第一部・完

「色葉!」


 恭介はハッとし、目を開けた。

 窓から差し込む朝日、そしてスズメのさえずり。


「あ、ああ……全部夢か……」


 そりゃそうかと恭介は苦笑した。


 クローゼットに全裸な幼馴染の色葉。

 その彼女を妄想するあまり、淫らな夢を見てしまったようだ。


 色葉がクローゼットから出て、恭介に覆いかぶさって泣き出したのかと思って目を開けてみたら、オナニーしていたのである。


 しかしやはり夢だったようだ。

 さすがにそこまで大胆な行動をとるわけがないだろう。


 というか、あの夢を思い起こしていたら、股間に熱が……


「……とりあえず起きよ……って、えっ? あ、あれっ?」


 恭介はそこでようやく気付いた。自身の身動きが封じられていることに。

 どうやら両手足がベッドに縛り付けられ拘束されていたらしい。


「な、何でや……つーか、何で全裸?」


 恭介はなぜか一糸纏わぬ姿になっていたのである。


「おはよう、恭ちゃん……?」


 色葉だった。


「ちょ……お前の仕業で……あっ……ちょ……」


 恭介はそれを隠そうと身を捩じらせる。


 無論、四肢を大の字に縛り付けられたこの状態ではどう足掻いても隠せやしない。


「い、色葉……早くこの拘束を解け、つーか、解いてください、お願いします」


「ダメだよ? 恭ちゃんのおちんちんは誰にも渡せないもん」


「な、何を言ってやがり……ますか?」


「……恭ちゃんのおちんちんを結愛さんに渡すくらいなら、いっそわたしが……」


 色葉が服を脱ぎだした。


「えっ? ちょ……おま……」




 その日、恭介は生まれてきてずっと守ってきた大切な二つのモノを失った。


 一つは童貞。


 そしてもう一つは――



          ◆



「お、おはようございます、お母さま」


「あら、おはよ、結愛ちゃん?」


「は、はい……あ、あの……瀬奈君……は?」


 結愛はいつもの待ち合わせ場所に恭介が訪れないため、彼を迎えにきたのである。


「そういえばあの子……こんな時間まで何をしているのかしらね?」


 エプロン姿の恭介の母は、二階に続く階段の上を見やって、


「恭介! 起きなさ~い! 結愛ちゃんが迎えにきてるわよ~っ!」


「…………」


 返答はない。


「あ、あの……お母さま? わ、わたしが……その……おこしにいっても……よろしいですか?」


「あらっ? お願いできるの?」


「は、はい……」


「そう? 何か悪いわね、じゃあよろしく頼むわね、結愛ちゃん」


 と、恭介の母がスリッパを用意してくれる。


「す、すみません……お、お邪魔します……」


 結愛は恭介の家に上がり込み、


「せ、瀬奈君……お、驚くかな……?」


 と、心を弾ませ二階の恭介の部屋を目指す。


「せ、せっかくだし、眠っている瀬奈君のベッドにもぐりこんで……」


 想像するだけで尿意が湧いてきた。今、結愛はとても幸せであった。


 結愛は恭介の部屋の前まで来ると、息を潜めて極力音を立てぬようにドアノブを回して、戸を開ける。


「……えっ?」


 目に飛び込んできた光景に、目をパチクリとさせる結愛。

 それを理解するのに脳が数秒かかって、


「きゃ、きゃああぁぁっっっっ!」


 その惨状に結愛は悲鳴と尿を盛大に漏らしたのだった。

 彼女が目にしたもの、それは血に塗れた一糸纏わぬ姿となった恭介。


 そしてその恭介の局部には、あるべきものが存在していなかった……



          ◆



 ボーッ、ボーッ。


 遠くで響く汽笛の音が聞こえてくる。

 水面にたゆたう一隻のボートに、彼女は穏やかな表情で寝そべっていた。


「恭ちゃん……」


 愛おしそうに、下腹部をさする。


「これからは、ず~っと、一緒だよ……?」


 彼女が浮かべし満ち足りた微笑は、空に広がる青空のように澄んでいた。







 

             ――完――











 恭介はがばっと跳ね起きる。


「完じゃねーよ!」


 しかもおちんちんがNice boatって!


 そんな悪夢のせいで、寝汗がびっしょりである。


「ったく……」


 頭を抱える恭介。


「つーか、どっから夢でどっから現実だよ……」


 とりあえず妙にリアルな気がしたが、童貞は失わなかった。

 ただの淫夢。夢精はしていない。


 ではクローゼットから出てきた色葉が、恭介に跨ってしてきた行為は……?


 それも夢だったのだろう。そもそも色葉は全裸でクローゼットに隠れていたのも夢ではなかったのだろうか……?


「…………」


 恭介はベッドから降りると、クローゼットの前まで歩み寄り、険しい顔つきで息を呑み込んだ。

 念のため、中を確認しておくことにしたのである。


 恭介は、クローゼットの扉の取っ手部分をつかみ、ゆっくりと開け放つ。


「う、うん……やっぱりいないよな?」


 やはり昨日見た全裸の色葉も夢で……


「んっ? あ……れ?」


 おパンツが一枚落ちていた。これは確か以前、色葉が置いていたったおパンツで、クローゼットにしまい込んでいたもののはずで……


 恭介はそれを拡げてみて、くんかくんかしてみることにする。


「なる……ほど」


 これは昨日色葉が穿いていたおパンツだろう。

 おそらく色葉は、薄暗いクローゼットの中で、手探りでおパンツを探し、恭介が返しそびれてしまい込んでいたおパンツを探し当て、昨日穿いていたおパンツを残していったと思われた。


 つまりは昨日、色葉がクローゼットに潜んでいたのは間違いないらしかった。


 やはり色葉もかなり精神的に追いつめてられてのことだろうか?


 恭介は「ふ~む」と暫し黙考し、


「決めた」


 もうどうなっても今より状況が悪くなることはない。


 恭介は、お互いのためにも色葉に真実を告げることを深く心に誓った。

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