• 非幸福者同盟

  • 第四話「サヨナラの色」(後編)
  • 102/大事に使っていこう

102/大事に使っていこう

「ジョーさん、アスミさんを頼みますっ」


 傍らで膝を折って座り込んでいるアスミをジョーに託すと、陸奥は胸の徽章きしょうに手を当て、ぐぐっと体を前傾させる。


 胸元から赤い光が発せられると、陸奥の上方に収束していき、再び現れたるは白銀の日本刀、菊一文字であった。陸奥は右手で刀を受け取ると、手首だけでスナップを効かして慣らすように一度振ってみる。


 一方でジョーは座り込んでいたアスミを、肩を貸す形で立たせた所でギョっとする。何か、軽い。普通、人間に肩を貸して引き起こせば、もっとずしりと自分の体にも重力がかかるものなのだが。およそ柔道や祖母の介護で慣れ親しんできた、生きた人間の体重を支える感覚が伝わってこない。例えるなら、幽霊に肩を貸しているような。


「ジョー君、あと六分六十六秒だから。体をお願いね」


 再び驚いたのは、口を開いたアスミの声の調子はいつも通りだった点である。


「その状態でも、言葉は喋れるんだな」

「うん。でも月の力が満ちるまで、体の方はダメ。しばらくの間、何とか逃げ回って」

「分かった。じゃあ悪いが、おぶるぞ」

「お願い」


 アスミを背負い、いわゆる「おんぶする」形になるが、引き続きアスミからは体の感覚が伝わってこない。生身の人間ではなく、透明な人型の何かをおぶってるだけのような。


「ジョーさん、あちらの世界に戻っている間、私なりに考えていました」


 陸奥の声で、再び戦場に意識が戻る。鉄人間を破壊し終えた怪人達のうちの、三・四メートル級の六体がじりじりとこちらに歩を進めてきていた。


「概念武装・副砲」


 陸奥は刀を地面に向けると、一、二、三、四と、四個の赤く輝く球体を生み出した。この技自体は、昼の戦いでも見たものだが。


「昼は十六個で私が消滅してしまったので、とりあえず四個で。そして……」


 陸奥は、地面で発光していた球体に向かって、一歩踏み込むと、そのままサッカーボールを蹴るようにトゥーキックを放った。


「こう使います!」


 こちらに向かって来ていた三メートル級怪人のうちの一体のドテっ腹に、陸奥の副砲のシュートが直撃する。怪人は威力で数メートル吹っ飛んだが、昼間と違うのは「副砲」の球体がそのまま雷になって飛散しない点である。「副砲」は、怪人の腹からボール状の形状を維持したまま、空中へと跳ね返ってきていた。


「そしてこう!」


 そのバウンドして返ってきた空中の副砲に向かって、陸奥は脅威の跳躍力でジャンプすると、天空でオーバーヘッドキックを合わせた。


 陸奥の放った、オーバヘッド・副砲・シュートが再び一撃目を受けた怪人の顔面に直撃すると、怪人は再び吹き飛び、やがて地面に伏したまま動かなくなった。副砲ボールは、また陸奥の足元に戻ってきている。


「これは、現世の特にジョーさんの記憶から着想を得た作戦です。リソースが足りないのだとしたら、一発で景気よく爆発させちゃうんじゃなくて、大事に何回も使っていかないと。えーと、リ、リ……」

「リサイクル?」

「それです」


 リサイクルという概念もサッカーのプレイスタイルも、ジョー自身はそこまで意識したことがない事柄であったが。ただ確かに、物は大事に使おうと思ってる方だし、三年前のワールドカップはまだ余裕があった頃でもあり、幼いながらにワクワクとテレビ観戦はしていた。


「では、ジョーさんにも一発託しますので」


 陸奥がそういって、副砲のうちの一球をサイドキックでパスしてきたので、右足で受け止めた。爆発させずに球体を維持したままでもかなりの威力があるのは今見た通りである。この一発で、ジョー自身の身も守れということだろう。


「陸奥」

「はい、何でしょう」

「俺、サッカー……っていうか集団でやるスポーツ全般苦手なんだけど」

「頑張って下さいっ」


 陸奥はそうとだけ言い残すと、赤いスカートをひらめかせ、器用に三発の副砲を蹴り込みながら、右手には日本刀という状態で、迫りくる怪人たちの群れに走って行ってしまった。


 ジョーとしても、背中にはアスミを背負い、足元にはサッカーボールのような武装という、慣れない状態であった。アスミをおぶっているため両手が使えない状況なので、足で攻撃できるということは、良いことと言えば良いことではあったが。


 ジョーがぎこちなくドリブルを開始した時点で、アスミの『ハニヤ』発動までに必要な時間は五分五十五秒になっていた。

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