149/お風呂の中で
「ふー、極楽、極楽」
同時刻。N町商店街の銭湯の湯船で、エッフェル搭が一度言ってみたかったという風に声に出した。
志麻の横で、金色の髪を湯船に浸からないように手ぬぐいでまとめたエッフェル搭がリラックスしている。智識としては知っているとのことで、かけ湯であるとか、日本独特の銭湯のマナーをエッフェル搭はごく自然にこなした。
リラクゼーション施設の二階に位置するこの銭湯は、二年半前の地震の時にいち早く営業を再開していた場所だ。当時、家の断水が元に戻るまでは志麻も何回か訪れていた。あの頃の込み合った様子は今はなく、七夕の今日は志麻たちの他に客も見当たらない。
(戦艦陸奥と、エッフェル搭と一緒に入ることになるとは思ってなかったな)
もっとも、当時の逼迫した状況よりは、この不思議存在二人とゆったり湯船に浸かってるという現在の状況の方が好ましい。エッフェル搭が大事にしてるらしい価値観からすれば、自由と余裕、それらは現在の志麻にはとても素晴らしいものに感じられた。
「何? おっぱいの話の続きが気になるの?」
志麻がエッフェル搭に視線を向けていたのは、別にそういう意図からではなかったのだが。ただ、エッフェル搭さんは、裸で見てみるとやっぱり大きいなぁとは思っていた。
「じゃあ、話そうか。これ、陸奥ちゃんも聞いておくと良いよ」
「むぅ」
同じく、裸で髪を手ぬぐいでまとめてるというスタイルで、傍らで肩まで湯に沈んでいた陸奥は渋い顔をした。先ほど痴態を演じさせられたことを、まだ根に持っているのかもしれない。
「
「はあ」
「つまり、様々な局面において、あると、色々開ける」
エッフェル搭がそこまで話した所で、陸奥は湯の中を移動して、隅の方へ行ってしまった。
「それはそれとして、おっぱいの話に関係なく、志麻ちゃんは今のうちに陸奥ちゃんに触れておいた方がいいよ」
エッフェル搭が志麻の背中を押したので、志麻も湯の中を移動して、隅に退避した陸奥の背中の所までやって来る。
その無防備で華奢な後ろ姿を見た時に志麻に過った想念。志麻はまだ、ジョーの能力の核心が今一つ掴めないでいたが。
(おっぱいの話はともかく、ムっちゃんは既に失われた戦艦で、エッフェル搭さんは現在もまだパリに立ち続けている塔なのか)
陸奥は接近してきた志麻に対して首だけ振り返り、何やらいじけたように言った。
「妖怪・無いチチ・魔人に何か用ですか?」
そんなこと言われても、志麻はこれまたジョーの能力において歴史建造物が擬人化する際に、胸の大きさがどのように決まるのか分からないので何とも言えない。責任の所在は不明なのだ。
「えい」
とりあえず、陸奥の両肩に触れてみて確認する。古の戦艦が女の子として具現化しているという謎の存在だが、陸奥には体温がある。
「ひゃぁ」
何やら陸奥の体を触り始めた志麻に対して、陸奥は困惑と恥じらいの態度を見せたが、志麻は無視して陸奥の存在を確かめるように体の色々な場所に触れてみる。
至った見解は、なるほど。
(この温かさは、物理的な温度というよりも、「存在」が発している温かさなんだ)
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