221/電話の向こうの同盟者(1)

 ジョーはスマートフォンのアドレス帳を立ち上げ、志麻の携帯電話番号を表示させた。  

 妙に緊張している自分に気づく。


 そういえばいつからか、直接電話をかけるということが億劫になっていた。できればメールで。もっと手軽にリンクドゥで済ませたい、というような。


 だが今は、あえて電話をかける。直接、志麻の声を聴きたかった。


 カレンから無彩限のチェーンを渡された時に、微かに見えた、今はまだ存在しない世界がある。それが正しい事なのかまだ分からないけれど、その可能性の世界は、確かにアスミも「存在す」ることができる類のものだった。


 その今は未来に頼りなく漂っている可能性の世界は、ジョー一人では手繰り寄せることができない。だとするならば、ジョーの一番の味方になってくれる人間。アスミを愛している人間を思い浮かべるに、まず山川志麻という人間に行き当たるのだ。


 だから、感じ続けていた違和感を、ここで払拭しておくことにした。その、ジョーと志麻の間にあった「ズレ」は、これまでお互いが適度な距離を保つために必要なものだったのかもしれないけれど、走り出すと決めた今、ジョーは一歩踏み込んで志麻に問わねばならなかった。


 三回のコールで、志麻は電話に出た。


「宮澤君? 今、どこ?」


 志麻の声はジョーに安堵をもたらした。この数日壊れた心で放浪している間、全ては消滅し、取り返しがつかないような感覚を覚えることがあった。だが、志麻という人間は、電話越しに変わらずにそこにいる。そんな何気ないことでも、ジョーにはありがたかった。


「志麻、たぶん時間の制限がある話になると思うから、単刀直入に言う」


 大事な感慨を一旦横に置く。浸るのは後だ、今は行動する時だから。


「街が壊滅するでもなく、アスミが自爆してそれを守るでもない、第三の道だ。アスミを生かして、街も守る。まだ断言はできないけれど、可能性の断片を手に入れた。それには志麻の力が必要なんだ」

「本気、なの?」

「本気だ」


 志麻は、あくまでこちらの状況を紐解くように問うてきた。


「説明して。その可能性の断片とやらがどういったものか聞いてからじゃないと、何も言えないわ」

「分かった。全部話す。だけど、その前に志麻にも話してほしいことがある。たぶん俺も志麻も、本当にアスミを助けたい。もう、人間関係の距離感をお互いに探り合うようなゲームは終わりにしよう」


 ジョーは、志麻に対する核心の問いを発した。


「志麻は、アスミのお母さん、アリカ小母おばさんについて、アスミが知らないことを何か知っているだろ?」

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