127/蒼い稲妻

 ジョーもまた、自身が呼び出したエッフェル塔の勇姿に目を奪われていた。概念武装で呼び出したオルレアンの聖女の剣を片手に飛翔する姿は、『翼』を連想させた。いつからだろう。大巨神は。あるいは世界は。我々に、地を這え、屈服せよ、と重い鉛を背負わせ、足には奴隷の足輪をはめることを強要してきた。そんな大きな力に対して、彼女は決然とそれは違うと。私は飛ぶのだと、その背中で道を示しているかのよう。


 大巨神が、強大なる自我でエッフェル塔に向かって吼えた。言葉が地鳴りとなり、その場の弱き者達を恫喝どうかつせんとするように。


「這いつくばれよ、女ァッ」


 だが、エッフェル塔の推進は何ら揺らぐことがなかった。彼女は燦然さんぜんと言い返えす。


「古いよ、アンタ!」


 テンマ・ソウイチロウを動かす駆動力。己以外の全ての存在に価値はなく、己の意のままに淘汰されてしかり。そんな剛毅ごうきの元、本日三度目の凝縮熱線が大巨神の口から吐き出される。


 ところがだ。そんな力に、この身に宿した『意味』は何ら消されはしないさとばかりに、エッフェル搭はヒュウと一息吐いてから銀色の剣を構えると、そのままビーム状に降り注ぐ大凝縮熱線を斬撃で分断し、飛翔を続行する。元愛護大橋の結界空間内の天と地に熱線のビームが分割される中、その中心を大巨神の本体めがけて突き進んでいく。


 天で爆発、地でも爆発の中、揺れる空間でジョーも思わず一人ごちた。


「豪快な、お姉さんだな」


 エッフェル搭はそのまま突撃し、大巨神の熱線の発射元である口にその剣を埋め込もうかという勢いだったが、そこは大巨神が回避行動を取った。スウェーで頭の位置をズラしたために、エッフェル搭の剣は大巨神の肩口に突き刺さる。


 次の瞬間には、先ほどから繰り返されている、いかなる原理の技なのか、大巨神の肩口はぜ、そのマグマの筋肉が光の粒子に解体されて吹き飛ばされていた。


 めくるめく攻防、もといエッフェル塔の突進を横目に、ジョーもとりあえず移動を開始する。まずは、エッフェル搭が助けてくれた向こう岸にいるアスミと志麻と合流しよう。


 マグマの大巨神と蒼い稲妻のエッフェル塔がぶつかり、天に雷鳴響く中、ジョーはS市一級河川に飛び込み、改めて自分にとって大事な人間だったんだと気付いた二人の元へ向かって泳ぎ始めた。

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