166/今時の普通

 指輪がジョーにも見えるようになっていた動揺を悟られないようにしながら、アスミはペデストリアンデッキの階段を下りて、杜の街路樹が並ぶS市の栄えた地域を歩いて行く。半歩だけ後ろをジョーがついてくる。


 ジョーはまだ知らないのだ。アスミがもうそもそもこの世界にはいないはずの存在だということを。全てを伝えていない事を悪いとも思うけれど、一方でこのままが一番イイんじゃないかとも思う。アスミのどこかに、ジョーと自分との関係性がガラっと変わってしまうことに対する忌避きひ感があった。


 再び活気を取り戻している、周囲の街の風景。それはアスミが一番守りたいものだった。一方でアスミ自身はその輪の中に参加できないことを自覚する。というか、カップルが多い。


 幸せそうに道行く男女と行きかいながら、自分っていうこの世界の中では不可思議な存在を意識すると、徒然つれづれともしもの話が思い浮かんだ。もしアスミが、普通の身体の人間で、守人でも存在変動者でもなかったら。自分も、男の子と並んで街を歩き、如何に放課後や週末・長期休暇の享楽の中に身を置こうか、そんなことを考えながら生きてる女になっていたのだろうか。リンクドゥの彼氏の返信に一喜一憂する、的な?


 ジョー君は気が付いたら側にいたっていう感じだけれど、そういうのじゃないとしたら、普通の女子の、今時の男子との出会いって何なんだろう。合コン? 友達の紹介? SNS? 婚活こんかつ? ああ、主に中学の頃、同じ学校の男子から告白されたことは数度あった。母が作った人形と聖女のリボンの相性は良く、自分の外見は比較的可愛らしい女の子として他人には映っているらしい。けれど、そんなものはフとしたことで揺らいでしまう幻のようなものだと知っているから、外見のみでお付き合いしたいという男子はちょっと。丁重にお断りしてきた。


 そんな思索をしながら歩いていると、目的の公園まであと数分というところで、ジョーが声をかけてきた。


「アスミ。何か欲しいものある?」

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