• 非幸福者同盟

  • 第四話「サヨナラの色」(後編)
  • 100/三体の怪人

100/三体の怪人

 ここまでが数十秒の攻防である。


 大橋の北側に各々に受身を取りながら着地したジョーとアスミは、橋の中央までは数十メートルの距離にいた。


 志麻の加勢にと駆け寄ろうとした時である。超女王の能力で変化させられた男。否、怪人の一人が、志麻が作り出した鉄人間の一体に向かってボディーブローを放つと、その一撃はやすやすと鉄の腹を貫いてしまっていた。


「あれ。一体一体が牛人になったインヘルベリア先生並みの強さだわ」


 アスミが片手でジョーを制止しながら、苦々しくつぶやく。


「特に、あの三体がヤバい」


 アスミはジョーよりも相手の存在変動律を感じ取る能力が高いのか、明確に怪人のうちの三体を指し示した。


 とはいえ、ジョーにも視覚的に分かる。十メートル級の大怪人が一体。七メートルほどの怪人が二体。大きさ順に上から三体、他の怪人がせいぜい三~四メートルなのに対して、確かにその三体は凶悪な感じだ。


 そして、一番強大な大怪人の暗い眼光には既視感がある。あの突出した大いなる異形は、「この街で最も優れた男」、天魔がその存在を変化させた「大怪人テンマ」であった。


「ジョー君、作戦二に移行。私は『ハニヤ』の準備に入るから、七分七十七秒、私の体をお願いね」


 アスミの決断は早い。ジョーがそれはつまり「八分と十七秒」ということだな? と聞き返す間もなく、アスミは糸が切れた人形のようにその場に膝を折って座り込み、動かなくなった。


 作戦二は、アスミと志麻から前もって伝えられている『ハニヤ』と呼称されるアスミの奥義の使用である。その技を使用するためには、一定時間無防備で「月の光の力」を身体に蓄積する必要があるという。その間のアスミの護衛をジョーは言いつかっていた。


(その『ハニヤ』ってやつが起動できれば、何とかなるのか?)


 ちなみに、作戦三はない。もう既に追い詰められているのか。ジョー自身も、アスミの体に負担がかかると志麻が頑なに反対していたその『ハニヤ』を使用する現実は、訪れなければイイと思っていた。


 だが、目の前には既に一体、三メートル級の怪人がアスミに向かって駆け出している。アスミが即座に自身の体のコントロールを放棄しハニヤの準備を始めたのは一分一秒を惜しむ純粋な危機感からだったが、ジョーとしては、その間体を守ってくれるジョーへの信頼と受け取った。だとするならば、ジョーには信頼に応える方法なんて、一つしかない。


 怪人のかぎ爪がアスミに振り下ろされんとする時、時刻はちょうど午前零時の秒針を刻んだ。


「『共存・コ・イグジス開始テンス・オン!』」


 ジョーが掌をアスミに向けて叫ぶと、怪人の一撃を受け止めるように紫の立体魔法陣が出現する。


 目をこらせば、怪人の太い腕を、紫の球体から伸びた華奢な掌が受け止めていた。


「どうりゃっ」


 中から現れたるは、赤い和装を纏ったいにしえの戦艦。昼間に消えてしまってから、随分と長い間見ていなかった気もする。陸奥は怪人の腕を引きつけつつ、残ったもう一方の手で拳を握ると、十分に反動を効かせたアッパーカットを怪人の顎に撃ち放つ。足が地面から浮くほどに衝撃が迸った怪人に向けて、二撃目。斜め前方に向かって旋回しながらの、宙に浮いた相手に振り下ろす旋風かかと落とし。浮いた巨体が、今度は地面に叩きつけられる。


 怪人はそのまま動かなくなった。一方でこちらは志麻の鉄人間が既に一体撃破されている。残るは。


 こちらが、ジョー、、アスミ、志麻、陸奥、鉄人間八体。あちらが、超女王と十一体の怪人。奇しくも、戦闘は十二対十二の局面に入った。

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