192/真実の王
ジョーはゆっくりと立ち上がり、両腕をあげてファイティングポーズを取った。エッフェル搭の渾身の攻撃が敗れ去ったのを理解した。ジョーに残された武装は、徒手空拳のみだった。
宮澤ジョーという人間もまた、この地球に生きている「存在」だと言える。大王の能力を受ければ、自分も成す術もなく爆散してしまうのか。恐怖が背筋を駆け抜ける。
「結界系の能力」
静かなアスミの声が場に響いた。アスミも立ち上がり、大王に対して、その一挙手一投足を見逃すまいという視線を向けている。
「ほう。誤謬のその身で気づいたか」
大王の反応は、アスミの言を概ね肯定している。
「最初に相手の存在を確認する時に、結界系の能力者が使う波動が出てる。本当に地球上のあらゆる存在に勝利できるとしても、相手を己の結界内部に呼び込んだ場合、という条件付きなんだわ」
ジョーは戦う構えを崩さないまま、アスミの指摘に耳を傾ける。先ほど志麻が結界を張れなかった現象も、既に大王が張っていたより強力な結界に封殺されていたからだとしたら頷ける。
そして、ジョーなりに至った閃き。
(だとしたら、一旦結界が展開されている領域の外に逃れるか、あるいは大王が結界を維持しているオントロジカが切れるまで、逃げられたなら)
結界領域は限定的なものなのか、あるいは、街全体を覆っているといった広域なものなのか。大王が使用可能なオントロジカの量は、数時間分程度なのか、あるいは一日、二日分といった長期間保持するだけあるのか。いずれにせよ困難な道だが、それでも方策を思考できること自体が、微かではあるが希望であった。
しかし、射したかに感じられた光明は、すぐにその光を失った。
「隠すことは何もない。知った所で、何もできない」
大王は絶対の自信に満ちている。油断とも違う。ただ、何一つ偽ることなく、自身の道を突き進むことに、今までもこれからも、自分という存在にはそれができるということに疑念がないのだ。獅子が蟻に対して己の武器は牙であると説明するのに、何を躊躇うだろうかといった風情で応えた。
「我の
大王の眼光は揺るぎなく、偽りを宿した人間が見せるブレが微塵もない。
「世界四大オントロジカ集積地のフランスはパリを100。この地を10とするなら、我が世界中からこれまで集めてきたオントロジカの総量は、120万だ。地球全体の結界領域を一世紀維持できる量に相当する」
ジョーは足が震え、呼吸が浅くなった。理解が追い付かないのだ。そして、そんな理解できないほどの強大な存在が、自分や自分の大事な人をこの世から消そうと、目の前に立ちはだかっている。
「繰り返す。我が、この星が真実の中を歩み続けるための、審判を任された王だと言った意味が、分かったか」
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