111/機械の怪獣と巨大な蝶

 目の前に敵がいる。志麻は焦点が定まらぬまま宿した光だけは鋭利な瞳で、前方で羽ばたいている巨大蝶を視認する。ならば進め。ならば殺せ。


 志麻を肩口に乗せたまま、竜型機構怪獣ガンディーラは前進を開始する。重厚な歩みを開始した際に、足元の二体の三メートル級怪人が踏みつぶされる。そんな事柄、意にも介さないとでもいうように、S市一級河川の水をかき分け、ガンディーラは歩を進める。機械の体は、あらかじめ決まった意志を遂行するのみと言わんばかりである。


「死んで!」


 呪詛が籠ったような強い志麻の言葉と共に、二度目の放射大火炎がガンディーラの口から放たれる。


 しかし空間に水平に放たれたその大火炎を、巨大蝶は俊敏に羽を動かし、旋回して避ける。河川敷の草木に再び着火して周囲の火の勢いが増す中、回避行動の後に再び上昇してきた巨大蝶の上に乗る蝶女王と目が合う。


(まずはアレを。アイツを撃たなくては)


「機構兵装・主砲」


 志麻の薬指の「蒼影」がひときわ強い「透明に近い青」の存在変動律を放つと、ガンディーラの腹部が窪み、中から巨大な機械の砲塔が迫り出してくる。フォルムはどこか西洋的でもあり、近未来的でもあった。この国の古の戦艦の主砲が大砲の延長にあるものだとしたら、このガンディーラの主砲はそれとは発想の起源がまた違う、レイザーライフルに属するような趣である。


はやさが自慢なら、それ以上の速度で撃ち落してあげる)


 照準をズラすように再び旋回する巨大蝶に対して、睨みつける志麻の眼光はこの時、狙撃手のそれであった。


「本っ当に」


 志麻のイメージが、一瞬先の未来、光の線が巨大蝶を撃ち落す映像をロックオンする。やってやる。その一念のみで、躊躇わず想像力の引鉄を引く。


「死んで!」


 ガンディーラの主砲は放たれた。口から吐き出していた大火炎とは違う、凝縮された、超速のレイザー砲。


 結果は一瞬で立ち現れた。羽を羽ばたかせる間もなかった巨大蝶は、レイザー砲の直撃を受け、文字通り撃ち落された。次の瞬間にはスパーク現象が発生し、二十メートル四方の巨大群体として成り立っていた巨大蝶は、稲光の中、焼き尽くされていく。千か、万か、蝶女王に使役されていた蝶の群れは、最後に身を焼かれる光という美しさをもって、その生命を消滅させていく。


(やった、か?)


 息切れで肩を上下させる志麻は、散っていく蝶たちの光を胡乱な瞳で確認する。


 だがしかし、自分が引き起こした結果を咀嚼する間もなく、事態は次へと進んでいく。ともすれば綺麗な焼かれる蝶達の光が降り注ぐ中、その真下から、黒い、魔的な何かがせり出してくる。


 光を分断するように立ち上がってきたその巨大な存在は、この地獄の中でも衰えない力強さを携えている。十メートル級、大怪人テンマであった。


 何ということか、テンマの肩口にはいまだ蝶女王も存在している。その事実を確認した志麻は、気勢を緩めることなく、主砲の第二射に移ろうとする。


 しかしそこで、全身に体の細胞の隅々まで鞭打たれたような激痛が走る。


 気がつけば、志麻は口元から血を流していた。


(「蒼影」を、使い過ぎた、か……)


 見れば、蝶女王も無傷ではない。ガンディーラの大火炎によるものか、先ほどの主砲によるものか、身に着けていたアオザイの肩口は焼かれ、頬には火膨れが出来ていた。


 互いに代償を払って否定し合う女が二人。相対する巨大怪獣と巨大怪人は、それぞれ地獄の獣と亡者のごとき風景である。地獄の住人を使役する女二人はともすれば可憐に、平穏にも生きられたはずで、この破滅の風景の中では存外に華奢きゃしゃに見えた。

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