165/ペデストリアンデッキ

 ジョーがS市の駅まで歩き、東口から西口に抜ける頃には、夕刻になっていた。


 そのまま二階のペデストリアンデッキに出ると、夕日の中にアスミが佇んでいた。簡素な構造と調和。S市の駅と西口のペデストリアンデッキは対外的にはS市の顏の風景であり、地元の人としては待ち合わせによく使われる場所でもあった。もっとも今は、アスミと何らアポイントメントがあったわけではないのだけれど。


「よっ」


 片手をあげて声をかけると、アスミの方も驚いていた。


「ジョー君? え? 待ち合わせとか、してたっけ?」

「偶然。東口の方面に、用事あったんだ。アスミは?」

「確認。敵が駅から来たら、どう公園まで誘導しようか、もうちょっとイメージが欲しくて」


 ジョーも油断をしているわけではないが、こういう所に人となりが出るなと思った。アスミは、何か肝心な時に備えて入念に準備を確認するタイプなのだろう。ジョーは比較的、その場で臨機応変にと構えてる方だった。柔道をやっていた頃も、試合の前に相手のビデオを見るのはせいぜい一度。行住ぎょうじゅう坐臥ざがが武というようなあり方。ひぃじーじから習っていたのが古流の柔術である影響も大きい。


 フと気になったのは、アスミの左の薬指の、夕日の反射である。


「アスミ? 指輪?」


 アスミはビクっとすると。数瞬遅れて、左手を腰の後ろに隠した。


「見えたの?」

「え? ああ」


 ジョーも、左手の薬指の指輪の意味合いを知らないわけではないが。


「聖女の仕事、手抜き? っていうか、本当にリボンだけじゃもう誤魔化せないのかも」


 独り言をつぶやくと、アスミは歩き出した。


「深い意味はないから。気にしないで。一緒に、公園まで行きましょう」


 アスミがくいっと駅から北方面を親指で指すので、戦いの場の視察について来いという意図だと理解する。


 何もなかったように、街角を行くアスミの後を、ジョーはてくてくとついて行く。

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