• 非幸福者同盟

  • 第七話「百色の七夕」(幕間エピソード)
  • 143/N町商店街

143/N町商店街

 N町商店街が企画している「七夕スペシャルイベント、百色ちゃん現る。」の受付は、商店街のゲームショップの二階にあった。東北地方にのみ展開している系列のお店である。一階はコンシューマーゲーム関係の売り場に、カードゲームの遊戯スペース。二階は半分がアダルトゲーム売り場。そして、もう半分が今回訪れることになるイベントスペースである。受付開始五分前にして、列は二階から階段を下りて一階の入口から少しはみ出るくらいまで形成されていて、中々の盛況ぶりである。


 列に並んで待っている間、ジョーが階段の壁に貼ってあるアダルトゲームのポスターの数々を眺め、この国の二次元えろコンテンツは進み過ぎてるなと感想を抱いていると、志麻が仮説を述べてきた。


「つまり、中の人ってこと。百色ちゃん、何体もいるのよ。熊本のアレだって、最近は中に入る人をハ●ーワークで広く募集してるって聞くもの。労働なのよ。その中の人の一人が飢えていて、朝にゴミを漁っている所を宮澤君が目撃した。そんな所じゃない?」


 大まかには、何体もいるなら遭遇率も上がるはず、というようなことを志麻は述べている。しかし、その仮説にはアスミからの反論があった。


「それはないと思うわ。百色ちゃんは、何体もいないと思うもの」

「なんで、そう思うの?」

「今、N町商店街はお金がないもの。何体も着ぐるみを用意できるはずがないわ」


 アスミはキリっと、提出された証拠を反駁する弁護士のようなノリで述べたが、言ってる内容は少々悲しい話であった。しかし、ジョーとしても自宅の近所のこのN町商店街が近年は財政的にピンチなのは理解していた。近くの新興再開発地区にお客さんを取られてるとか、色々あるのだ。


 そうこうしているうちに、列が進み始める。どうやら本日の百色ちゃん探索イベントの受付が始まったらしい。


「どう?」


 二階のイベントスペースでは、本日の進行を担当しているらしいメイド姿のお姉さんが可愛い気な声でイベントの流れを説明していた。そしてその横に、当の百色ちゃんがぬらりと立っていた。近くで見ると、けっこう大きい。2メートル弱四方。心持ち、台形の体型。大人が中に入れる大きさでもある。目、鼻、口のパーツはとてもやる気がない。体の色もくすんでいて、さわやかさはない。


「ちょっと、分からない。朝に感じたような存在変動律は今は感じられない」


 朝の時点で、感じた存在変動律は曖昧なものであった。全てジョーの気のせいであった可能性もあるが、まだ早急に断定する段階ではない。例えば、中に入ってる人が現在は朝と入れ替わってる可能性もある。


 受付の順番が近づいてくる間、進行のお姉さんの説明も聞いていたが、ようはこの探索イベント、いわゆる町ぐるみのオリエンテーリングのようなものらしい。町の各所に散らばっている「百色ちゃんスタンプ」を集めるのが目的で、集まったスタンプの数で福引が引けるとのこと。当たりが出れば豪華賞品をゲットという流れである。


 ジョー達にとっては重要なことなので、一つお姉さんに質問してみた。


「イベントの間、百色ちゃんはどこにいるんですか?」

「百色ちゃんは、この後解き放たれて、イベント中は町のどこかにいます。遭遇すると何か良いことがあるかもしれないので、探してみて下さいね」


 スマイルも崩さず、応対も慣れている感じがするお姉さんである。姉のカレンもだが、この町、謎の人材が豊富である。


 もう一声聞いてみる。


「ちなみにイベント中の百色ちゃんとの遭遇確率は?」

「それは……」


 お姉さんによると、ネズミ―ランドでネズミ―に遭遇するくらいとのこと。中々レアということか。そして、お姉さんの言い回しに滲み出ているニュアンスを汲み取ると、どうも百色ちゃんは一体しかいないらしい。そこは、アスミ説が正解か。


 受付まで進むとイベントの参加は二人一組だと言われたので、自然と並んでいた順番のままジョーとアスミの名前をペアで書いてしまった。特に深い考えも無く後ろに並んでいた志麻だが、自分が孤立しそうということで不平を口にする。


 目の前の百色ちゃんからは何らやる気は感じられないが、一応戦闘になる事態も想定して、人選は後で陸奥を呼び出して志麻とペアを組むということになった。後でお友達が来るということにして、先に名前だけ受付用紙に書いておく。


 さて。


 受付を済ませ、ヒントが描かれた地図とスタンプラリーのカードを受け取った後、一旦建物の外に出てきた三人だったが、しばらく探偵が容疑者を尾行する趣で隣のビルディングの影に隠れつつ、たった今出てきた階段を注視する。もちろん、百色ちゃんを追うためである。町で偶然遭遇するよりも、出てくる所を押さえてしまおうという作戦である。


 しかし、受付に並んでいた人の列がなくなってしばらくしても、百色ちゃんは出てこない。


「おかしいわね?」

「私、ちょっと気が緩んでいたかも。さっき、百色ちゃんの背後に機械鼠の一匹くらい仕掛けてくれば良かったのだけれど」


 どうでもイイが、なんか芸能人の「出待ち」をしているファンみたいだな俺達、なんてジョーは思う。


 さらに数分が経過し、告知されていたイベント開始時間もしばらく過ぎてしまったので、しょうがないのでもう一度階段を登って、先ほど受付を行ったイベントスペースを訪れてみる。


 しかし、そこにはもう百色ちゃんの姿はなかった。


 一人その場に残っていたお姉さんに尋ねてみる。


「あの、百色ちゃんは?」


 メイド姿のこの手の運営に「慣れてる」感じのお姉さんは、まったくもって非常に「慣れてる」スマイルで答えてくれた。


「百色ちゃんは、既に町に解き放たれました。あとは、出会えるのを祈りながら町を探索してみて下さいね」


 おかしいな。出入口は見張っていたのだけど、などと思いながら三人で顔を合わせる。


「あの四角いの。やる気なさそうに見えて、意外とやり手なのかもしれないわ」


 志麻が真顔で述べる。これは、百色ちゃんにこちらの想定の上を行かれた形である。


「しょうがないから、とりあえずムっちゃんを呼び出しましょうか」


 アスミが言うので、再び外に出て建物と建物の間の影にまで移動し、ジョーは陸奥を呼び出した。


 立体魔法陣から、最初からアスミに借りてる私服モードで現れた陸奥は、ある程度あちらの世界でこちらの状況を把握していたのか。親指と人差指で輪を作って眼鏡を模し、自分の目に当てて言った。


「何やら、町に不思議な存在が現れたとのことで。私、そういうの探すの、得意ですよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!