74/収奪

 ジョーは超女王の話を聞いて自分なりに考えてみたが、ピンときたかピンとこなかったかと言えば、ピンとこなかった。何故って、ジョーは年齢のわりには、悲しい出来事が起こった場所や、悲しみの中にいる人々を沢山見てきた男だったから。


 そんな中の一人は、姉のカレンであった。


 ジョーは超女王の能力が発動して以来、ゾンビのように立ち尽くしている暮島さんに視線を向けた。こうして使役されてしまっている以上、暮島さんも今では超女王に魅了されてしまった一人ということになる。だとしたら、そんな暮島さんに惹かれていたカレンは。


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 数刻前。アンナお祖母ちゃんを午後のお昼寝のためにベッドに寝かせ終わったカレンの元へ、メールが届いていた。


 送り主は暮島さんで、内容は、懺悔と、別れの言葉で埋まっていた。


 自分が弱い人間であるという懺悔と、カレンへの気持ちはそれゆえの代償行為であったということ。そして、より魅力的な別の異性に溺れてしまった、自分がどうしようもない男であること。


 カレンは木の椅子にメイド服姿のまま座って、マンションの窓から空を見上げた。


 別に今までもあったような話。カレンへの感情が、より魅力的な異性によって上書きされただけ。たとえばカレンがアップするネット動画が、一瞬で消費され、これ以上は見る価値がないと判断され捨てられて、受け手の興味は次のより魅力的な動画に移っていくように。


 こんなこと、慣れてるはずなのに。でも何故だろう、今回はとても苦しい。


 カレンはそのまま、ドサリと床に崩れ落ちた。いけない、私が倒れたらアンナお祖母ちゃんが困る。家族が困る。


 でも何だろう。きっとこの先イイこともないし。お金もないし。結婚なんてできないだろうし。ネットアイドルだって、別に私じゃなくても代わりは沢山いるし。私のような存在が死んでも、誰も困らないし。


 カレンの左胸から、淡い光源が浮遊してくる。それこそが人が持つオントロジカであり、それはジョーと同じ淡い紫色をしていた。


 そして、紫の光は静かに消滅する。


 誰か、より強い人間に、収奪されてしまったのだ。


 マンションの板張りの床に倒れ伏したカレンは、折れた百合のようだった。


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