120/私が終わる頃

 志麻は目を覚ますと、自分の上には壊れた世界が広がっていた。機構物、構築されたものの残骸が、自分の周囲に散乱している。いつか見た光景。今度の、それらの壊れてしまったものは、自分が生み出したガンディーラ、元をたどれば愛護大橋の残骸であると、少し遅れて気が付いた。


 下半身に重い残骸が乗っていて、物理的な身体能力では動けない。遠く空を見ると、大巨神に捉えられたアスミの姿があった。


「リ、エンゲージメント」


 もう僅かも残っていない最後の意志力で口を動かす。自身の上に乗っている機構物の残骸をもう一度再構成して取り除こうとしたのだ。


 しかし、本質能力エッセンテティアは発動しなかった。


 その事態に対して、どこかで志麻は納得してしまう。自分にまつわる全てが「途切れた」という感覚が腑に落ちる。


(ガンディーラ、大暴れさせちゃったしな)


 オントロジカについて、自分はまだよく知らないようだ。だが、この地に集積しているオントロジカから、自分に割り当てられた分は終わったのだと理解できた。オントロジカが奇跡を起こす源のようなものだとしたら、自分が守人としてその力を使って能力をふるってきた分、どこかの誰かに奇跡が割り当てられないことを意味していた。その奇跡の力を使って人々を守るために戦うのならばともかく、一時とはいえ破滅の意志に任せて、あるいは街ごと焼き払おうとまで思ってしまっていた。自分なんて人間に割り当てられた奇跡の分量はとっくに終わっていると考えるのが妥当だった。


(報い、か)


 志麻は空に向かって手を伸ばした。体も動かず、能力も行使できない。あと、自分にできるのはそれだけだったから。暗闇の中で光を求める生物の本能のように。掌の先の空にはアスミという光があった。


(でもせめて、アスミは助けたかった。アスミを悪く言われたのは許せなかった。でも私はどこかやっぱりバカで。本当に、ゴメンね)


 大巨神の握力の前に、間もなくアスミという志麻にとっての光も消えてしまう。


 どちらが先かは分からないけれど、やがて志麻にもトドメの鉄槌が振り下ろされるだろう。自分の命も最後かという段になって、志麻の脳裏からは、あらゆる表層的な装飾や余剰は消え去っていた。こういう時、最後に残る想念は、友達のこととか、それくらいなんだって、どこか他人ごとのように志麻は考えていた。

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