっキラい!


 里緒奈はブーブー言う色葉を無理やりに従わせ、連れ帰ったのであった。


「何だかなぁ~……」


 恭介は、しっかり疲れを取るようなゆっくり浸かり、風呂を出たのであった。




 そしてその翌日のことである。


「どうしてくれるのかしら恭介くん? 色葉に嫌われてしまったじゃない?」


 今日はいつもより訪ねてくるのが早いなと思ったら、訪ねてきたのは里緒奈のみで、彼女は恭介にそう難癖をつけてきた。


「そ、そんなことを言われましても……」


 どうやら色葉は、昨夜の里緒奈の妨害でおかんむりの様子であったらしい。


「母にも非難されたわ。あなたはいつも真面目すぎると。けれどわたしには大事な妹を守るという義務がある。だから……そこは譲れない。わたしの考えが間違っていないと証明し、母に提示することにしたの。恭介くん、協力してくれるわよね……?」


「きょ、協力……と、言いますと?」


「それはね――」




 恭介は、風呂場に腰にタオルを一枚巻いた状態で待機していた。


 すりガラス越しに見える人影にゴクリと息を呑み込む。


「ほ、本当にやる気なのかよ……?」


 里緒奈は、恭介が色葉とお風呂を一緒にしている際、変な気を起こしていないかチェックすると言ってきたのである。


 その方法は、色葉と一緒にお風呂をする時と同じやり方で里緒奈と一緒にお風呂して局部が反応するかどうかチェックするというものであった。

 もしも反応したら色葉にも反応しているはずだから二人っきりでのお風呂は危険であるという理屈である。


 恭介はちょうど居合わせた母にも、そんなばかげたことをやめるように里緒奈を説得して欲しいと助けを求めたが、


「里緒奈ちゃんの言うことも一理あるわね」


 と、里緒奈に従うように恭介に言ってきたのである。


 そんなわけでどうにも抗えずに言い含められ、先に風呂場で待機し、里緒奈が着替え終わるのを待っていたのだが……


「入るわよ?」


 里緒奈が風呂場を仕切る引き戸の前に立ったのがすりガラス越しにわかった。


「は、はい……」


 心臓の鼓動が自然と早まっていくのがわかる。


 そしてシャーっと引き戸が開かれて、


「!」


 恭介は思わず自身の目を疑った。


「り、リオ姉! み、水着……じゃなかったの!」


 里緒奈はブラウスを羽織ってはいるものの、その下は、せくすぃ~な、らんじぇりぃ~姿であったりしたのだ。


「別に構わないでしょう? 布面積的にはこちらの方が広いし」


「そ、そういう問題じゃ……」


 色葉が推定でEカップとしたら、里緒奈はFかGはありそうで、そのたわわな二つの膨らみは黒いブラが包み込み、白くて柔らかそうな谷間には、色々挟みたくなる衝動に駆られるほどであった。


 下はショーツにガーターベルトで色はブラと同じで黒。どうやら下着の色は統一する主義らしい。


 とにかく恭介には刺激の強い恰好で、「早まるんじゃねーぞ」と、タオルの上から股間を押さえてみたりした。

 恭介は水着を着用したかったが、なぜかタオル一枚でと里緒奈に指定されたのである。


「問題はないわ。お湯は張っていないのだしね」


 里緒奈とするのは疑似風呂。浴槽にお湯は張られていなかったのだ。


「さあ、はじめましょうか?」


 里緒奈が眼鏡越しに恭介を見詰め、妖艶な笑みを浮かべつつ、それでいて冷たく言ってきた。


「え~っと、リオ姉、俺の負けでいいっす!」


 恭介は自身の股間と相談したところ、即座にそういう結論に至った。


「あら、まだ何もしていないのに敗北宣言?」


「……既にヤバいんで」


 里緒奈の扇情的すぎるこの格好で、反応させずに通す自信は、恭介にはまったくもってなかったのである。


「今の状態でそうなのであれば、色葉と一緒の時は、常に反応していたという解釈でいいのかしら?」


「い、いえ……そういうわけでも」


 色葉に対しては多少の免疫もあり、互いに水着を着用していたからまだよかったが、里緒奈は大人の色香が凄まじく、すぐさまノックアウトされそうであり、どちらにせよ失態を演じるのであれば、早めに自分から降参すべきであると考えたのである。


「どちらにせよ続けるわよ?」


「えっ? どうし……ぶはっ!」


 里緒奈が恭介の脇を通って恭介の前に立つと、プリッとしたお尻がこちらに向けられ、その破壊力に、思わず噴き出していた。


 まさか無駄に露出が高いTバックだとは思っていなかったのである。


「それじゃあ、恭介くん。まずは頭を洗う過程からよ?」


 里緒奈は、ピンっと背筋を伸ばしたまま、マットの上に正座した。


「…………」


 恭介は踵の上に沈み込み、形を変えたお尻に釘付けとなり、ゴクリと息を呑み込んで、


「え、え~っと、洗うと申されましても……本当に洗うわけじゃ……?」


「ええ、真似事でいいけど……ちょっと待って」


 里緒奈は言うと、纏めていた髪を解き、ふぁさっと広がり、それと一緒にいい香りが鼻腔をくすぐられ、ドキッとする。


「いいわよ、恭介くん。やって。時間にして……そうね、三分ほどね」


 長い。三分といえばカップラーメンができてしまう時間である。そもそも既に負けを認めているのだけど。とはいえやらなければやらないで後が怖いし。


「じゃ、じゃあ、やりますね?」


 里緒奈のサラサラの髪を前に緊張する恭介。


「いや、違う……」


 すべての雑念を振り払えばよいだけ。ただのマッサージであると思ってやれば、問題ない。

 恭介はそう自分に言い聞かせて呼吸を整え、里緒奈の頭皮をマッサージするように優しく指を這わせる。

 ただただ頭の中で数字だけを数えて何とかやりすごすことに成功した。


 里緒奈は恭介の股間をタオル越しにチラッと一瞥してから、


「次はわたしの番ね? 恭介くん、そこに正座なさい?」


「は……はい?」


 恭介は言われるがままに正座すると、里緒奈も対面で正座した――かと思えば股を広げて両の太腿でがっちりと恭介の腿を挟み込んできたのである。


 恭介は里緒奈の太腿の感触に自然と鼻息を荒くなっていた。


「恭介くん、頭を下げて」


「……は、はい……」


 眼前のたゆんたゆんとした谷間を堪能したいのは山々であったが、さすがにヤバかったのでぎゅっと目を閉ざし、三分間、じっと無心で耐えることにした……

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