22/私ですか?

 宮澤ジョーは、学校の二階に佇んでいた。天井は牛人の一撃によって破壊されていて、横には壁にもたれ掛かったアスミに、意識を失って横たわっている進藤真由美。


 しかし、牛人による馬乗りが解除されている。意識が不思議な世界に旅立っている間に、何かが起こったのか。牛人は十尺ほどの距離をジョーからとり、驚愕の表情を見せていた。


「存在変動律。何故、貴様が!」


 紫色の波動が、ジョーを中心に、一定のリズムで周囲を揺らしていた。


「ジョー君。なんで?」


 アスミはマッチを擦る手を途中で止めて、紫の波動の中心に立っているジョーを見上げていた。


「分からん。ただ、俺、これから何かを起こすから」


 民族衣装の少女、最初の言葉は自分で決めろとか、言ってたな。だったらこれにしようと、あの不思議な世界の光景を見た時に、思いついていた。


「オントロジカ! こんなゴミを照らすなど、あってはならない!」


 たじろいていた牛人が、再び突進してくる。


 パワーでは及ばない。人間の頃のインヘルベリア先生は頭も良かった。そして、先ほどの接触、彼は勝者の側の人間なのだと理解した。


 それでもジョーはひるまない。


 先ほど決めてしまったから。自分が勝てない側の人間だとしても、アスミは守ると。


 向かってくる牛人めがけて、ジョーは叩きつけるように、その言葉を発した。


「『共存コ・イグジス・開始テンス・オン』」


 襲い掛かる牛人の前に、紫色の球体が現れる。球上には、複数の魔法陣が立体的に動き続けている。


 その立体魔法陣から、ニュっと白い手が出てきて、前傾して向かってきた牛人の頭を押さえる。


 やがて、その手の持ち主の姿の全てがあらわになる。


 紺のジャケットのような胴衣と、紅色を重ね着したような和装は、小町という言葉を連想させる。腰衣はこの国の伝統的な雰囲気を踏襲しているようで、ミニスカートという呼び方がむしろ合ってるようでもある。スリットから健康的な太腿がのぞいている。先ほどの不思議な世界を解説してくれたサラファンを纏った少女とはまた違って、今度は衣装となびかせる黒髪が、この国の人だと印象づける。現れたその華奢な少女と牛人の見た目のパワーの差は歴然。されど、少女の方は揺るぎない勢いに満ちている。


「切ない!」


 少女はそう叫ぶと、グーを握って綺麗な弧を描くハイブローパンチを牛人に叩きつけた。


 前進してきた牛人の動力を、物理法則を無視するように跳ね返し、後方に向かって吹き飛ばす。


 改めて、立体魔法陣から出てきた少女は、今度は身体を脱力させたまま、無形むぎょうくらいでジョーの前に佇んだ。凛とした眼光が、牛人を射抜いている。


 とりあえず、聞いてみる。


「君は、誰だ?」


 和装の少女は振り向いてジョーと視線を交わすと、事もなげに言った。


「私ですか? 私の名前は陸奥むつ。あなたの魂の奥の世界からひと時、こちらにやってきた……通りすがりの沈没ちんぼつ戦艦せんかんです」

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